家族に効いた薬が、自分には効かない…?誰でも経験したことがある、そんな違いが未来の医療を変えるかもしれません。
「家族と同じ市販の胃腸薬を飲んだのに、なんだか自分には効いてない気がする…」
そんな経験、ありませんか?
実はそれ、“気のせい”ではないかもしれません。薬の効き目や副作用の出方は、人によってかなり差が認められるケースが存在します。その理由は、体質や年齢、生活習慣、さらには遺伝的な背景まで、実にさまざまな因子が考えられます。
一人ひとりに合った「医療」という考え方
最近では、「一人ひとりに合った医療」を目指す個別化医療(Personalized Medicine。精密医療:Precision Medicineとも呼ぶ)が注目されています。これまでのように「この病気にはこの治療法」という一律の考え方ではなく、その人の体質や年齢、生活習慣、遺伝的な背景などを考慮し、その人に最も合う治療方法を選択するという考え方です。
近年では実際、がん治療でがん細胞の特定分子を標的とした分子標的治療が行われるようになってきました。
静岡県内のある研究機関では、がんの進行や患者さんの体質に合わせて、個別に治療法を検討する取り組みが進められています。人によって症状や進行の仕方が異なるがんに対し、その人に合わせた治療を模索する動きも、個別化医療の一例といえるでしょう。
自分の“からだの個性”を知るプロジェクト
そして今、静岡ではもうひとつの重要な取り組みが始まっています。それが「ヒト表現型プロジェクト(HPP)」です。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、私たち一人ひとりの“からだの個性”をデータとして記録して、これらのデータをより良い健康や医療のための研究につなげていこうという取り組みです。
参加の対象は、40〜69歳の健康な方々。一般的な健康診断で実施するような検査項目に加え、生活習慣や食事に関するアンケートなども実施し、地域の皆さんの協力を得ながら、日常に根ざした情報を収集しています。
「なんで私には効かなかったんだろう?」―― これまでは“体質だから”で片づけられていたような疑問にも、きちんと科学的に答えを見つける時代が近づいています。ヒト表現型プロジェクトは、まさにその土台をつくるものです。
このプロジェクトでは「人によって体の特徴や暮らし方が違うと、健康にどう関わってくるのか」を研究しています。また、参加することで「自分はどんな生活習慣をしているのか」「どんな体のくせ(体質)があるのか」に気づくきっかけにもなるかもしれません。
県内の研究機関での取り組みと、ヒト表現型プロジェクト、どちらの取り組みにも共通するのは、「健康のかたちは人それぞれ」だという前提。だからこそ、「私らしい健康の守り方」「私らしい医療」を目指す動きが静岡から広がり始めています。
このプロジェクトでは、普通の健康診断で実施する項目に加えて、食事や生活についてもいくつか質問に答えていただきます。少し項目は多くなりますが、ぜひ参加をご検討いただけると幸いです。
これからは「あなたらしい健康」を知ることが、一番の安心につながる時代。 日本では静岡から始まったこのプロジェクトは、“私の違い”が“誰かの未来”を助ける、そんな可能性にも満ちています。
次回は、「私たちの何気ない生活習慣が、実は健康と深くつながっている?」という視点から、食事や運動、睡眠などに関するちょっと意外な話をご紹介します。お楽しみに!
■執筆/フェノエーアイ・ジャパン株式会社 運営部門長・管理部門長 平山佑三子
■監修/静岡県立大学名誉教授・客員教授 合田敏尚