【鎌倉 イベントレポ】岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑 -ちょっと笑える動きの展示と、不思議な平面空間をさまよう
2025年2月1日(土)から4月13日(日)まで、神奈川県立近代美術館鎌倉別館では「岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑」を開催しています。
「×コレクション」とあるように、この展覧会は現代美術家と近代美術館のコレクションを組み合わせた企画です。日本美術コレクションと共に空間を作ったのは、2013年からユニットでの作品発表を始めた岩竹理恵さんと片岡純也さんです。
おふたりの作品と古い美術品は、違っているようで実は似ている要素で響き合い、まるで展示室全体がひとつの作品のように完成していました。
展示空間の構成
画像出典:湘南人
チケット売り場で観覧料(一般・700円/税込)を払って館内の2階に上がると、展示タイトルが大きく張り出されているのが目に入ります。自然光の広がるロビーには、展示概要とともにアーティスト作品が数点展示されていました。
自動ドアを抜け、展示室に入っていきます。
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部屋に入って右手の空間には、片岡純也さんの木製の装置(写真上・右側)が存在感たっぷりに立っていました。《Twilight》(写真下)の強くなったり弱くなったりする白熱電球の光が、壁に掛けられた絵画の見え方をくるくると変えていきます。
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ポン!という木製の音に誘われて歩いていくと、頭蓋骨のミシン台が木魚を叩いており《ミシン台の上の木魚と視線の連絡》、ふと周りを見渡すと、岩竹理恵さんの精巧なコラージュ絵画に取り囲まれています。
岩竹理恵さんの絵の中には、美術館の野外彫刻や展示室のガラスのショーケースに収まっていた愛らしい俵屋宗達の《狗子図》がひそんでいます。作品の中に作品を見せ、光と音で空間を繋ぐこの展示はひとつの大きな作品といえるのかもしれません。
画像出典:湘南人
とっておきの日本美術コレクション
画像出典:湘南人
展示室の一面はガラスのショーケースになっており、ここに近代美術館の日本美術の名品が展示されています。
コレクションの目玉は、やはり約10年ぶりの公開である木下翔逅コレクションのひとつ《両界曼荼羅(胎蔵界・金剛界)》でしょうか。
両界曼荼羅とは、真言宗の教えを図絵化したもので、胎蔵界曼荼羅(写真右上)と金剛界曼荼羅(写真左上)の2つの曼荼羅の組み合わせのことをいいます。およそ800年前の鎌倉時代の作品が美しい状態で展示されているのは驚きです。
画像出典:湘南人
掛け軸の狩野芳崖《松下牧童の図》の左隣に展示されているのは茶器のコーナーです。雰囲気が似ていて全体のまとまりがありますが、ひとつひとつの産地や年代は様々で、鎌倉時代の鉢、中国の宋時代の茶碗、古代エジプトの壺などが並びます。
作品背景でコレクションを選定せずに、表現が似ているものを収集しているところがこの展覧会の独特さで、タイトルの「図鑑」の言葉を思い起こさせます。
たくさんある美術館コレクションの中からどうやって展示する美術品を選んだのかを、担当学芸員の西澤晴美さんに伺いました。
まず、美術館側がコレクションの選定をして、そのあとでアーティストから展示作品の提案があったそうです。双方の展覧会のイメージをすり合わせるようにしてコレクションを変更したり、追加したりの作業をしたと西澤さんはいいます。
曼荼羅や茶器の他には、俵屋宗達《狗子図》(写真下)や江戸時代の大津絵も展示されており、こちらも大きな見どころでした。
画像出典:湘南人
岩竹理恵の新作:作品の中に見える作品
岩竹理恵さんは主に平面絵画を制作する作家で、この展覧会ではコラージュや版画の手法を使って、不思議な視覚体験を起こす作品を多数展示していました。
画像出典:湘南人
《室内画36 野外彫刻のある室内》(写真上)は本展覧会の展示品を「素材」にした絵です。
よく見ると、室内には近代美術館鎌倉別館の野外彫刻があり、山水の風景に溶け込むように館内の所蔵作品が描かれています。室内と野外をぐるんとひっくり返してしまったような歪んだ空間が魅力的です。
展示の中で特に印象的だったのは、展示室に入って左奥にある大きな掛け軸《ATOPON》(写真下)です。
遠くから見ると海と岩の山水画のように見えますが、近づくとドットの集合体で構成されており、イメージの脆さや見間違いの面白さがひときわ際立っていました。
画像出典:湘南人
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コラージュのアイディアを集めたテーブルもありました。標本を見るような楽しさがあり、つぎはぎされた絵の組み合わせに想像力をかき立てられます。
ガラスケースに丸石を置くことで生まれた影を作品の一部として使おうとしているところなど、平面と空間を行き来しようとする岩竹さんの研究の手つきも伺えました。
画像出典:湘南人
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片岡純也の新作:「動き」の面白さ
画像出典:湘南人
片岡純也さんは美術品の「動き」に注目し、人体のモチーフを使って表現した、キネティック(=運動エネルギーのある)作品を展示していました。
屏風絵の下岡蓮杖《琴棋書画》のそばには、屏風の一部が背骨になった《風呂蓋上波動脊椎屏風》(写真下)が立てられています。会場の真ん中には、骨の関節が上下に開閉する《掛け軸による関節の運動》という作品もありました。
ちょっと不気味で笑える装置の中には、動きそのものを面白いと思う作者の眼差しが含まれています。
画像出典:湘南人
展示室に入って右手にそびえる木製の装置(写真下)も面白く鑑賞できました。
ひらいた障子の隙間からは、狩野芳崖《松下牧童の図》の絵の一部が切り取られて見えて、まるでミニチュアの掛け軸が現れたようでした(写真下)。装置は内側に入り込むこともできます。
画像出典:湘南人
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片岡純也さんの立体作品には、観客の動線を作って足を運ばせたり、光や音で空間をまとめあげる力があって、展覧会を一段と動きのあるものにしていました。
「やじろぐ枝」ワークショップ
画像出典:湘南人
3月25日(火)には、岩竹理恵さんと片岡純也さんを講師とした「やじろぐ枝」ワークショップが行われたそうです。
「やじろぐ枝」というのは片岡純平さんの作品で(写真上)、このような重力とバランスを感じられるオブジェを、木の枝や竹ひごなどを使って参加者のみなさんで制作されたそうです。
図録・ギャラリートーク
画像出典:湘南人
ミュージアムショップでは「岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑」展の図録を販売しています(1400円/税込)。
村田真氏とジョン・L・トラン氏の批評、担当学芸員の西澤晴美さんの解説が掲載されています。展覧会の雰囲気から作品の細部まで心置きなく眺められる図版はぜひ手に入れておきたい1冊です。
「岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑」は、4月13日(日)までの開催です。最終日の4月13日(日)16:00からはアーティストによるギャラリートークが開かれます(申込不要・無料)。
会場の雰囲気に包まれることでより楽しめる展覧会です。お近くの際はぜひお立ち寄りください。
画像出典:湘南人
岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑
開催期間
2025年2月1日〜4月13日 9:30〜17:00
休館日:月曜日
開催場所
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
住所:〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1
駐車場:なし
観覧料
一般/700円(税込)
20歳未満・学生/550円(税込)
65歳以上/350円(税込)
高校生/100円(税込)
主催
神奈川県立近代美術館
助成
公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
支援
令和6年度文化庁メディア芸術
クリエイター育成支援事業