GACKT『GACKT PHILHARMONIC 2025 -魔王シンフォニー』インタビュー――クラシック×ロックの融合の真意
──GACKTさんは約10年前にもオーケストラとステージを共にするコンサート(『GACKT×東京フィルハーモニー交響楽団 華麗なるクラシックの夕べ』)を開催しています。当時、なぜオーケストラと一緒にコンサートを行おうと思ったのでしょうか?
「「オーケストラと一緒にやることで、何か新しいものを得られるんじゃないかって期待が一番大きかった。でも、実際にそれを経てみて、自分の予想の範囲を全然超えない感じがあった。これなら他の人でもできるし、“ボクがやらなくてもいいだろう“と思って、2年目で辞めたんだよ。”やる必要がない“って結論に至ったんだよ、当時は」
──そこから時が経ち、今度はYELLOW FRIED CHICKENzのバンドメンバーとともに再びオーケストラと共にコンサートを行おうと思うに至ったきっかけは何だったんですか?
「本当にロックとオーケストラの融合ができるなら…。この“本当に”っていうのは、過去にもロックバンドでオーケストラと一緒に演奏した人たちっているわけで。でも、なぜその人たちはそれを続けないのか?」
──確かに。
「ボク自身もそういう作品をたくさん観て思ったけど、結局、オリジナルの楽曲を超えないんだよ。“別にオーケストラがなくてもよくないか?”って。それは観ているファンの人たち、やってる側の人たちもそう感じる。なぜかと言うとロックの人たちはやっぱり我が強いし、クラシックの人たちは自分たちの確固たる音楽論を持っているから、うまく交われないっていうか反発し合うところがあって、ステージ上で一緒にやっていても気持ちよくならないんだよ」
──反発し合ってしまう理由をもう少し詳しく教えてください。
「それは単純に技術的なことが大きく関わってる。やっぱり、バンドがステージ上でアンプを置いて、生ドラムを置いて、その背後にオーケストラを置いて演奏するってなると、間違いなく音の干渉が生まれる。オーケストラの人たちからすると、目の前のバンドが演奏し始めたら自分たちの演奏が聴こえなくなる。心地いいわけがない。逆にロックの人たちからすると、自分たちの演奏にオーケストラがのればいいっていう感覚の人たちが多い。最近のバンドにはそれなりのストリングスが入っていたりもするけど、ステージ上で聴くと、オーケストラの音量と音像が大きくて、逆に音楽が聴こえづらくなったり、バンドの良さがなくなったり、ただ音がうるさいだけだったり。出音のバランスが取りきれない問題っていうのが、実際に起こるんだ」
──今回リリースされる音源を聴かせていただきましたが、そうした問題を抱えていたとはまったく感じませんでした。
「それにはいくつか理由がある。一つは、ボク自身がもともとクラシックの出身ということで、楽曲そのものにクラシックと親和性のある曲が多いし、今回はその中でも特に親和性の高いものでセットリストを組んだこと。次に、オーケストラと一緒にやるにあたって、ロックバンドのほうに柔軟性があること。というのも、ロックバンドって、そもそも演奏するときに出力調整っていうのをメンバーはさほど考えていないんだよ」
──音の調整をするのはPAの仕事というイメージがあります。
「そう。でも、今回はオーケストラ70人、ボクらのバンド6人と、80人近くがステージの上にいて、それらの音をPAに調整させるっていうのはそもそも無理がある話で。だから、最初に決めたことはステージ上にアンプは載せない。そして、ドラムはエレドラ(「エレクトロニック・ドラム」の略で電子ドラムのこと)にして、すべてラインで直繋ぎにする。そうすることによってステージ上での音の干渉はなくなる。オーケストラの負担を減らすことができる。つまり、ステージ上にはオーケストラの音しかなくて、楽器の音はすべてプリアンプから出ているという状態を徹底して作った。ドラムに関しては、ステージの見た目や演出の妨げになる遮音板を置かなくていいことにもなった」
──あまり聞いたことがない手法ですね。
「そうだね。さらに、事前にもらっていたオーケストラのデータを聴きながら、それぞれの楽器の音像を分析すると、音の帯域っていうのは低周波から高周波まで幅広くあるんだけれど、オーケストラといえどもすべての音の周波数帯が埋まっているわけじゃない。少なからず音のスポットがあるから、それがどこなのか?を、オーケストラそれぞれの楽曲で探り、その上でバンドの音を作っていく作業から始めた。具体的には、まずは要となるリズムが抜けなきゃ意味がない。でも、うるさすぎてもダメ。バスドラとスネアがオーケストラの楽器のスポットで抜ける音を作ることから始めていって…」
──まさか、それを他の楽器…ベースやギターについても同様に行っていくってことですか?
「そう。で、基本の音が決まったら、今度は1曲ごとの調整に移行するわけだけど、オーケストラの抑揚に合わせて、例えば、ここのベースは3デシ(ベル)上げて、今度は5デシ下げてっていうようなやりとりを、すべての楽曲、すべての楽器に対してやる。この作業をだいたい1曲につき1日かけてやるっていう状態だったんだ」
──聞いているだけで気が遠くなりますが、GACKTさんはこれまでにそういった作業をした経験があるんですか?
「いやいや誰もやらないよ(笑)。だって、意味がわからないくらいの時間がかかるわけだから。たった1日限りのライブに1か月近いリハーサル期間を取るなんて、普通は考えられないよ。だから、ロックとクラシックの融合って、観る側が思うような簡単な作業じゃない。単純にバンドにオーケストラがのるだけだったら、さっきも言ったように、聴いているほうが心地いい音楽にはならないという問題が絶対に存在する。そうではなくて、音量が大きくなくても客席にいればすべての音が聴こえる状態を目指さなければいけない。そのためには絶対に必要な作業だったんだよ。最初はエンジニアもメンバーも困惑していたけど、1曲仕上げたタイミングで初めて、“こういうことなのか!”ってみんなが理解できた。そこからはひたすら集中してその作業を進めたんだよ」
──そこまでの準備をして開催した『GACKT PHILHARMONIC 2025』で、GACKTさんが得たものって何だと思いますか?
「今回、ボクらがオーケストラとやったことによって得られたものっていうのは、その細かい作業をやることによって、ものすごくクオリティの高いロックの音楽…要は基盤となる音楽を仕上げることができるっていうのを、みんなが認識できたことが一番大きな財産だった。ロックであったとしても、本来はそれくらい細かい出力調整をやるべきなんだっていうのを認識できたし、今後はオーケストラがなかったとしても、それを徹底的にやるだろうなって。そうすると、すごく激しいステージなのに、音楽がもっと質の高いものになる」
──今回のコンサートが、その第一歩になったのですね。
──ここまでのお話をうかがって、今回リリースされる作品がBlu-rayなどの映像形式ではなく、音楽のみを収録したCDアルバムだということに納得がいった気がしました。
「まずはクオリティの高い音楽を聴いてもらいたかったんだ」
──それが狙いだったということですよね。
「ロックとクラシックの融合が、音楽としてここまでクオリティの高いものになるってことを感じてもらいたくて。もし、映像がないと耐えられない音のレベルだったら、やっぱり意味がない。だけど、音だけで聴いて成立するところまで持っていくのは、あれだけの細かい作業がないとあり得ない話。やるべきことをやった結果、その質まで持っていくことができたってことなんじゃないかな?」
──ただ、実際のステージは視覚的な演出にもかなりこだわれていて、来場するお客様にも「黒ミサに赴くような装い」を奨励されていました。当日の世界観にGACKTさんが込めた想いというのは、どういうものだったのでしょうか?
「それは、単純に“ボクらがオーケストラと一緒にやるものを観てください”っていうのではなく、あくまでもエンターテインメントだから。ボクの昔からの基本概念として、“予想は裏切る、期待には大いに応える”っていうのがあるから。おそらく、オーケストラと聞くと、普通だったらこういう感じって想像するものがあると思う。でも、そこで、観に来る人が声も出せないような圧倒的な世界観を用意することが、ボクがやらなきゃいけない演出だし、魅せ方。ボクにしかできない表現方法だし。当日はMCもなかったわけで…」
──CDにするにあたってMC部分をカットしたわけではないんですね。
「そう。90分間ずっと曲が続く。その90分が、“あっという間に終わった”と感じるくらいの迫力と、荘厳さ。加えて、切なさだったり、儚さだったり、いろんな表情があるわけだよね。それを音楽だけで本当に成立させることができるのか?っていうのは賭けではあったけれど、成立できたら、“今後ツアーとして考えられるんじゃないか?”っていう可能性を探る意味合いもあったし。実は、当日はいろんな事情で、ボクが想像していた演出プランができないことも多かった。でも、トライアルとして達成すべきところは達成したし、逆を言えばこれが100%ではないから。もっとすごいものが作れるという確信にもなった。実際に生で観たら、エグいくらい感動してもらえると思うので、今後これと同じ形でツアーをやるときは、ぜひたくさんの方たちに観てほしい」
──今回の『GACKT PHILHARMONIC 2025』が音の作り方も含めて成功したことで、今後GACKTさんが生み出す楽曲が進化していくことにも繋がりそうですし、そこを期待してしまいます。
「そうだね。やっぱりボクは、やるなら自分にしかできないステージというものを常に考えてる。自分じゃなくてもできるステージなら、別にボクがやる必要ないし。そう考えて、今回のことがうまくいったらいいなとは思っていたけど、予想以上にいい結果になったから、これからをちょっと期待してほしい」
──普段から何事に対してもストイックなことで知られるGACKTさんですが、周囲からの“GACKTさんならやってくれる”という期待をプレッシャーに感じたりしませんか?
「期待か…。今回のコンサートに関しても、これはボクからスタッフ全員に言ったことなんだけど、できるかどうかは本当にやってみないとわからないし、1回やって二度とやらない可能性もあるし、やってみた結果できなかったっていう現実だって生まれるわけだから、いきなりツアーを組むのはやめてくれって。まずは今回の課題をクリアするために何が必要なのかを試さないと、本当に失敗するって。でも、うちのスタッフでさえ、ロックとオーケストラを融合させることを簡単な作業だと思ってるんだよ。特に音楽をやっていない連中が簡単に考えるから、結局そのツケが全部、バンドのメンバーやオーケストラに回ってくるわけで」
──GACKTさんにしてみたら、何よりも音楽ファーストでありたい、と。
「それがなかったらやる意味ないよ。ボクらは音楽を届けるためにやっているわけだから」
──そうしたクリエイティブに対する使命感みたいなものは、7月4日、GACKTさんの誕生日当日に行われる『GACKT 魔王生誕饗宴2025』がすべてGACKTさん自身でプロデュースされるところにも現れている気がします。
「まぁ、この『魔王生誕饗宴』は毎年やっている、本当にコアなファンのみんなのための1年に1回のイベントだから。ボクはディナーショーとかもやらないし。生誕祭ということでみんながお祝いしに来てくれるわけだけど、“来てよかった”と思ってもらえるものをどこまで作れるのか?っていうのは、毎年、こういうことをしよう、ああいうことをしようって考えているよ。すべてをボクがプロデュースって言うけど、そんなの、今まで全部そうだから(笑)。ボクにとっては当たり前のことなんだよ」
──とはいえ、自らがプロデュースすることでGACKTさんにかかる負担が増える場合もあると思います。ですが、それでもやり遂げる。GACKTさんがそうしたモチベーションを保ち続けていられる秘訣は何なのでしょうか?
「そうだなぁ…ボクはモチベーションを保とうとしているわけじゃなくて、ボクにしかできない世界観、ボクにしかできない作品を届けるっていう、やるべきことをやっているだけで。それは自分に与えられた使命、義務…“Duty”っていうのかな。それが自分で表現できる唯一のもの、一番大きなものでもある。例えば、映画の作品になると、ボクは乗っかるだけだよね。そのときは、監督の描く世界にどれだけ応えられるのか?ってことを最重要視していて、監督が求めるものを、その想像を超えるほど応えようっていうのがボクのスタンス。でも、ライブになると、今度はボクが求めている世界観を、どれだけその想像を超えるものを作るか?っていうふうに話が変わってくる。そして、この想像はファンの人たちの想像を圧倒的に超えるものになっていて、だからこそ、みんな観に来てくれるわけで…。追いかけ続けてくれているファンのみんなにボクが返せるものって、やっぱり作品だけだから。ファンのみんなに、“ずっと応援してきてよかった、追いかけてきてよかった”って思ってもらえる立場であることが、ボクが彼らに対してすべき在り方だよ。それがなかったら、“もっと若い子たちを観に行ったほうがいいじゃん”って、ならない?(笑)」
──それは…どうでしょう(笑)。
「だって、パワーのあるミュージシャンの方たちがいっぱいいるんだよ? もし、歳を取ってて、さっき話したような想いがなくやってる人たちがいるんだったら、“いやいや、そんなオジさんを観に行かないで、若い子たちを観に行ったほうがいいよ”って。ボクなら言うね(笑)。だって、ファンの想いに応えてないじゃん、そんなの。やっぱり、ファンの人たちってアーティストに期待している。少なくとも、自分たちの前を歩いてくれている、人生に何かしらの影響を与えてくれた人たちなわけだから、それが過去形になっちゃダメだよ。“あの頃はよかったよね”じゃなくて、今もなお引っ張ってくれる存在であることが、アーティストの使命なんじゃないの?」
──GACKTさんがその想いを抱き続けていてくれる限り、ファンのみなさんの期待はますます高まるばかりですね。
「まぁ、ボクはやるべきことをやるだけ。ただ、これだけ歳を重ねてきて思うのは、自分の次の世代の子たちにバトンを渡すっていう作業も、同時にやっていかなきゃいけないなって想いも芽生えていて。ただ歳を取っていくだけだと意味がないから。やっぱり何かしらの貢献をしないと。音楽に育ててもらった自分たちが、次の世代にバトンを渡すことって、どういうやり方でできるんだろう?とか、いろいろ考えるよ。まあ、それが歳を重ねることなんじゃないのかな。ボクね、見た目はこんなだけど性格は真面目だからさ(笑)。結構、真剣に考えてるんだよ」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
2025年7月4日(金)発売
UCCS-9066/4,950円(税込)
トールサイズ、スリーヴケース&40Pフォトブックレット付
『GACKT PHILHARMONIC 2025 -魔王シンフォニー』
2025年7月4日(金)発売
UCCS-1401/3,300円(税込)
『GACKT PHILHARMONIC 2025 -魔王シンフォニー』
LIVE INFORMATION
昼餐ノ宴:開場12:00/食事提供12:30/開宴14:00/終宴15:30
晩餐ノ宴:開場17:30/食事提供18:00/開宴19:30/終宴21:00
チケット料金:ダイヤモンド席 130,000円 / ゴールド席 74,000円(各税込)
魔王生誕饗宴2025
U-NEXT
配信詳細はこちら >>>
ライブ配信:2025年7月4日(金)21:30~ライブ終了まで
見逃し配信:配信準備完了次第~2025年7月18日(金)23:59まで
【販売価格】5,910円(税込)
【販売期間】2025年6月28日(土)15:00~2025年7月18日(土)21:00まで
※視聴可能デバイスに関してはこちらをご確認くださいGACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー
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2019年の誕生日7月4日に行われたプレミアムバースデーライブの全国ツアー版として2020年1月より開催。その中から東京国際フォーラム・ホールAで行われた公演を収録。
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