わが子の「学童」どこがいい? 本当に入れるべき? 学童に迷った親が考えるべきこと〔専門家が解説〕
学童の選び方、子どもが「行きたくない」と言い出したら? 民間学童や保育園を幅広く展開する東急キッズベースキャンプ代表取締役社長・島根太郎氏インタビュー第1回。全3回。
【画像】民間学童保育の先駆け「キッズベースキャンプ」を見る学童こと学童保育は、放課後や長期休暇中に小学生を預かり、遊びながら学べる環境を提供する施設やサービスのこと。仕事に家事に介護に……と忙しく働く保護者目線で考えると、子どもが学童に楽しく通ってくれるかどうかは死活問題です。保育園や幼稚園から小学校に入学する子どもの学童選びのポイントを、民間学童保育の先駆けである「キッズベースキャンプ」(KBC)を2006年に立ち上げ、東京都学童保育協会理事で保育士の資格も持つ島根太郎さんに聞きました。
地域で違う学童保育の呼び名
子どもの通う学童(学童保育)を探し始めたとき、保護者が最初に戸惑うのが呼び名の違いです。学童保育、放課後児童クラブ、放課後キッズクラブ、学童保育クラブ、育成室など。
なぜ地域によって呼び名が異なるのでしょうか? 2006年から約20年、学童保育事業に携わる島根太郎さんに成り立ちについて伺いました。
「じつは学童の始まりは国が作った制度ではなく、戦後の日本の復興・発展の中で地域ニーズから民間の草の根的活動で少しずつ広がっていきました。特に核家族化で共働きが増えたことが全国に普及していった起点となっています。
放課後、家に帰っても誰もいない。鍵っ子になる低学年の子どもたちの安全のため、日本各地で保護者中心となり、各地域に学童的な預かり施設を立ち上げていったのです。
それを自治体が後から追認したり、保護者の要望で事業が始まるなど制度化した経緯があるため、呼び名が違うのです」
共通しているのは、「放課後や夏休みなどの長期休暇中に小学生を預かり、遊びながら学べる環境を提供する施設やサービス」であること。
現在は、呼び名は違っていても大きく分けて3つの学童があります。自治体が設置・運営する「公立公営学童」。自治体が設置し、運営は企業やNPOに委託する「公立民営学童」。企業やNPOなどが運営する「民立民営学童」のいわゆる民間学童です。
〈公立学童と民間学童 それぞれの特徴と費用〉
・公立学童の特徴
費用:月額5,000円程度(おやつ代含む)
時間:多くの自治体で19時まで延長対応
内容:基本的には放課後の見守り保育
・民間学童の特徴
費用:月額5万円程度から(放課後の毎日利用の場合)
時間:22時まで預かる施設もある
内容:独自の教育プログラムを提供
公立民営学童は費用や預かり時間は公立ベースで、運営する企業やNPOの教育プログラムやサービスを受けることができます。費用や時間、内容は施設によって異なります。
小学校で過ごす年間時間が1200時間に対し、放課後時間は1600時間とじつは上回っている。 写真提供:東急キッズベースキャンプ
学童選びのポイントは?
子どもが通える学童の数は地域によって大きな格差があります。都市部では公設学童で平日の朝7時台から子どもを預かり、働く保護者をサポートする試みが始まるなど、民間学童も含めて豊富な選択肢が。しかし、地方では民間学童がほとんどない地域も少なくありません。
そうした地域差を踏まえたうえで、島根さんに公立学童・民間学童に共通する学童選びのポイントを聞くと、以下の3つのポイントを示してくれました。
学童選びのポイント①:子どもの様子を観察
学童選びでもっとも重要なのは、実際に見学に行くことです。
「お子さんはお父さんお母さんのことが好きなので、『ここの学童がいいんじゃない?』と言われれば多くが『うん』と言ってくれます。
だからこそ、保護者が事前に開催される体験イベントなどに見学へ行き、通っている子どもたちが本当に楽しく過ごせているか、その様子を直接見ることが大切です」
ちなみに体験イベントの際、子どもだけをイベントに参加させ、自分は買い物に行ってしまう保護者もいますが、それはおすすめしないと島根さんは言います。
「事情はそれぞれおありだと思いますが、子どもがどのように他の子と交流して馴染めそうかを感じられるチャンスを逃すのはもったいないこと。終わった後も『どう楽しかったのか』『どんな気持ちだったのか』を聞くことが大切です」
学童選びのポイント②:リスク管理体制の確認
施設のきれいさ、行き帰りの便利さだけでなく、安全面の確認も重要です。
「保育には常にリスクがあります。食物アレルギー、感染症、いじめや性加害、災害時の対応など。イベント参加時、施設の見学時には、こうしたリスクを想定した対策が講じられているかを質問しましょう」
食物アレルギーの対応ルールは? 感染症対策はどのように行っているか? 災害時のBCP(事業継続計画)は整備されているか? 性加害に対する職員の研修制度はあるか?
「施設側からすると厳しい質問をされたとき、きちんと答えられないところは避けたほうがいいでしょう。リスク管理がしっかりしていない可能性があります」
学童選びのポイント③:「静と動」「集団と個」の両方の活動
子どもの成長段階や日々の気分に応じて、さまざまな活動を選択できる環境かどうかも確かめておきたいポイントです。
「お子さんにとっては『静』と『動』の両方の活動が選択できる学童であるほうが楽しく通えるはずです。同じ子でも、学校で嫌なことがあったときは漫画を読んでいたい日もあれば、元気いっぱいドッジボールをしたい日もあります。
また、長期休みには朝から長時間過ごすことを考えると、疲れたときに昼寝ができるような空間があることも望ましいです」
この点、学習系に力を入れている民間学童では教育プログラムが充実している分、屋内で机に向かう活動がほとんどというケースも。『静』ばかりでは、放課後を楽しく過ごせる場とはならないかもしれません。
子どもがある日「行きたくない」と言い出したら?
子どもが新1年生になり、学童にも通い始め、一安心。保育園や幼稚園時代とは違う新しい生活のサイクルができはじめた……と思いきや、子どもが「学童に行きたくない!」と言い出すケースもあります。そんなとき、保護者はどうしたらいいのでしょう?
「じつは私の長男も小1の春に『学童、つまんない!』と学童を脱走。ご近所を巻き込んでの大騒ぎになった経験があります。
その顚末は『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』(講談社+α新書)に詳しく書きましたが、親はパニックになりますよね。でも、まずは子どもの言い分を聞くところから始めましょう」
キッズベースキャンプは2006年に民間学童として始まり、2008年に東急グループ入り。現在(2025年8月)は学童保育・児童館を中心に保育園から中高生施設まで81施設を運営。 写真提供:東急キッズベースキャンプ
十分に耳を傾け、本人の不満や不安を受け止めることで子どもの気持ちが切り替わるのはよくあること。しかし、「やることがなくてつまらない」「学校の友だちがいない」「職員が怖い」など、具体的な理由があるなら学童の転所も含め、放課後の過ごし方の再検討が必要かもしれません。
「お子さんの行きたくない理由について施設側と相談してみること。その過程で保護者として『この人はいいな』と感じられる指導員がいるなら、もう少し様子を見るのもいいと思います。逆に『対応が不誠実』と思うなら、別の選択肢を検討しましょう。
ほかの学童があるならそちらの見学に、通える学童がほかにない地域なら児童館の一般来館や各自治体が運営する『放課後子ども教室』などと、習い事を組み合わせるという方法もあります」
保護者の事情を踏まえながらも、子どもが放課後の時間を楽しく安全に過ごせる選択をしたいものです。
「学童は子どもにとって『第3の居場所』。家庭でも学校でもない、子どもが安心して過ごせる場所を選んであげてください」
次は家でできる「非認知能力」の伸ばし方について、引き続き島根太郎さんに伺います。
取材・文/佐口賢作
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●島根太郎(しまね・たろう) PROFILE
株式会社東急キッズベースキャンプ代表取締役社長 社長執行役員。2006年に日本初の民間学童保育施設「キッズベースキャンプ」を創業。2008年に東急グループ入り。民間学童保育のパイオニアとして業界を牽引している。2025年5月に初の著書『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』(講談社+α新書)を出版。
島根太郎氏が長年の学童現場でつちかった子育ての有意義な取り組みについて記した『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』(講談社+α新書)
連載は全3回 (※公開時よりリンク有効)