【レビュー】「スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド」理想的な「ホワット・イフ…?」、ピーター・パーカーの普遍的魅力を改めて証明する新スタンダード
で配信された「スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド」初回2話を鑑賞して、これぞ求めていた「ホワット・イフ…?」……というか、「ホワット・イフ…?」がいつの間にか失っていた探究心を真に再現するシリーズであると感銘を受けた。“一周回ってスパイダーマンのオリジンを描き直す”という挑戦にも成功している。
(MCU)でトム・ホランドが演じたバージョンを含め、これまで映像化されたものとは別世界のピーター・パーカーを描く。特殊なクモに噛まれてスーパーパワーを得るオリジンはMCU版では割愛されていたが、「フレンドリー・ネイバーフッド」はよく知られた神話の瞬間にひねりを加えて再創造した。
© 2025 MARVEL. All Rights Reserved.
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ベンおじさんを失って落ち込むメイおばさんと暮らす高校生のピーター・パーカーは、ロボット工学に憧れて名門ミッドタウン高校へ進学する。しかし入学説明会の当日、異世界からのポータルを通じて出現したシンビオートの怪物とドクター・ストレンジの戦いによって校舎が崩壊。この時ポータルから芥川龍之介的に垂れ降りてきたクモに噛まれた数ヶ月後、ピーターは手製スーツでスパイダーマンとして自警活動を始めていた。高校生とスパイダーマンの二重生活を送るピーターの元に、ニューヨークいちの有名人である実業家ノーマン・オズボーンが現れ、オズコープ社のインターンにスカウトするのだが……。
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クイーンズに住む科学オタクの高校生で、おしゃべりなお調子者。困っている人がいたら見過ごせない。ピーター・パーカーというキャラクターの普遍の魅力を、「フレンドリー・ネイバーフッド」はフレッシュなやり方で再び説いている。スティーヴ・ディッコの画風を目指ししながらコミックのコマ割りを再現したアニメーションは斬新だ(コマ割り映像化の難しさは、『ハルク』(2003)でアン・リーも苦労しただろう)。2000年代のテクノ調アニメ「スパイダーマン 新アニメシリーズ」も2Dと3Dの境目をデジタルアート的に行き来したが、本シリーズではオーセンティックな作風で往年のコミックをリアレンジしている。キャラクターも表情豊かで愛嬌があり、親しみやすい。
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ピーターの同級生たちのキャラクター設定も人種や性自認が多様で現代的だが、当てつけがましさや説教くささもない。この点、ピーター役本国声優のハドソン・テームズが「鬱陶しくて“woke”なものになるのかというのが最大の懸念でしたが、そうじゃなった。よく描かれています」とという通りだ。
この物語には現時点でピーターのいじめっ子として有名なフラッシュ・トンプソンは登場せず、代わりにロニー・リンカーンという名の先輩が描かれる。アメフト部の花形キャプテンで、ガタイもよくてクールな校内の人気者。ピーター憧れのパールから彼氏の座を奪ってしまうのだが、彼が嫌味でないところも観ていて心地よい。むしろロニーは根っからのナイスガイで、ピーターのことをきちんと評価して親しくしてくれる。第1話では、ロニーも貧困街から通学する問題を抱えた少年であることが示唆される。なおロニーは原作コミックではヴィランに転身するので、今後の波乱も予想される。
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MCUと繋がるイースターエッグも豊富で、最もわかりやすいのは帰宅したピーターがリビングでノーマン・オズボーンの訪問に気づく瞬間。これは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でロバート・ダウニー・Jr.のトニー・スタークが訪ねてくる場面の構図やカメラワークが再現されている。
キャプテン・アメリカやドクター・ストレンジといったお馴染みのヒーローも登場するほか、まだMCUで映像化されていなかったコミック出身のキャラクターも多数登場。ゲーム「Marvel's Spider-Man」のプレイヤーに目配せする瞬間など、ファンに通じるギミックも散りばめられている。
長年の反芻を繰り返したピーター・パーカー/スパイダーマンの物語に、視聴者のMCU知識を活用したアナザーストーリーを興味深く描いている。これはディズニープラスのアニメ「ホワット・イフ…?」のさらに上を行く挑戦だが、今のところ全てがうまくいっているように見える。
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MCU世界の“もしも”を描く「ホワット・イフ…?」で筆者が残念に感じたのは、シーズンが進むにつれてフランチャイズにおけるセンス・オブ・ワンダーを失っていったことだ。シーズン1ではMCUの正史からのバタフライ・エフェクト的変化が現れた物語に取り組んでいたが、シリーズが進むにつれて、単に既存のキャラクターの役割や設定を乱雑にシャッフルしているだけのように見えた。正史と別世界を描くというのは、良く言えば自由なストーリーテリングを可能にしたのだが、視聴者にとっては「何のために観なくてはならないのか」と考えさせる副作用もあった。オムニバスという性質上、物語に連続性を作りにくく、キャラクターと視聴者の感情的な繋がりを創出しにくいという弱点もあった。
一方「フレンドリー・ネイバーフッド」はすでにシーズン3までが内定しているといい、これまで以上にキャラクターや世界観をじっくり掘り下げられる。今後には先輩や仲間のヒーローも登場することになるはずで、彼らとの共闘を通じてピーターの成長をいかに見せるかに注目したい。このキャラクターは天性の朗らかさに対して悲劇的な展開も知られるので、筆者は本シリーズのピーターが今後どんな困難に突き当たってしまうのかとすでに心配。親戚のおじさんのような目線から観察できるのが楽しい。
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テンポも良いが見応えがあり、スパイダーマンの習熟度にかかわらず誰もが楽しめるニュー・スタンダードの誕生だ。「スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド」はディズニープラスで配信中。