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ふくらPが東工大を中退しYouTubeチャンネル「QuizKnock」を誕生させた話

スタジオパーソル

クイズ王・伊沢拓司率いる知識集団『QuizKnock』のメンバーであり、クイズ作家・クイズプレーヤーとして活躍するふくらPさん。YouTubeチャンネル『QuizKnock』ではプロデューサーも務めています。テレビ番組や動画で謎解き・パズルをすいすい解いていく姿は、視聴者のみならず『QuizKnock』メンバーをはじめとするクイズのプロたちをも圧倒しています。

ふくらPさんが『QuizKnock』へジョインしたのは、大学休学中のこと。「大学卒業」か「好きなことを仕事にする」かの二択を迫られたとき、ふくらPさんは後者を選択しました。

人生の岐路に立ったその瞬間、ふくらPさんはどういったことを考えていたのでしょうか。また、ふくらPさんがクイズに没頭するきっかけとは?生い立ちから現在に至るまでを伺いました。

テレビのクイズ番組に没頭した小中学校時代

「幼少期からパズルが好きだった」というふくらPさんが、クイズや謎解きの世界へどっぷりと浸かるようになったのは小学生のころでした。

「テレビの前で家族と一緒に答えを予想する時間が好きでした。『クイズ!ヘキサゴンⅡ』が好きで、番組で出題されたときに答えられるよう、物事の正式名称などを覚える習慣がついて。たとえば小5のときに野球チームの『楽天』が誕生したときも、ちゃんと『東北楽天ゴールデンイーグルス』って言えるようにしていました」

遡ると小学校低学年のときから、気になることをなんでも両親に質問していた、というふくらPさん。クイズ番組を観始めたことで、両親への質問の難易度も上がっていきました。困り果てた両親は、あるときふくらPさんへ辞典を4冊プレゼントします。

「分からないことを調べるために、自分で辞典を開く習慣が身につきました。でも調べたいことがあってページをめくるうちに、ほかの面白そうな項目が目に入るんです。

とにかく1つのことを調べてページをめくると、次に書いてある項目も気になって読む。そうして辞典を読む手が止まらなくなっていましたね。続きを明日読むために辞典に栞を挟んだりもしていました」

進学した公立中学では、理科の先生からも「博士」と呼ばれていたふくらPさん。クラスでは自作のクイズを出題し合う「クイズ仲間」にも恵まれます。

「当時はヘキサゴンだけではなく、『IQサプリ』や『雑学王』、『サルヂエ』など、さまざまな番組を観ていました。雑学を紹介する『トリビアの泉』や『タモリのジャポニカロゴス』も好きでしたね。

空前のクイズ番組ブームだったので、ぼくと同じようにクイズ番組が好きな友達がクラスに何人かいて。仲の良い友達とは『順番に雑学を発表し、自分以外が知っている雑学だったら負け』みたいなゲームもやっていました。

一方で、その当時はまだ『クイズを仕事にしよう』という発想はまったくありませんでしたね。明確な夢がなく、進路指導の時間は苦手だった記憶があります」

夢に見た『高校生クイズ』への出場

中学卒業後は地元の高校へ進学したふくらPさん。引き続き将来の夢は模索中でしたが、「高校生になったら挑戦したいこと」がありました。それは毎年夏に開催される、高校生を対象としたクイズの全国大会『全国高等学校クイズ選手権(以下、高校生クイズ)』への出場です。

ふくらPさんが『高校生クイズ』に憧れるようになったのは、中学3年生のとき。2008年に開催された第28回大会の様子を、テレビで観たことがきっかけでした。

「通常の『高校生クイズ』で出題される問題は『知力・体力・時の運』と呼ばれ、知識だけでは勝ち抜けないような形式なんです。

ただ第28回だけは運や体力が試されるルールが排除され、知力だけが問われる特殊な大会でした。そのときに出場していた選手たちの姿をテレビで観て、めちゃくちゃかっこいいと思ったんです」

高校の入学式当日、クラスメイトを前に「『高校生クイズ』に出る仲間を募集しています」と宣言したふくらPさん。しかし高校生活1年目では出場を断念してしまいます。

「ぼくが進学したのは、難関大学進学を目指した学年唯一の特進クラス。クラスメイトのほとんどが部活にも入らず、受験勉強に勤しむような学級でした。だから『高校生クイズ』へ出場するための校外活動届を職員室へ持っていっても、先生に『そんな暇があるなら勉強しろ』と活動を反対されてしまいました」

しかし、その年の『高校生クイズ』を家で眺めるうちに「やっぱり出たい!」という思いが強くなったふくらPさん。翌年は学校側への交渉を粘りに粘り、「高3では出場せず受験に専念すること」を条件に出場権を獲得します。

「さっそく友達2人に声をかけました。いずれもクイズに興味がある、クラスの成績上位者です。ぼくの誘いにも『面白そう』と応じてくれる、良い友達でした。

ただ初めての『高校生クイズ』では、香川県大会の決勝で敗退しちゃいました。あまりの悔しさに『高2がラストチャンスだから』と言った担任の先生を再度説得して。高3の夏も『模試で高得点を取ること』を条件に、同じメンバーで挑めることになりました」

粘り強い説得と日々の努力が結ばれ、ふくらPさんたちは香川県大会で優勝。夢の全国大会へと出場することになります。『高校生クイズ』の問題傾向を調べたり、歴代首相の名前や星座の名称、国旗を暗記したりと必死で準備した「最後の夏」。しかし、その結果は……。

高校生クイズ出場時の写真

「大会常連の強豪校たちを相手に惨敗してしまいました。特に学校でクイズ研究部があるような学校には太刀打ちできなかったです。

ただ全国大会に行って良かったところは、強豪校がどんな準備をして大会に挑んでいるかを知れたことです。他校の選手から『早押しボタンを持っている』『書店で販売されていない問題集を解いている』といった情報を教えてもらい、刺激を受けました。

何より、全国のクイズ好きと交流できたことは良い思い出です。出場する高校生は全員同じ宿に泊まるんですよ。大会が終わった日の夜も、気付けばクイズ大会が始まるんです。『大学ではクイズサークルに入りたい』と強く考えるようになりました」

『QuizKnock』への参加と「ふくらP」誕生

高校卒業後は東京工業大学(現:東京科学大学)に入学したふくらPさん。東工大のクイズサークルは小規模だったため、ほかの大学のクイズサークルへ出入りするようになり、文字通り「クイズ漬け」の日々が始まります。一方で、とある悩みに直面しました。

「大学1〜2年の授業は、一夜漬けで勉強すれば試験もなんとかなっていました。でも当然ながら、学年が上がるにつれて講義の中身も難しくなっていきます。さぼっていたツケが回り、大学3年のときには授業へついていけなくなってしまいました」

「クイズに費やす時間を削ったとしても挽回はできない。進級するためにも独学で今までの講義内容を学び直そう」。そう考えたふくらPさんは、2015年に休学を決意。勉強の傍ら、自分がやりたいことを整理すべく、テレビ局でクイズ作家のアルバイトも経験します。

休学中の2016年12月、ふくらPさんに転機が訪れました。Webメディア『QuizKnock』を立ち上げたばかりの伊沢拓司さんから、ライターとしてアルバイトに誘われたのです。

『QuizKnock』は東京大学クイズ研究会の有志を中心に2016年10月にローンチした、クイズを題材とするWebメディア。伊沢さんとふくらPさんは、クイズ大会をきっかけに交流がありました。

「当時、『QuizKnock』の存在は話題になっていたので、声をかけてもらってうれしかったのを覚えています。興味があるし、とりあえず好きなことでお金を稼いでみるか、と足を踏み入れてみました」

現在の主な『QuizKnock』動画出演メンバーの写真(ふくらP左上)

ただのライターではなく編集部の中心メンバーとして運営に関わるようになったふくらPさん。「何か新しいことをするアイディアが欲しい」と相談を受けます。

ふくらPさんの提案は「YouTubeチャンネルを開設すること」。現在約240万人以上もの登録者を持つYouTubeチャンネル『QuizKnock』誕生の瞬間です。

「当時はYouTuberという職業が、やっと市民権を得るようになったようなタイミング。クイズを出題したり、雑学を発信したりする『インテリ系YouTuber』もまだいなかったんです。ライバルがいないからこそ、ヒットの可能性がありました」

加えて、ふくらPさんがテレビ局でのアルバイトを通し、クイズ番組の視聴率を上げるためのノウハウを総合演出家から学んでいたことも、成功への自信につながっていました。

「テレビからクイズ番組が消えた時代はない。流行り廃りがないからこそ、やるべきだ」というふくらPさんの意見を聞いた『QuizKnock』の運営メンバーは、ふくらPさんをチャンネルプロデューサーに任命します。

「視聴者をどう喜ばせるか。企画のコンセプトはどうするか。常に模索する日々でしたね。2017年4月にチャンネルを開設して以降、テレビ局で教わったことも活かしながら、徐々に自分で運用方法を確立していきました」

小さな成功と失敗を分析し続けたことが仕事につながっている

2017年10月、ふくらPさんはある決意を固めました。それは、休学していた大学を中退することです。

「YouTubeを開設し、『QuizKnock』というメディアそのものが軌道に乗り始めてから、徐々に『クイズを中心に自分の生活が回っている』という実感を得るようになりました。良いサイクルが生まれた以上、果たしてその流れを絶ってまで大学卒業に固執する意味はあるのかな、って。

世の中には高卒で就職している人もいるので、将来への不安はありませんでした。それに、もし『QuizKnock』がうまくいかなくても、携わっていた期間が無駄になるわけではないな、と。『大学を中退することで、将来の選択肢が失われることはない』と判断しました」

「好き」がキャリアに直結し、今や裏方のみならず表舞台でも「謎解きのプロ」として注目されるようになった現在。ふくらPさんは自身の演者としての活動について「期待されているだけプレッシャーもある」と苦笑します。

「正解すれば盛り上がるけど、不正解だったら視聴者のテンションが下がってしまいます。かといって間違ったときは芸人さんのように振る舞うことも求められてはいない。周囲から正解を期待されているからこそ、プレッシャーと常に戦っています」

しかし「クイズ」を生業としている現状に対しては「好きなことをやり続けていて良かった」とふくらPさん。自身の「好き」を仕事に直結させることができた要因を、次のように振り返ります。

「失敗や成功がなぜ起きたのかを、絶えず自分自身で分析し続けていたんです。それが、結果的にクイズで生計を立てることにつながっているのかな、と。『大成功』って、結局は小さな成功と小さな失敗の積み重ねですから。

その上で、偶然誘われただけであっても『何か楽しそうだからやってみよう』と、好奇心に惹かれるがままチャレンジしたことは大きかった。巡り巡って今の自分につながっています」

(文:高木望)

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