ミュージアム好きの味方、フェリシモの「グッズを日常的に楽しむ」工夫とはーー開催中『モネからアメリカへ』アイテムとあわせて紹介
美術展に行った記念に、家でも作品を楽しむために、あるいはさらに世界観に没入できるように。多彩なラインナップで展覧会の最後に彩を与えてくれるミュージアムグッズ。私は大好きで、「展覧会を観に来たんじゃなくて、買い物しに来たんちゃう!?」と自分でも呆れるほど買ってしまい、あとで反省することもしばしば。特にポストカードやクリアファイルはついつい買いがちです。そんなグッズを日常使いする雑貨に変身させるアイテムを発見したんです!
見つけた場所は、2025年1月5日(日)まであべのハルカス美術館にて開催中の展覧会『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』。ポーチやトートバッグにグッズを挟めるようになっている便利グッズで、調べるとフェリシモのミュージアム部が手がけた商品でした。
こんなの欲しかった! と嬉しくなる商品で多くのファンを持つフェリシモは、ファッションや雑貨など自社企画商品を中心に、カタログやウェブなどの独自メディアで生活者に販売するダイレクトマーケティングを行う神戸の会社です。ただ絵画のビジュアルを使うだけではない、笑顔と驚きとうなずきを与えてくれるフェリシモのミュージアムグッズは、どのようにして作られているのか。その極意に迫りたいとフェリシモ本社へ訪れました。
お話を伺ったのは、ミュージアム部・おてらぶの内村彰部長と、ミュージアム部の近藤みつるさん。フェリシモがミュージアムグッズを作る限り、グッズをつい買いすぎてしまうことへの罪悪感はいらない! そう思えるお話を聞くことができました。
●マニアが嬉しい商品を作り出す「部活動」とは?
――海が見える素敵な社屋ですね。
内村:ありがとうございます。Stage Felissimo(ステージ・フェリシモ)という建物です。2階にはfelissimo chocolate museum(フェリシモ チョコレートミュージアム)があり、一般の方も訪れることができますよ。
――本日はミュージアム部の人気商品やモネにまつわるグッズの一部を並べていただきました。本当にどれもこれも可愛くて、全部欲しくなってしまいます! フェリシモ公式部活ということですが、ミュージアム部はどんな部活なのでしょうか。
近藤:美術館、博物館、文学館、記念館など、ミュージアムが大好きなメンバーが集まる部活です。メンバーに共通しているのはミュージアムへ行くのが好きなことと知的好奇心。自分の知らないジャンルでも、それを好きな部員の話を聞いて「それ面白いね!」という会話が飛び交います。例えば、印象派が好きな人は「モネは野外に出て絵を描いて、光をとらえようとしたところが素敵なんだよ」など、好きな気持ちを聞かせてくれます。そして展覧会に作品を観に行って「なるほど」となる。その「なるほど」を企画にしていくのがミュージアム部です。
――ミュージアム部ができたキッカケを教えてください。
内村:私は現在、ミュージアム部とおてらぶを兼部しているのですが、先にできたのはおてらぶでした。新聞社の方に特別展『平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち-』の際にお声がけいただき、「らほつニットキャップ」というグッズを企画しました。それが好評で、お寺関係の特別展以外からもコラボグッズ制作の依頼をいただくようになりました。ただおてらぶではお寺関係のコラボ案件しか受けることができず、残念ながらお断りしていたのですが、それほどお声がけいただけるならと、会社内でミュージアムに興味ある人はいませんかと募り、ミュージアム部を作ることになりました。
――ミュージアム部のメンバーが所属する部署はバラバラなのですか。
近藤:はい。会社からの辞令としてではなくて「ミュージアム好きさん、集まれー!」と呼びかけて集まっています。ですので、部員の多くはミュージアム部以外の部署にも所属しています。グッズを企画するスキルやノウハウを持つ人もいれば、これまで企画経験が全くない人もいます。
内村:私は、普段から商品企画の仕事をしているのですが、そうじゃない人でも「やってみようよ!」と商品企画をできるのが部活の特徴です。フェリシモにはいくつかの部活がありますが、部署を超えて、いろんな部活を行っています。
●作家や作家の個性×暮らしの中で使えるものをグッズに
――部活動において、グッズはどんな流れで作っていくのですか。
近藤:まずは、私たちが作品や作家について「素敵だな、面白いな」と感じるポイントを見つけます。それをグッズを通して伝えるという視点で、アイテムやデザイン、機能を落とし込んでいます。
――ミュージアム部の作るグッズの特徴はどこにあると思いますか。
近藤:ミュージアム部として意識しているのは、そのグッズを家に持って帰って、その日以降の暮らしの中でどう使えるか、日々の生活の中で楽しめるかということです。そのほうが、買う時に言い訳が利きますし(笑)。今日この瞬間だけの感動で終わらせず、その後の暮らしの中でも感じ続けていいただくことを意識しています。
内村:例えば以前、モネの絵画をモチーフにしたアクセサリーを作りました。モネが「時間による光の移り変わり」をとらえることにこだわっていた画家であることに着目して、サンキャッチャーのように光を集めてキラキラと拡散するガラスビーズを使ったイヤアクセサリーを企画しました。そのように、画家や絵画の大切な何かを抽出してもの作りができるというのはミュージアム部ならではかなと思います。
――展覧会とのコラボグッズも多く手がけていらっしゃいますが、その際に心がけていることはありますか。
近藤:私たちは美術の専門家ではないので、作品の見どころや展覧会の注目ポイントなどを、学芸員の方や展覧会主催者にしっかり伺うようにしています。その一方で鑑賞者としての気持ちの高まりやテンションも大切にしています。そしてそこに、フェリシモとしてのものづくりやメディア制作のノウハウを掛け合わせるようにしています。
●グッズに耳より情報を添えて
――内村さんは、個性的なグッズを企画されるのがお得意だと伺いました。
内村:リアルなニーズを反映するのも大切ですが、私はどちらかというと「展覧会でしか絶対に実現しないだろうな」というグッズを作りたいんです。
――その一つが『モネ 連作の情景』の際に作られた「印象派画家モネが魅せられた原風景を想う 積みわらエコファー帽子」だったわけですね。
内村:そうです。ミュージアムに来る人って、モネをずっと追いかけてらっしゃる方もいれば、友達に誘われて初めて来る方もいらっしゃいます。キッカケの一つとして、「なんかやばいグッズが売っているらしいから行ってみようよ」というのもあるかもしれなくて。私1人じゃなくミュージアム部みんなで作っているので、いろんな商品がある中で、 私はそういう商品を絶対一つは作りたいんです。「なんか面白いな」「あの時のグッズ、すごい印象に残ってる」というものを作りたいと思っています。
――モネ最初の連作の主題と言われている積みわらがフィーチャーされた展覧会。だからこその積みわらの帽子。まさに「ここでしか実現しないグッズ」ですね。
内村:ちなみに、モネの積みわらの絵の重要な要素である、時間帯による色の変化については、色違いの4種類のミニポーチ「積みわらちゃん」で表現しています。
――芸が細かい!! さすがです!
近藤:こちらの「フランスの印象派画家モネの世界をまとうソックス」は3色作りました。色違いというと、赤青黄色などわかりやすく異なったカラーバリエーションを想像しますが、ご覧の通り微妙な色の違いでの3色展開。これは、モネは季節や時間帯を変えて同じモチーフや風景を何度も描いてることにインスピレーションを得て制作しました。背景を知ると、作品をより深く鑑賞することができますよね。「これはどの時間帯を描いたんだろう」とか、「どういう季節だったんだろう」とか考えることにつながり、モネといえば睡蓮で有名な画家というだけじゃなくなる。私たちはそれが楽しいと思うんです。購入したグッズも含めて、その展覧会で学んだことや得たものがこの先も自分の中で脈々と長く続く。それがミュージアムグッズの面白いところじゃないでしょうか。
――モネにまつわる展覧会は頻繁に開催されますが、同じ画家を取り上げていても視点が違うので、展覧会のたびにいろんな角度から知ることができる。毎回毎回アップデートできるのが楽しいですよね。
内村:ミュージアムというのは、キュレーションしている方がいらっしゃいます。我々が前回コラボさせていただいたのは連作に焦点を当てた展覧会でしたが、あべのハルカス美術館で開催中の『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』では印象派をアメリカに持ち帰ってどういうものが生まれたのかというところにキュレーションが入ってるんですよね。同じ作家や作品、文化財の展示であっても、会場が代わりキュレーションする人が変わると、展示物の楽しみ方も変わります。その切り口が面白いですし、それによって私たちが作るグッズも変わっていきます。
――画家や絵画、また展覧会の大切な部分やコンセプトをグッズという目に見える形にすることで身近に感じてもらい、記憶に残して積み重ねていく、ということですね。
近藤:フェリシモは暮らしに寄り添ってお洋服や雑貨などを企画販売している会社。得意なことを通じて自分たちが好きなものを世の中に増やして提案し、暮らしを豊かにしたいと考えています。ですので、ミュージアムグッズも買って終わりではなく「また観に行ってね」と思いながら作っていますし、そういうことが人生を豊かにすると思っています。
――ミュージアムグッズが存在する意味がそこにあるような気がします。だからこそ、私はミュージアムグッズが好きなんだなと改めて思いました。
近藤:私は絵単体から感動を得るのって、難しいと思うんです。モネは光を描きたかったんだよ、モネはお庭が好きで自分でお庭も作っていたんだよ、と誰かが一言言ってくれると「そうなのか」と思って観ることができる。頭でっかちになる必要はないけれど、知識は好奇心を湧き立たせてくれます。そのために私たちはグッズとともに、作品に関する情報もお届けしています。
――ポストカードと同じサイズの紙に絵画がプリントされていて、裏には絵の説明が書いてありますね。
近藤:展覧会に足を運ばれている方の中には、グッズ目当ての方もいらっしゃるんです。情報カードをグッズと一緒にご用意することで、そこから作品に興味を持つ方もいます。なので、私たちの仕事であるグッズを作ることで、「私はここが素敵だと思ったよ」と伝えていきたい。私たちは専門家ではないので、友達に喋ってるような感覚で情報を発信していきたいと考えています。
●グッズを眠らせないための工夫も
――展覧会とのコラボ商品だけでなく、ミュージアム部のオリジナル商品の中にもヒット作がいくつもあります。
近藤:私たちがミュージアムで買った時のあるあるで、欲しくて買ったけれど、家で使われずに眠っているものをどうにかしたい。これも商品を企画する時に意識しています。これまで私たちは展覧会のクリアファイルを企画したことはありませんが、ミュージアムや展覧会好きとして、クリアファイルを買っちゃう気持ちはものすごくわかる。実際、内村部長はクリアファイルを買いがちですし(笑)。
内村:クリアファイルは良いですよ。お土産としても配りやすいです。
近藤:「それをどうしようか?」というアイディアが新しいグッズになったりしますね。基本的に実体験がもとになったグッズ作りなんです。
――そうして生まれたのが人気商品「ポストカードをもっと楽しむマイミュージアムポーチ」や「クリアファイルを絵画のように楽しむ マイミュージアムトートバッグ」、「クリアファイルを絵画のように楽しむ マイミュージアムA4ファイルポーチ」なのですね! 『モネからアメリカへ』のミュージアムショップにも置かれていて、気になっていました。
近藤:ミュージアムや展覧会で必ずポストカードを買うミュージアム部員がいるのですが、活用できずに家に積んであるという話を聞いて。「じゃあポストカードを活かそうよ!」というところから「ポストカードをもっと楽しむマイミュージアムポーチ」が生まれたんです。そうすると、「クリアファイルも溜まっています」という声が上がりできたのが、「マイミュージアムトートバッグ」。さらに、トートバッグは表立って持ち歩くものですが、私はカバンの中に入れたいと言われて作ったのが、「マイミュージアムA4ファイルポーチ」です。
――絵画が額装されているように見えるデザインが秀逸です。このシリーズのユーザーはミュージアムファンだけでないと伺いました。
近藤:推し活グッズとしても重宝されているようです。それももちろんありがたいのですが、基本の思考は無駄になっているクリアファイルを何とかしたいということと、好きという気持ちを外に出したいという気持ちですね。11月にマイミュージアムトートバッグの最新版も発売されました。さらに進化したトートバッグをお楽しみください!
ミュージアムグッズはただのお土産ではありません。生活の中に、展覧会の知識と感動を刻み込んでくれるもの。ミュージアムを愛する私たちの人生に欠かせない、最強アイテムなのです!
紹介していただいたミュージアム部の商品は公式サイトで手に入れられますが、現在あべのハルカス美術館で開催されている『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』のミュージアムショップに一部のアイテムが並んでいるので、この機会にぜひ実物を手に取ってみてくださいね。
取材・文=井川茉代 撮影=ハヤシマコ