<タラ>が古くから保存食に利用されてきた理由 重要なタンパク源として重宝?
スーパーでよく見かける、身近な白身魚「タラ」。
実は長期保存ができる貴重なたんぱく源として、古くから重宝されてきました。
そんな「保存食としてのタラ」は日本はもちろん、世界にも存在しています。
日本では<マダラ>や<スケトウダラ>など流通
タラは寒冷な海に生息する白身魚のことをいい、日本では主にマダラ(真鱈)が食用として知られています。
ほかにも、スケトウダラ(助宗鱈)やコマイ(氷下魚)など、タラ科には複数の種類があります。
マダラは体長1メートルを超える大型魚で、日本では北海道から東北にかけての冷たい海に分布し、産卵を迎える冬が旬です。
伝統食材「棒鱈」は重要なタンパク源として重宝
「棒鱈(ぼうだら)」という加工食品があります。
これは、マダラを開いて内臓を取り、塩を使わずに冬の寒風で乾燥させた伝統食材。水分が完全に抜け、木の棒のように硬くなることが名前の由来です。
驚くことにその保存期間は半年以上にもおよび、江戸時代には海から遠い内陸部でも流通していたほど。その軽さと保存性の高さから、各地の重要なたんぱく性保存食として重宝されてきました。
京都では正月料理である「芋棒」(海老芋との炊き合わせ)などに欠かせない食材で、「たらふく食べられる」という縁起も担ぎます。
何日も水で戻すなど食べるまでに非常に手間のかかる食材なのですが、今でも年末の京都では棒鱈がスーパーに並んでいます。
北欧・海の戦士ヴァイキングが愛用した乾燥タラ
海を渡ったヨーロッパでも、タラの干物は保存食の王様でした。
中世のヴァイキングたちは、ノルウェー沿岸で作られた「ストックフィッシュ(Stockfish)」という干しダラを、遠征航海に持参していました。
風通しのよい冷涼な場所で自然乾燥されたタラは、水分が完全に抜けて腐りにくく、長期保存が可能。船上でも火を使わず、軽く叩いて戻すだけで栄養価の高い食事、なにより貴重なたんぱく源となり、海の戦士たちの活躍を支えたいいます。
この技術はその後、大航海時代のポルトガル人やスペイン人にも受け継がれ、世界中に「バカリャウ(干しダラ)」の文化が広まりました。
なぜタラは保存食に使用されるのか
タラの身には脂肪が少ないという特徴があります。そのため、乾燥させても酸化しにくく、他の魚より長持ちするのです。
また、北欧では冷凍乾燥(フリーズドライ)状態が冬の気候で自然に起こり、さらに乾燥を進めます。
日本の棒鱈も、寒風で水分を飛ばし殺菌効果のある低温下で乾燥されるため、安全かつ長期保存が可能。どちらも、寒い海に生息するタラの産地ならではの加工方法ですね。
乾燥前に塩を使う場合でも、タラの身はしっかりと塩分を吸収し、強い抗菌性を発揮します。さらには、乾燥・塩蔵どちらでも調理の幅が広く、水戻しして煮る・焼く・蒸すなどあらゆる調理法に適応できます。
最強の保存食・タラ
タラは、保存性に優れた身質と、加工技術に適した性質を併せ持つ、まさに「最強の保存食」。
日本では棒鱈として、ヨーロッパではストックフィッシュやバカリャウとして、海と陸を結ぶ貴重なタンパク源として親しまれてきました。
保存性が高いという特徴は、単なる食材の枠を超え、歴史を支える力となってきたのです。
(サカナトライター:halハルカ)