Yahoo! JAPAN

不登校からひきこもりに。高校生息子が外に出だしたきっかけとは?

LITALICO発達ナビ

不登校からひきこもりに。高校生息子が外に出だしたきっかけとは?

監修:新美妙美

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教

コロナ禍で深まったひきこもり、ヘルパーさんとの最初の一歩

息子が外に出られなくなったのは、ちょうど新型コロナウイルスが流行し始めて世間が一斉に休校・自粛ムードになった頃でした。ロックダウンや休校が一部解除になっても、特性上マスクの着用が難しかった息子は感染不安からますます外へ出なくなりました。時々登校チャレンジをしてみたり、修学旅行だけ頑張って参加してみたりと、少しずつ外出を試みてはいたのですが、元々人が大勢集まるようなところが苦手なため外への足は遠のき……。心の調子が伴わないこともあり、毎日家でパソコンと向かい合う日々が続きました。

不登校のまま中学生になり、相談支援を入れることになりました。相談支援員さんには、ホームヘルパーのサービスを利用することを提案されました。

ホームヘルパーさんとはすぐに打ち解けることができ、交流を深めていきました。そのうちに、移動支援というサービスがあることを教えていただきました。受給者証を取得しましたが、なかなか外出にはつながらず。拒否反応が多かったのですが、「プロがいる」という安心感から近所のコンビニや神社にお散歩するなど、数か月に一度程度でしたが、外に出ることができるようになりました。

移動支援事業とは、移動が困難な人に対してガイドヘルパーが行う外出の支援サービスです。これは障害者総合支援法にもとづく地域生活支援事業サービスの一つであり、障害のある人の地域での自立した生活と社会参加を促すことが目的です。

https://h-navi.jp/column/article/35026013

スマホで解消!カギの開閉問題

そんな息子のさらなる外出のきっかけとなったのは『スマホ』でした。これまでは親の古いスマホを自宅だけで使っていたのですが、通信制高校入学を機に契約し外で持ち歩けるようにしました。そして、そのスマホにはスマートロックのアプリを入れたのです。

わが家の玄関はスマートロックを利用しています。このスマートロックというのは、ドアの施錠・解錠をスマホのアプリで操作できる便利なもので、開閉時にはスマホに通知がくるので子どもの出入りを把握できます。また、時間を設定しておくと、解錠何分以内に鍵が自動で閉まるため、子どもがもし鍵を閉め忘れても安心です。このアプリを息子のスマホに入れたところ、大正解でした!

どうもこれまで、「もし失くしたらどうしよう」「鍵をかけ忘れて泥棒に入られたらどうしよう」などという思いから、自宅の鍵を持ち歩くのが怖かったようです。スマホなら鍵よりも失くしにくい上、鍵の開閉は出先からでも確認できるし、操作できます。それを目視でいつでも確認できるというのは、息子の不安感を解消するのにとてもマッチしていました。

そしてスマホさえあれば、外で困っても私に連絡できるのです。ずっとひきこもり状態が長く続いたため、スマホの契約にためらいがあったのですが、こんなこと一つで外出のハードルを一足飛びに飛び越えることができるのなら、もっと早くに契約すればよかったと思いました。

外への恐怖を支えてくれたネットの友だち

スマホにはウォーキングアプリも入れました。街中にあるスポットでキャラクターと戦ったり仲間を集めたりするゲームで、駅のほうへ向かうとその出現率が高まります。

また、スマホで外の風景を撮ることにもハマりました。特に空の写真を撮るのが好きなようで、歩いていて良い風景に出会った時は「ちょっと待って」と足を止め、きちんと道の端っこに寄り、うれしそうにお気に入りの風景をカメラに収めていました。

そして何より、息子のスマホの外出を助けてくれたのはネットで知り合った友だちでした。外へ出る時は通話をしながらだったり、息子が散歩に行くというと「じゃあ俺も行く!」と遠く離れた土地で同時に散歩をしたりと、息子の障害のことは本人が話したり相談したりしているから知っていると思うのですが、けして押し付けがましくもなく、同情するでもないそのさりげないサポートに、息子だけでなく親の私も救われました。

最後は食!食欲パワーでいざ外の世界へ飛び出そう!

息子は何よりも食べることが好きです。外へ行けなくなり外食も難しくなった日々が続いていたのですが、少しずつ外出が増えた今、ご褒美作戦に出ることにしました。

「明日、通信制高校の面談やから、何か食べて帰ろうか。ファミレス?」
「今度の病院の帰り何食べたい?中華食べたいって行ってたやんな?」
「いいお天気やから散歩して、ついでに駅前のテイクアウト寿司屋さんにお寿司見に行こう!」
外出とおいしいものをセットにしたのです。

この作戦は成功したようで「食べたいから外出頑張る!」と外へ出ることへの原動力となり、今では息子のほうから「コンビニで新しく出た商品が気になるから買いに行きたい!」と言ってくれるようになりました。また、料理が趣味なので自分でつくりたいものの材料をスーパーに行って買って帰ってくることができるようになりました。これも食の力です。

心が元気にならないと食への欲求は生まれてこないと思うので、やはり少しずつ息子の心は元気になってきたのだと思います。

外出がつらかった本当の理由は、「見えづらさ」

こうして外出することが増えてきた息子ですが、最近になって、外出が苦手な理由の一つが新たに分かりました。もともと軽い斜視があったのですが、疲労時は目の焦点が合わず、よく見えていなかったのです。そのため、主に耳から情報を得ていたようでした。

たとえば背後から自転車がスピードを出しながらやってきた場合、私はすぐに気づくことができますが、息子は音を頼りにしているのですぐに反応できないのです。外に出るたびそういう状態だということで、「それはパニックにもなるし、疲れるわ!」と思い、眼科の先生に相談したところ、斜視が進んでいたので手術での改善をすすめられました。児童精神科の先生も「外から治せるものは全て治しましょう!」と賛成してくださり、治療に向けて動き出すことになりました。斜視だけでなく、特性上での問題もまだまだ大きいのですが、少しずつでも息子の外出がラクになるよう、これからもサポートしていくつもりです。

執筆/花森はな

(監修:新美先生より)
花森さん、息子さんの外出機会が少しずつ増えていく過程を丁寧に書いてくださり、ありがとうございました。
感覚の偏りや不安の強さなど、外出が難しい理由は人それぞれですが、心身の状態が落ち着き、心のエネルギーが少しずつ充電されてくると、興味の広がりとともに外の世界へ向かう力が芽生えてくることもありますよね。自分から「外に出てみようかな」という気持ちが芽生えたとき、その一歩を支えてくれる環境や人の存在があると、とても心強いものです。
移動支援のヘルパーさんの存在も、思春期以降の外出支援としてとても参考になります。親だと甘えや反発が出やすい時期に、安心して頼れる第三者がそばにいることで、外出の経験と自信を積み重ねていけるのはとても良い方法で、参考になる方も多いと思います。
また、スマホが外出の不安を和らげ、モチベーションを高めるツールとして活躍している点も興味深く拝見しました。鍵の不安を解消したり、外の風景を撮ったり、ネットの友だちとつながったりと、スマホが息子さんの「外とつながる窓」になっているのですね。スマホを上手に活用しながら、少しずつ外の世界と関わりを持っていく息子さんの姿に、大きな希望を感じました。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. ちいきの芽(2025年11月28日号 掲載)

    チイコミ! byちいき新聞
  2. 【金沢駅前】「金沢フォーラス」6階レストランゾーンが大規模リニューアル!北陸初出店グルメや地元の名店が勢揃い♪【NEW OPEN】

    週末、金沢。
  3. 市川團子(アシタカ)・中村壱太郎(サン)出演で、スーパー歌舞伎『もののけ姫』の上演が26年に決定

    SPICE
  4. 【実録】ひとり参加は浮くってマジ? 100人規模の「ハイスぺ限定婚活パーティ」に潜入してみた

    ロケットニュース24
  5. 【松山市・風月堂】100年続く老舗の味 みそ松風

    愛媛こまち
  6. 【松山市・西岡菓子舗】和の伝統を受け継ぐ

    愛媛こまち
  7. 【福袋2026】期待して買った「防災用品福袋」が残念すぎた…口コミ後に届いた特典だけリアルに助かる内容だった

    ロケットニュース24
  8. 砂川にSHIROの新レストランがオープン!コース料理で味わうエゾシカ肉…金土日ランチ限定

    SASARU
  9. 能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第20回)

    まるごと青森
  10. 三日坊主で日記が続かないあなたへ! 「ほぼ日手帳」こそ最強のライフログアプリかもしれない

    ロケットニュース24