東野圭吾のデビュー作、湊かなえ他15名の作家らにより初の舞台化、大阪で66年ぶりとなる「文士劇」上演レポート到着
11月16日(土)にサンケイホールブリーゼにて、なにげに文士劇2024旗揚げ公演『放課後』が上演された。
文士劇とは130年以上の歴史を持つ、専門俳優以外の文人、劇評家、画家などによって演じられる芝居で、大阪では今回、66年ぶりに上演された。演目は1985年に出版され、『第31回江戸川乱歩賞』を受賞した青春推理で東野圭吾のデビュー作『放課後』。今回が初の舞台化となる。
脚本・演出を務めたのは、京都を拠点に活動しているTHE ROBCARLTONの主宰で、今年『Meilleure Soirée』にて『第2回 関西えんげき大賞(2023年)』優秀作品賞を受賞し、2025年1月2日(木)から南座にて開幕の、初笑い!松竹新喜劇 新春お年玉公演『春の夢 嗚呼!恋は勘違い』の演出も務める村角太洋。
出演は黒川博行、朝井まかて、東山彰良、澤田瞳子、一穂ミチ、上田秀人、門井慶喜、木下昌輝、黒川雅子、小林龍之、蝉谷めぐ実、髙樹のぶ子、玉岡かおる、百々典孝、湊かなえ、矢野隆。筆一本で世にはばかる文士(作家)とその仲間が集結した。即日完売した同公演の公式観劇レポートが到着したので紹介する。
2024年11月16日(土)、大阪・サンケイホールブリーゼにて、作家=文士たちが役者として舞台に立つ、なにげに文士劇2024旗揚げ公演『放課後』が上演された。大阪では66年ぶりとなる文士劇。日頃、人物や物語を巧みに生み出す人気作家たちが、学校の先生や学生に扮して熱演を繰り広げ、満席の場内から惜しみない拍手が送られた。
東野圭吾のデビュー作『放課後』を、THE ROB CARLTON主宰の村角太洋による脚本・演出で届けた舞台は、休憩20分を含めて3時間超えの大作。1カ月以上の稽古を重ね、セリフを身体にたたき込み臨んだ16名は、清々しいほどの団結力で本格的なミステリーを演じ切った。大阪弁の横柄な教師・村橋役の黒川博行、高校生らしからぬ色気とチャーミングさで観客を惹きつける朝倉加奈子役の髙樹のぶ子など、作家自身の“人間力”も伝わってくるステージ。これが1日限りとは実に贅沢だ。
舞台は1980年代の「なにげ文愛高等学校」。数学教諭の前島(東山彰良)は何者かに命を狙われていたが、やがて校内で別の殺人事件が起きる。完全な密室殺人に前島は驚きつつ、ときに冷静に立ちまわり、驚くべき真実にたどり着く――。主役の前島を演じた東山はほぼ出ずっぱり。膨大なセリフをこなし、さまざまな役と絶妙な芝居のキャッチボールを見せる。スラっとした容姿にメガネというスタイルも様になっていて、これが初舞台とは思えない。
前島と事件に向き合う刑事の大谷役を演じた門井慶喜は、明晰かつ淡々とした語り口から、一筋縄ではいかない人物像が立ち上がってくる。アーチェリー部主将の杉田ケイ役・矢野隆は、軽やかな身のこなしとラフな口調で前島に絡み、後半では一気に物語の核心へと迫る頼もしさを見せた。同じアーチェリー部の宮坂恵美役・蝉谷めぐ実は、弓の構えまでが美しく、恵美の想いが爆発するときの険しい表情も印象的。このあたりの真剣勝負的な熱演は、執筆に熱がこもるときのスタンスに近いのでは......と想像するのがまた楽しい。
前島の妻・裕美子を演じた一穂ミチは、夫を気にかける優しさだけではないものを秘めた女性役で、その大きな振り幅が観客の想像力をかきたてる。喫煙で停学処分をくらうほどの問題児・高原陽子役の湊かなえも、セーラー服を着こなしたかと思えば、バイクに革ジャン姿でドラマティックに登場し、客席から拍手が沸き起こる! 作業着姿で「暑い~」と登場し、親近感溢れる芝居で愛敬をふりまく校務員・バンさん役の朝井まかてや、「密室の謎、解いたり!」と快活に殺人トリックに迫る学校一の秀才・北条雅役・上田秀人は、温かい笑いを誘った。
パワハラ気質の栗原校長を、タバコをふかしながら堂々と演じる木下昌輝は、首からなぜか机の小道具をぶら下げているし、松崎教頭を演じた編集者の小林龍之は「松崎ですっ」という決めゼリフを何度も繰り出し、観客は大いにウケる。これまでコメディを手掛けてきた村角太洋の遊び心ある演出が散りばめられていたのも、本作の成功の秘訣だろう。
この時代のバブリーな雰囲気をスーツ姿で放つ英語教諭・麻生恭子役の玉岡かおるは、佇まいから洗練されていて物語への説得力があり。几帳面さを感じさせる国語教諭の堀役・澤田瞳子は、飾り立てない演技が逆に好印象。ジャージ姿でノリのいい体育教諭を好演したのは、書店員の百々典孝。養護教諭の志賀役・黒川雅子は数々の小説の装丁にも携わってきた画家であり、様々なバックボーンのキャストが集まったことで、多様な個性が共存する学校の特性を表していたように感じた。
原作は女子高が舞台なのを共学にすることで、犯人の動機に改変がなされているが、それも功を奏している。また、長編ミステリーを舞台化するにあたり、主人公・前島の心の内を表す「脳内前島」というキャラクターを、皆がグレーの上下スタイルで次々と見せる演出が斬新。さらにこの記念すべき文士劇を祝うかのように、体育祭の創作ダンスの出し物として、文士たちが「Choo Choo TRAIN」の曲で踊る場面は手拍子が起こり大いに盛り上がった。
一方で物語が二転三転する緊迫感は最後の一瞬まで途切れず、ミステリーの醍醐味を届けようとする文士たちの意気込みは真剣そのもの。衝撃のラストの後、拍手と歓声が沸き起こり、振り付きの愉快なカーテンコールではキャスト全員弾けるような笑顔を見せた。
作家ならではの巧みな心理描写を芯にそれぞれが唯一無二の役を造形し、大きな高みを乗り越えた文士たちの奮闘は今後も語り継がれるだろう。
取材・文/小野寺亜紀