能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第20回)
シリーズバス終点の旅・津軽半島空白の地「元宇田」の旅 ハード編
蟹田駅からバスに乗ってたどりついた先、それは「元宇田」。その、つづきの話。
あとから調べたところ、ここも2022年夏に水害に遭っていたことを知った(当時は鰺ヶ沢町での被害が比較的大きく、よくニュースになっていた)。こんな平地の狭いところでさぞ大変だったろうと思う。道が復旧して本当によかったです。
このあたりはどこも山が海べりまでせり出しているのだが、地図を見ると、海沿いの道から山側にのぼったところにいくつも神社があるみたい。
まずは前回登場、「ホッケの祖」こと僧・日持さんも海上安全祈願をしたという三十番神。
鳥居が鋭く、立派。
海のそばがすぐ山なので、当然、鳥居をくぐると長い階段がある。中年という自覚もしっかりしみついた私は階段の存在にかなりおじけづくが(階段は中年の敵である)、今回のお供となる若い2人の前で引き返すわけにはいかない。のぼりますよ。
上り口では全く先が見えない。
全然見えない。
この連載、初回からしてずいぶんな山道だったが、気づくといつもこんな道ばかり進んでいる。瑞の富士、陸奥桜という若い2人も苦戦気味である。こんなところに来させて仕事が嫌になったりしないだろうか、不安を抱えながらのぼる。
だいぶのぼったけど、まだ先が分からない。
振り向いてみる。海沿いの高台なので、さすがに景色がいい。
「やっぱり景色いいねえ。2人、大丈夫かな、なんかまだ先が長そうだけど……」
「大丈夫です、まだまだいけます」
急に登山もどきに駆り出された2人が景色に癒やされていることを願いながら進む。
対岸の下北半島が見えます。
いよいよ森の中という雰囲気になってきて、傾いた小屋が現れた。
これがなんなのかは未解決です。
そんなこんなで、社殿(?)に着きました。
山の上、森の中なので、光が非常に神々しい。でも、建物自体はなんというかまあ、ふつうというか、あまり神社っぽくはなかった。
こんな感じでした。
上った先にあるものがすべてではない。上るまでの過程すべてが神社なのだ!
……みたいな結論にしておいた。
まあ、下りましょうか。
お腹も空いたので車で道をだいぶ戻り、「ペンションだいば」へと移動。
焼干ラーメン駅のすぐそばにある「ペンションだいば」は、名前はペンションですが、レストランとしても愛されています。
焼干ラーメン駅って何?ですって?そりゃあなた、自然の恵み線の焼干ラーメン駅ですよ。
ほら。ここは自然の恵み線・焼干ラーメン駅のホームです。ウソです。
焼干ラーメン駅のホームにある看板に見えるじゃないですか、この看板。ちなみにこの近くに電車が通っていたことは過去にも現在にもありません。
文字がかわいいペンションだいば。
このあたりは、江戸時代末期に異国船が出没するということで砲台場が作られたため、「台場」と呼ばれるらしい。東京のお台場と由来は同じである。ここは、青森のリゾート地・お台場なのだ。
さて、お店に入ろうとしていると、お店のご主人の対馬光児さんがものすごくナチュラルに登場。
「あのね、能町さんに来てくれないかと思ってたんだよ。泊まってほしくてね」
私たちは今日ここに来ると言っていない。というか別に自己紹介もしていない。ただの客である。突然の訪問なのにこの告白。びっくりである。
「いろいろね、読んでるの。それで平舘に来たらうちに泊まってくれないかと思って」
大変ありがたいです。が、まだお店に入ってないうちに気づかれてお店から出てきて声を掛けられたのには大変びっくりしました。なんかアイツが来てるっぽいぞ、と気づく対馬さんの第六感に私は震えました。残念ながら、今日は泊まりじゃないんだよねえ。でもごはんはいただきます。
なんとなく第六感を養えそうな土地に見えます。
そして、さっきの駅みたいな看板といい、上から出っ張ってる看板と言い、ここは看板類が妙に気になります。
ラーメンが天井から生えている。
対馬さん、この看板はどういうこと?
「特に意味ないよ。これ目立たないんだ!」
いや、かなり目立ちますって。さっきの駅みたいな看板と言い。
ともあれ、我々はお昼ごはんを頂いた。
ここの押しはなんといってもイカ。イカバーガーにイカ餃子、さらには青森県民が大好きないわゆる「イガメンチ」ではなく「イカハンバーグ」というものがある。
私はその一押しのイカハンバーグ定食1400円を頼みましたが、いわゆるイガメンチよりもイカがかなりゴロゴロしているし、なんといってもでっかいし、大満足の一品でした。
小鉢もすべてよい。見ててお腹空いてきたよ。
瑞の富士が頼んだ、駅看板でおなじみの焼干ラーメンも、苦味が少なくコクがあり、おいしい。
対馬さんによると、「高野崎がいいよ。あそこは龍飛よりいいよ」とのことなので、こっちの方面に来る人は是非高野崎に行きましょう!(今回私たちは行ってない。すみません)。
と、お腹も満たして満足なのだが、私にはまだ往路で気になっていた宿題があるのだ。これを消化せずには終われない。まだつづく。
by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。著書に、『逃北』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書いている。新刊『ショッピン・イン・アオモリ』(東奥日報社)が大好評発売中!
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