立石俊樹の美しき万能セバスチャン再び、『ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密 2024~』ゲネプロレポート
枢やなによる漫画『黒執事』を舞台化した最新作、『ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密 2024~』が、2024年9月7日(土)に兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホールで開幕。前日の6日(金)に公開ゲネプロが行われた。
月刊『Gファンタジー』(スクウェア・エニックス刊)で連載中の原作は、全世界累計3500万部を超える大人気漫画。2009年の初舞台化以降、何度も上演される人気ミュージカルシリーズとなり、2021年には原作の14~18巻にあたる「寄宿学校編」が登場。当時初主演の立石俊樹(セバスチャン・ミカエリス役)、小西詠斗(シエル・ファントムハイヴ役)という新たなコンビでの上演が話題を呼んだ。今回は立石、小西に加え、葬儀屋役の上田堪大が続投、ほかのキャストは一新し、演出面などパワーアップしての再演。今年4月~6月に『黒執事 -寄宿学校編-』としてアニメ放送されたのも、うれしい追い風となっている。
「生執事」と親しまれているこのミュージカルの魅力は、19世紀の英国を舞台に繰り広げられるダークファンタジーの世界を、壮大な音楽やアクション、様々なエンターテインメントを盛り込んで見せる贅沢さだろう。名門貴族の若き当主・シエルが、なぜ悪魔であるセバスチャンと契約するに至ったのか。冒頭には、万事完璧なファントムハイヴ家の執事として仕えるセバスチャンとシエルの出会いから、その後のエピソードが次々とたたみかけるように展開する。過去のシリーズを観ていない観客も、これまでのドラマがおさらいできるようなダイナミックな序章で、一気に『黒執事』の世界へ引き込んでゆく。
ヴィクトリア女王の密命のもと、裏社会の事件を闇で片づけているセバスチャンとシエル。ある日、女王の親族・デリックが、英国の名門寄宿学校から長く帰省しておらず、その原因を調査してほしいという手紙が女王より届く。二人は由緒あるウェストン校に、先生と生徒になりすまして潜入。そこには絶対的君主でなかなか姿を現さない校長、4つの寮をまとめる「P4(プリーフェクト・フォー)」と呼ばれる監督生、監督生と兄弟のような関係を結ぶファッグ(寮弟)といった、独特の伝統と戒律に守られた空間が広がっていた。
女王依頼の真相を追求するため、「P4」たちに取り入ろうと画策するシエル。優雅なお茶会を催している「P4」の面々は、ミステリアスな雰囲気を醸し出しているが、後半のクライマックス、年に一度のクリケット大会ではかなりアクティブに歌い踊り、それぞれのカラーを打ち出して競い合う。学園ものらしい明るさと、事件に隠された闇の部分との対比が鮮烈で、シエルもクリケット大会に参加し、彼らに溶け込みながら様々な表情を見せる。
シエル・ファントムハイヴに再挑戦した小西詠斗は、頭脳明晰で冷徹でありながら、ときに感情を抑えられないシエルのあやうさを、深い芝居心で見せる。声にも力強さとインパクトが加わり、もはやこの作品になくてはならない存在。セバスチャンに甘える部分、突き放す部分、そのバランスの妙味が、二度目の立石とのタッグでさらに増したのではないだろうか。先生と生徒として「演技」する二人の遊び心にも注目だ。
そして二度目の本シリーズ主演となったセバスチャン・ミカエリス役の立石俊樹は、グランド・ミュージカルの出演なども経て、さらに大きく成長し「生執事」に帰ってきた。マントを脱ぎ捨て、テールの長い黒燕尾で流麗に戦うアクションからも、セバスチャンの万能ぶりが垣間見え、人外の怖さを感じる冷たい表情の奥に、いろいろな思惑と茶目っ気まで感じるところが心憎い。歌が巧く、美しい。まさに立石自身も万能だからこそのハマリ役。決め台詞の「イエス、マイ ロード」も心地いいメロディに変換され、彼の艶やかな歌声で劇場に響き渡ると、ある種の陶酔感をもたらす。
セバスチャンと因縁の関係がある葬儀屋(アンダーテイカー)役の上田堪大は、顔半分が帽子とシルバーヘアーに覆われたミステリアスな人物を、貫禄たっぷりに演じる。甲高い笑い声などイメージにぴったりで、立石との声質が違うからこそ二人が歌いながらアクションを繰り広げるシーンは、見ごたえ・聴きごたえがあった。
「P4」を演じた新キャストの4名は、個性豊かな監督生をカラーの違いを明確に浮かび上がらせて好演。「深紅の狐寮」を率いるエドガー・レドモンド役の神里優希は、長いブロンドヘアが似合い、ゴージャスな華やかさを常に放つ。校内随一の秀才である「紺碧の梟寮」のロレンス・ブルーアーを演じた栗原航大は、クールな佇まいだけではなく、頭脳でクリケット大会に勝負を挑む「熱さ」も見せる。「翡翠の獅子寮」のハーマン・グリーンヒル役、塩田一期は大柄な体躯を活かし応援団長並の声を張り上げてスポーツマンっぷりを表現。「紫黒の狼寮」のグレゴリー・バイオレットを演じた定本楓馬は、常にフードをかぶった前かがみの姿勢で、アーティスト気質をにじませた。それぞれ寮の特長を活かした、多彩なダンスバトルのようなクリケット大会の躍動感に胸躍る。
また、シエルの親友を自称するインドの王子、ソーマ・アスマン・カダール役の伊勢大貴は、屈託のない明るさで笑いを提供し、ショーアップしたシーンも魅せる。ほかにも個々のキャラクターが引き立つ展開で、原作に備わっているミステリーとコミカルの良さもきちんと織り交ぜながら、舞台は謎が解明するクライマックスへと突入していく。
荘厳な校舎を表現した高さと動きのあるゴシック風セットは、4階席まである建築美に秀でた兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホールの劇場空間と、想像以上にマッチ。照明やプロジェクションマッピングの迫力と美しさ、クリケットボールが客席まで飛んでくるような感覚になる、臨場感あふれる演出は、本シリーズの豊かさを物語っている。人間の表と裏の顔にゾクッとしながらも、セバスチャンとシエルの行く末を追いかけずにはいられない。
『ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密 2024~』は、9月8日(日)まで同劇場で上演後、9月21日(土)~29日(日)にTOKYO DOME CITY HALLにて上演される。また、2025年4月23日(水)には同作品のBlu-ray&DVDが発売される。
取材・文=小野寺亜紀 撮影=ハヤシマコ