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【藤沢 イベントレポ】長塚圭史トークイベント『光と影の劇場』-KAAT神奈川芸術劇場芸術監督の語る劇場の魅力

湘南人

画像出典:公益財団法人藤沢市みらい創造財団

2025年3月22日(土)、藤沢市民会館第2展示集会ホールにて、長塚圭史さんによるトークイベント『光と影の劇場』が開催されました。

長塚圭史さんは1975年生まれの劇作家・演出家・俳優です。1996年、早稲田大学在学中に「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成して以降、国内で精力的に演劇活動をしてきました。2008年には文化庁・新進芸術家海外研修制度でイギリスへ留学。2021年4月にKAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任してからは、地域に根ざした劇場を目指してさまざまなプロジェクトを進めています。

今回藤沢市でトークイベントが開かれたのは、長塚さんが演出した「花と龍」(2025年2月)の舞台美術家の活動拠点が藤沢市であったり、2024年11月に江の島サミュエル・コッキング苑で開催された能登のチャリティイベントに関わりがあったりなど、近年、藤沢市との交流ができたことにきっかけがあるようです。

約1時間の講演会でしたが、ご自身の幼少期から現在のKAAT神奈川芸術劇場の取り組みまで話題は広く、濃密な時間となりました。

生い立ち

画像出典:湘南人

長塚圭史さんは幼い頃から映画を見て育ちました。俳優をしている父の影響で、特に「荒野の七人」(ジョン・スタージェス監督/1961年)など西部劇をよく見ていました。

長塚さんが人生で1番最初に出演した演目は「おしゃべりなたまごやき」(寺村輝夫作)。演じたのは主人公ではなく王様役でした。これも悪役か脇役を演じることの多かった父の影響を受けてのことだと長塚さんは話します。

高校に進学した長塚さんは高校演劇を始めます。しかし思い描いていた環境ではなかったために、ほかの部活の学生や素人の友だちを誘ってプロデュース公演をしていました。高校2年生になると、大学生と一緒に公演をする機会もあり、演劇の意欲は学外へと広がっていきました。

早稲田大学に入学すると、長塚さんの演劇活動はより本格的になっていきます。素人と一緒に作る方がおもしろい表現が見れるという思いのもと、未経験者を集めて劇団を作りました。在学中に「劇団笑うバラ」を結成、解散後、1996年に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成しました(2017年に劇団化)。

阿佐ヶ谷スパイダース

画像出典:公益財団法人藤沢市みらい創造財団

「阿佐ヶ谷スパイダース」が有名になると共に、長塚さん個人の知名度も上がり、演劇に映画に忙しい時代が始まります。

長塚さんが当時、舞台演出において掲げていた目標は「映画を越える演劇」。現場での出会いが出会いを呼び、プロフェッショナルなスタッフとチームを組めるようになってくると、長塚さんの求めるリアリズムな演劇も次々に実現できるようになりました。

特殊メイクに2時間をかけたゾンビもの「悪魔の唄」(2005年)や、地中で15年暮らす設定の「イヌの日」(初演は2000年)など、視覚的にも内容的にもハードな演劇を上演してきました。

転機となったイギリス留学

画像出典:公益財団法人藤沢市みらい創造財団

劇作家・演出家・俳優の3役をこなす忙しい日々を送っていた長塚さんは、2008年から1年間、文化庁・新進芸術家海外研修制度でイギリスのリースへ留学することになりました。

この留学中に、長塚さんを芝居の原点に立ち返らせるような出来事がありました。それが、国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターの「Studio」という場所との出会いです。

Studioはアーティストが次に何をやるか試行錯誤するための場所だそうです。アイディアを持っているだけの状態のアーティストに、思考を練る場所を与え、必要であればスタッフも用意し、さらにギャラも発生するという至り尽くせりのStudioのシステムに長塚さんは驚き、刺激をもらったと言います。

長塚さんは井上ひさし作の「父と暮らせば」をテーマにStudioに滞在しました。「父と暮らせば」は、原爆投下後の広島にひとり生き残った美津江の話です。長塚さんは広島のことを調べ直し、イギリスの方に向けてワークショップを開きました。ワンシーンだけ見せる発表の場では、イギリスの俳優に和服を着せることはせず洋装のまま演じさせ、新しい「父と暮らせば」の可能性を探ろうとしました。

KAAT神奈川芸術劇場での活動

画像出典:湘南人

帰国してからの長塚さんは、それまでリアリズムに見えるように組んでいた複雑な舞台セットを、ぐっとシンプルにしていく方向に切り替えました。葛河思潮社の「浮標」(三好十郎作/初演2011年)では、舞台に砂を敷き詰めた世界を作りました。演出・出演した葛河思潮社第3回公演「冒した者」(2013年)では、直前になって舞台美術を取り払い、素舞台にイスだけで上演しました。

長塚さんは「舞台はお客さんと共に作り上げる」という考えを持ち始めたと言います。劇場というブラックボックスだからこそ広がるイメージがあり、俳優が「これは海です」と宣言したら海になる、そういう言葉の契約を結びやすい場所の利点を活かし、目に見えない部分も観客の想像力に委ねるような演出をつけるようになりました。

劇場と地域

画像出典:湘南人

横浜市にあるKAAT神奈川芸術劇場は、約1200人を収容できるホールを持つほか、大スタジオ、中スタジオ、アトリウムなど用途に合わせた空間をあわせ持つ、神奈川県屈指の大きな劇場です。2021年4月、そのKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督に長塚さんは就任しました。

地域に根ざした劇場を目指して、長塚さんはさまざまな取り組みをしています。シーズン制を作ったり、ツアープロジェクトというKAAT神奈川芸術劇場で制作した作品を県内のあちこちで上演するという活動、近隣の方々や多分野のアーティストを巻き込んだKAATペーパーという広報紙も配布しています。また、イギリス留学で出会ったStudioのように、アーティストが自分のアイディアを実験できる場所の提供「カイハツ」プロジェクトも進めているようです。

最後に短い質疑応答の時間があり、トークイベントは終了しました。なかなか聞くことのできないお芝居の裏側や公共劇場のお話に、参加者のみなさんもじっと耳を傾けていました。

長塚さんは「KAAT神奈川芸術劇場はみなさんの劇場なので、ぜひ活用してほしい」と呼びかけます。劇場は新しい視点を得る場所、想像力を羽ばたかせる場所です。今後、KAAT神奈川芸術劇場がアーティストや地域にとってどのような場所になっていくのか、長塚さんのご活躍とあわせて、ますます楽しみです。

画像出典:湘南人

長塚圭史トークイベント『光と影の劇場』

開催日時

2025年3月22日 13:00〜14:00

開催場所

藤沢市民会館第2展示集会ホール
住所:〒251-0026 神奈川県藤沢市鵠沼東8−1

駐車場:あり

参加費

無料

主催

公益財団法人藤沢市みらい創造財団

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