【特集記事】つけもの処 本長 漬物蔵見学 (山形県鶴岡市)|ユネスコが認めた食文化が息づく場所
ユネスコ食文化創造都市に認定された山形県鶴岡市にある「つけもの処 本長」。
本長は、創業者 本間長右エ門が出会った粕漬 (奈良漬)が原点です。
・酒どころ大山で生まれた粕漬の名店
鶴岡市大山といえば、「吟醸王国やまがた」の中でも有数の酒造りのまちです。
今でこそ漬物として有名な本長ですが、130年以上前は酒蔵でした。
本長の歴史は1897(明治30)年まで遡ります。
日本酒三大名所の一つ、兵庫県の灘に酒造りの見習い奉公に行っていた創業者の本間長右エ門は酒粕で漬けた「奈良漬」に出会います。
そのおいしさに惚れ込んだ本間長右エ門は大山に戻って地場の野菜を酒粕に漬けこみ、1908(明治41)年本長の「粕漬」づくりをスタートさせます。
これが、つけもの処 本長の起源です。屋号の「本長」も創業者の本間長右エ門からつけられたそうです。
・世界が認めた鶴岡の在来野菜が息づく場
つけもの処 本長が積極的に扱っているのは地場の作物、いわゆる在来野菜です。
これらの在来野菜は、鶴岡の食文化を語る上では絶対に欠かせません。
鶴岡市がユネスコ食文化創造都市に認定された背景にあるのは、60種類以上もの在来野菜の存在です。
三方を山に囲まれ、日本海に面していたために、物資や情報の伝達が難しかった庄内地方。
その風土ゆえに、鶴岡の地で育まれ脈々と引き継がれてきたのが在来野菜なのです。
鶴岡の風土に合っていた在来野菜は、地球温暖化の影響もあり以前より栽培が難しくなっているといいます。
つけもの処 本長では、農家の方がこのような状況下でも丹精込めて作った在来野菜を丁寧に加工し、より多くの方に庄内の食文化を知ってほしいと漬物を販売しています。
つけもの処 本長では、無料で漬物蔵の見学(2日前までに要予約)ができます。
筆者も社長の本間光太郎さんに漬物蔵を案内していただきました。
① 酒粕の貯蔵庫
最初に案内していただいたのは、粕漬作りで重要な酒粕の貯蔵庫。
建物のなかに入った瞬間に酒粕の匂いが鼻をくすぐります。
この大きなタンクの中に、酒粕が保存されています。
春先になれば、新酒の時期。タンクに貯蔵される酒粕も新酒の解禁に合わせて入荷し、約1年かけて熟成させます。
② 塩漬け
次に訪れたのは、野菜の塩漬けを行う部屋です。
この部屋から漬物づくりの行程がスタートします。
本長では、今でも木樽を使って漬物を漬けています。この樽はなんと深さ2m。
写真のように、樽の中に入って漬物を漬けるのだそうです。
木樽の容量は約3t。
2日間かけて、機械を使わずに野菜を塩漬けします。
③ 漬替え
木樽で塩漬けした野菜は、漬替えの行程へと移ります。
塩漬けされた野菜は、飽和食塩水 (常温で約26%)とほぼ同じ濃度になっています。
高い塩分濃度に漬けられた野菜は長期間保存できますが、あまりにも塩辛く食べられるものではありません。
そこで、野菜の塩分を抜く漬替え作業を行います。
本長の定番商品である粕漬では、漬替え作業で酒粕を使います。
漬替え作業をしているときには、見学もできるそうです。
④ 熟成
複数回の漬替え作業を経て、漬物は熟成の工程に入ります。
酒樽を利用して熟成させている光景は、元酒蔵の本長だからこそ見られます。
この酒樽の中は、かさがぐっと小さくなった漬物で満たされているのだそうです。
本長の漬物づくりや在来野菜について知れば知るほど「おいしい漬物を味わってみたい」と思うはずです。
本長では旬の在来野菜の漬物を店頭販売しているため、気になった漬物を購入できます。
本間さんとのお話のなかで特に気になった在来野菜の漬物をご紹介します。
① 温海かぶ甘酢漬
在来野菜の漬物の代表格ともいえる「温海 (あつみ)かぶ」
真っ赤な皮がついたままの温海かぶを甘酸っぱい醸造酢にじっくりと漬けこむことで、目でも楽しめる鮮やかなピンク色の甘酢漬が完成します。
温海かぶは今も伝統的な焼畑農法によって作られています。
山間部の斜面にある草木を焼き、灰を肥料として活用するサステナブルな農法です。
焼畑によって害虫も駆除できるため、無農薬で栽培できる点も温海かぶの特徴です。
本長の温海かぶ甘酢漬けは、東北漬物協会長賞を受賞した銘品。
優しい味わいで、食べやすい一品です。
つけもの処 本長 オンラインショップより引用
② 民田茄子のからし漬
マスタードイエローがひときわ目を引く漬物は、民田(みんでん)茄子のからし漬。
民田なすとは鶴岡市民田地区で栽培される小ぶりの丸茄子です。
民田茄子のからし漬けはメディアで取り上げられる機会も多いため、目にしたことのある人もいるのではないでしょうか。
筆者は今回、初めていただきました。
ツーンとした辛さが鼻に抜けていく、大人の味の漬物です。
パリッとした皮を噛むと、塩味と辛味が合わさった茄子の水分が口の中いっぱいにあふれ出します。
辛味が苦手な方は水で辛子を洗い流し、キッチンペーパーで拭いてからいただくとちょうど良い辛さ加減になるそうです。
塩気が強い民田茄子のからし漬で、庄内のおいしいお米を何杯でも食べられそうです。
③ 藤沢かぶのたまり漬
かぶはかぶでも、温海かぶとはまったく異なるビジュアルの藤沢かぶ。
長さ15cmほどの細身で、小ぶりの大根のようなかわいらしい見た目の野菜です。
酒粕とたまり醬油の調味液で漬けるのも、本長のたまり漬ならではの味わいです。
開封した途端にあたりに広がる酒粕の香り。
本長での漬物蔵見学を想起させます。
民田茄子とは一味異なるパリッとした食感の皮に、カリッカリッと食べ応えのある実。
たまり醤油の味つけの奥にほんのりと酒粕の風味が感じられます。
産地は数キロしか離れていないのに、同じ「かぶ」でも温海かぶとは違う食感に驚くとともに庄内の食文化の奥深さを感じました。
社長の本間光太郎さんからVISIT YAMAGATAの読者の皆さまへメッセージをいただきました。
鶴岡市には日本でも珍しい食文化があります。その一つが在来野菜です。在来野菜を使った漬物をぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
鶴岡に来れば在来野菜を使った漬物だけでなく、食文化そのものも体験できるので、ぜひ鶴岡に来て楽しんでほしいと思います。
在来野菜を使った漬物は、地元の方にもおすすめしたい商品です。「普段の食卓に在来野菜を使った漬物が上がっている」そんな光景が庄内でも広がれば、と願っています。
<漬物蔵見学>
【予約制】
営業時間:9:00~16:30
料金:無料
見学所要時間:約30分(見学・試食・買物)
つけもの処 本長
〒997-1124
山形県鶴岡市大山1-7-7
0235-33-2023