釜石思う心今も… 小樽「旅するピアノ」8度目の訪問コンサート 元仮設住民らと交流継続
北海道小樽市出身者でつくる被災地応援プロジェクト「旅するピアノ」(佐藤慶一代表)のメンバーが今年も釜石市でコンサートを開いた。2016年、東日本大震災の被災者が入居していた平田第6仮設団地を初めて訪問。以来、音楽を楽しむ時間を届け続けるメンバー。その寄り添いの気持ちは今も変わらない。8度目の訪問となった今回は大只越町のカトリック釜石教会を会場にし、集まった約30人を新たな趣向で楽しませた。
3日、プロジェクトメンバー7人が来釜。「ピアノでつづる賢治童話の世界」と題したコンサートを繰り広げた。小樽で新聞記者をしていたこともある盛岡市出身の歌人石川啄木(1886-1912)の短歌に曲を付けた「初恋」を、畠山典之さんが歌って幕開け。三浦明子さんと関口ゆかりさんがピアノの独奏を披露した。今回初めての企画も。花巻市出身の童話作家宮沢賢治(1896-1933)の「どんぐりと山猫」を畠山さんが朗読し、三浦さんと関口さんがピアノ伴奏や間奏で物語の世界観を表現した。
同プロジェクトは小樽潮陵高出身(1990年卒)の岩森勇児さん、野瀬栄進さん、山中泰さんが中心となって進めた東日本大震災復興支援活動が始まり。北海道などでチャリティーコンサートを行った後、2016年2月、初めて釜石市を訪問。平田第6仮設団地内の集会施設「平田パークホール」でピアノコンサートを開いた。ニューヨーク在住のジャズピアニスト野瀬さん、小樽市在住のクラシックピアニスト三浦さんが演奏し、仮設生活が長引いていた被災者らに元気と癒やしを届けた。釜石とのつながりを作った建築家の岩森さんは住民の声を聞き、ホールで使う木製の簡易ステージを製作。団地自治会役員らと一緒に作業し、心を通わせた。
これを機に毎年、釜石を訪問し、幼児施設や公民館、教会などでコンサートを続けてきたメンバーら。訪問後は、小樽市民に被災地の現状を伝える活動も行ってきた。新型コロナウイルス禍で3年間は活動できなかったが、昨年から復活させている。
今回、会場には1回目のコンサートが開かれた平田第6仮設の元住民らが多数訪れた。市内の復興住宅で暮らす人、自宅を再建した人、市外に移住した人…。それぞれ異なる環境で生活する人たちは久しぶりの再会となった人も多く、同窓会的な雰囲気も。コンサート後はメンバーとも会話を弾ませ、思い出話に花を咲かせた。平田の復興住宅に暮らす女性(80)は「懐かしい顔が見られてうれしい。年を重ねると出かけるのもおっくうになりがち。こういうきっかけがないとなかなかね…」と話し、(震災から)13年という年月の経過をあらためて実感した。
ピアノの三浦さん(55)は初めて被災地に足を踏み入れたのが8年前の釜石訪問。被災から5年たっても仮設住宅で暮らす現状に衝撃を受けた。自分たちを温かく迎えてくれる住民と接し、「今回だけなんてありえない。喜んでくれるのなら継続しなければ」と思うようになった。他のメンバーも同じだった。「毎年お会いする中で元気な様子は見えるが、心には今も計り知れないものを抱えていると思う。これからも寄り添い続けたい」と三浦さん。
岩森さん(53)は仕事の拠点がある静岡県から駆け付ける。「訪問の半年前にミーティングをして企画を練る。ステージは年々バージョンアップし、私たちは釜石の皆さんに育ててもらっている感がある」と話す。建築の技術を生かし、被災地(釜石、大槌、陸前高田など)訪問のたびに木製ベンチやテーブルなどを作る活動も続けてきた。木工品は仮設住宅や復興住宅、公共施設などで住民のコミュニティ―形成に役立てられてきた。今回は製作済みのベンチ5脚を持参し、希望者に引き渡した。これまでに製作したベンチは累計で50脚に上る。岩森さんは「(被災した)皆さんの生活も少しずつ落ち着いてきた印象。それでもメンバーからは『何年を区切りに』という話は出たことがない。被災者と支援者ではなく市民同士、長く縁をつないでいければ」と願う。