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松井秀喜さんの弔辞に心を打たれ、思い出したのはアニメ『巨人の星』の星一徹✕星飛雄馬父子の物語と主題歌「ゆけゆけ飛雄馬」だった

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松井秀喜さんの弔辞に心を打たれ、思い出したのはアニメ『巨人の星』の星一徹✕星飛雄馬父子の物語と主題歌「ゆけゆけ飛雄馬」だった

「監督、今日は素振りないですよね……その目を見ていると『バットもってこい。これからやるぞ』と言われそうでドキッとします……」
 2025年6月8日、亡くなった長嶋茂雄さんの告別式における、松井秀喜さんの弔辞の冒頭である。震える声で、涙を必死に堪えながら、遺影に語りかけるその姿にもらい泣きした人も少なくなかったに違いない。喪主を務めた愛娘の三奈さんさえも、「もし、自分と松井さんが海で溺れたら、パパは松井さんを助けに行くんじゃないかしら」と羨むほどで、長嶋さんにとって松井さんは、自分の夢と日本球界の未来を託した宝物だったのだろう。何人も立ち入ることのできない深い絆で結ばれた師弟関係だったことを再認識したのである。

 素振りをする松井さんと、それを厳しくも優しい目で見つめる長嶋さんの姿というのは容易に想像できた。そんな二人を思い浮かべていると頭を過ったのが、アニメ『巨人の星』の主題歌、「ゆけゆけ飛雄馬」だった。

 漫画『巨人の星』は、原作・梶原一騎、作画・川崎のぼるにより、『週刊少年マガジン』1966年19号~71年3号に連載された。1968年3月~71年9月には、日本テレビ系でアニメ化され、まさにスポ根アニメの先駆的な作品で金字塔ともいえる。主人公の「飛雄馬」の名前は、「ヒューマニティ」(humanity)が語源だ。

 原作の梶原一騎は、『巨人の星』のほかに、68年は『タイガーマスク』『あしたのジョー』が大人気。70年は、『赤い血のイレブン』、71年には『空手バカ一代』『侍ジャイアンツ』といった今でも語り継がれる話題作を次々に世に出した。同時期の68年には、『アタックNo.1』(作・浦野千賀子)と『サインはV』(作・神保史郎)が別雑誌で連載され、1964年の東京オリンピック・女子バレーボールの〝東洋の魔女〟の登場から始まった、バレーボールブームを巻き起こした。まさにスポ根アニメの時代だった。

 アニメ『巨人の星』は土曜日の夜19時から30分間、約3年半にわたり放送された。全182話に及ぶ放送の平均視聴率は24.7%で、1970年1月10日放送の94話「飛び立つ星」は、最高視聴率36.7%を記録している。1970~2009年のアニメの視聴率のランキングでは、1位ちびまる子ちゃん39,9%、2位サザエさん39.4%に次ぐものである。

 テレビばかりではない、芸術座(2005年3月27日閉館)でも、1969年7月21日~8月29日のちょうど夏休みの期間には、長岡輝子演出により、星一徹を中村吉右衛門(二代目)、飛雄馬を志垣太郎(当時は河村稔)が演じている。志垣にとっては初舞台だった。

 民放でプロ野球中継が始まったのは、1953年8月29日の後楽園球場で行われた巨人対阪神戦で、日本テレビ開局の翌日に放送された。そして、読売ジャイアンツが日本シリーズ連続優勝のV9を果たす頃は、夕食の時間には巨人戦の中継は日本テレビ系に限らず必ずどこかの局でやっていた。この時期は巨人の野球帽を被った少年が圧倒的に多かった。資料によると次に阪神、そして3番手は西武。西武の当時のオーナーの堤義明氏が、野球帽は「動く広告塔」になるからと10万個の大量発注をして運営施設で働くすべての従業員に被らせたとか。少年たちの野球人気はまさにダントツだった時代である。

 主題歌の「ゆけゆけ飛雄馬」はレコードとソノシート(通常のレコード盤より薄くて、雑誌などの付録になったもの)の合計は、42万枚のセールスを記録している。日本コロムビア、テイチク他数社からリリースされている。イラストは東芝レコードのものであるが、飛雄馬が巨人に入団して間もない頃であろうか、あどけなさが残っている。

「ゆけゆけ飛雄馬」の主題歌とともに流される映像も鮮明に焼き付いている。硬球がバットに命中して「カーン」という快音、タッタッタッタという土のグランドを駆け抜ける足音、一塁ベースに滑り込む音とともに歓声がわく。そこにトランペットとティンパニーが威勢良く鳴り響く。続いて映像では吹雪の中を走る一徹と飛雄馬、一徹のノックに何度倒れても食らいついていく飛雄馬、そしてうさぎ跳びをする一徹と飛雄馬、木の陰から涙を流しながら見守る姉の明子がいるのだ。軍歌を思わせるような力強い「ゆけゆけ飛雄馬」の作詞は東京ムービー企画、曲・編曲は渡辺兵夫。歌唱は、男声合唱の「アンサンブル・ポッカ」である。作曲の渡辺兵夫は、『巨人の星』をはじめ、『アタックNo.1』、『天才バカボン』『キューティーハニー』『アルプスの少女ハイジ』『魔女っ子メグちゃん』『フランダースの犬』『キャンディ・キャンディ』『あらいぐまラスカル』『機動戦士ガンダム』など日本アニメ史上に残るヒット作品の音楽を手がけている作曲家だ。その他にも、『白い巨塔』(1978フジテレビ版)、時代劇の『燃えよ剣』『俺は用心棒』シリーズや『眠狂四郎』『子連れ狼』なども担当している。

 物語は読売巨人軍全盛の時代の川上哲治、長嶋茂雄、王貞治など実在の人物と架空の人物が交錯する。父親の一徹は、かつて巨人軍に三塁手として入団したものの、戦地に送られ肩を痛め、一塁へ早い送球ができず、生み出したのが魔送球だったのだが、それを川上に反対され退団、日雇いの仕事で貧しい生活を強いられているという設定。ちゃぶ台返しで荒れることもあったが、

「見ろ 飛雄馬! 夜空にひときわ輝く大きな星こそ、王者の星、巨人の星だ。いつか必ず、お前はあの星に駆けのぼるのだ」と、飛雄馬に夢を託す。

 父子二人だけの特訓から、飛雄馬とバッテリーを組む伴宙太やライバルの花形満、左門豊作、そして恋人日高美奈も登場。「私にも星があるのよ」と爪の黒い星を飛雄馬に見せる美奈は重い病気を抱えていた。いつも、飛雄馬頑張れ!と声援を送っていた。

「消える魔球」、対するライバルたちの闘志、飛雄馬の左腕の崩壊を招いた「大リーグボール3号」など名シーンの連続だった。子供たちは飛雄馬とともに成長していった。1977年~78年には『新巨人の星』、79年には『新巨人の星Ⅱ』が放映されている。主題歌も『新巨人の星』は「行け行け飛雄馬」をアニソン歌手のささきいさおが歌唱、『新巨人の星Ⅱ』の主題歌は、ややバラード風になって「心に汗を」をやはりアニソン歌手の水木一郎が歌っている。
 

 松井秀喜さんは、アニメ『巨人の星』の時代よりは少しあとの生まれなので、オンタイムの『巨人の星』は知らないかもしれない。1992年のドラフト会議で4球団から1位指名を受け、抽選の結果当たりくじを引き当てたのは監督に返り咲いた長嶋さんだった。国民栄誉賞も二人で受賞し、表彰式にはお揃いのスーツで東京ドームに現れた。東京オリンピックの開会式では、王貞治氏も加わり、長嶋さんの左脇を支えながら聖火ランナーを務めた。様々な場面が蘇ってくる。
 長嶋さんの「わが巨人軍は永遠に不滅です」のフレーズも忘れられないが、「ゆけゆけ飛雄馬」も忘れられないアニメソングである。

文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫

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