川崎市 マンホールトイレを整備 市内156カ所に
川崎市は4月末、マンホールトイレの整備などを軸とした「新たな災害時のトイレ対策の考え方」を示した。能登半島地震などの教訓を踏まえ従来の対策から転換。今後トイレの正しい使い方の認知強化に注力する。
マンホールトイレは、マンホールの上に簡易な便座やパネルを設け、下水道管に接続して利用できる災害時用のトイレ。これまでは汲み取り式の仮設トイレを設置する方針で進めてきたが、マンホールトイレは、汲み取り不要で発災当初からの使用ができ、持続的に使用できる利点などを踏まえ、方針転換を行った。
整備するのは、市内小中学校などの指定避難所151カ所と川崎区・宮前区を除く5区役所。今年度に基礎調査やパブリックコメントを実施し、2026年度から30年度にかけて整備が完了する予定。
市危機管理本部は「災害時のトイレ環境の確保は市民の生命、財産を守る上で最重要事項の一つ」と説明する。
既存インフラと連動
市が方針転換したきっかけは、昨年1月の能登半島地震。発災時の状況に鑑み、道路状況やバキュームカーの台数などを踏まえ、従来の対策で衛生的な環境を保つのは困難と判断した。
また、マンホールトイレは、下水管の耐震化や応急給水拠点との親和性もあるという。
市では避難所や重要な医療機関などと水処理センターを結ぶ下水管の耐震化を、26年度の工事完了を目指し実施していた。加えて、学校にある水飲み場など、災害時に誰でも自由に給水ができる「開設不要型応急給水拠点」の整備も進行中。し尿を流すために必要な水源が確保できる状態となっている。市担当者は、「他の都市では水源として学校プールの貯水を使うことが多い。市内にはプールがない学校もある中、開設不要型応急給水拠点の整備が進んでいることは川崎市の大きな特徴」と話す。
今後は、専用の下水管を新たに地中に埋め、現在耐震化を進めている本管に接続する形で整備を行う。本管が被害を受けていても一定期間使用可能な「貯留型」を中心に採用していくという。市担当者は「避難生活が1週間、1カ月と続く可能性を考えると、ごみが出ず、継続的に使用できるマンホールトイレは優位性が高い」と期待を寄せる。
「宝の持ち腐れ」防ぐ
今回の方針には、既存の仮設トイレを公園に配備するなど、避難所以外の場所でも災害時に使うことができるトイレ環境の整備を進めていくことも盛り込まれた。
使用が容易で発災からすぐ使用できる携帯トイレについては指定避難所、市立学校、児童関連施設で、これまでのストックに加え、新たに2日分の備蓄を確保する。
さらに、自助・共助への働きかけも強める構えだ。備えることの重要性の発信や使い方などの周知も進めていく。市担当者は「普段のトイレを使えるのが一番良いが、災害時に使えるか否かを判断するには知識が必要。また、市で整備を進めても、実際の使い方を知らないと『宝の持ち腐れ』になってしまう。周知に力を入れていきたい」と話した。