区内で発見したヘビ伝説 干支特集 白い大蛇は、地域の守り神
動物の中ではあまり人気のないヘビだが、昔から地域の守護神であり、特別な存在としてあがめられている存在だ。今年の干支の巳にちなみ、中原区に伝わる白い大蛇の伝説を追ってみた。今も残る祠には、多摩川の氾濫から村を守ったという言い伝えも。それではみなさま、白ヘビ伝説のはじまり、はじまり〜。
◆毘沙門天の大銀杏(@井田長瀬特別緑地)
平坦な中原区にあって、貴重な里山が広がる井田山。その中の井田長瀬特別緑地に、「毘沙門天の大銀杏」という伝承が残されている。急な坂道のある住宅街を抜け、入り口もわからないような緑の林に囲まれた一角に、1本の大きなイチョウの樹と小さな祠がひっそりとたたずんでいる。
木の根元にある案内板によると、祠には七福神の一人・毘沙門天が祭られているという。「大イチョウには祠の主である白い大蛇が住んでいて、大暴風で多摩川の水が氾濫して村が危険におちいったときに、洪水の中を大蛇が泳ぎ回って、川の氾濫を防いでくれた」と言い伝えられている。
祠や大イチョウの樹の傍らにはお供えものが添えられ、地域の人たちによって大切にされていることが感じられた。
この話は、1994年3月に川崎市民ミュージアムが発行した『川崎物語集』の3巻に短い伝承として収録。学芸員の鈴木勇一郎さんに聞くと「編集を担当したのは『川崎の民話調査団』という団体で、出典は84年に出版された雑誌『文化かわさき』8号です」と教えてくれた。残念ながら、伝承に関するこれ以上の詳細な情報は残っていないとか。鈴木さんは「昔の写真を見ると、近くを流れる矢上川が曲がりくねっている様子がわかる。今のように整備される前は、暴風雨で荒れることも多かったのではないか」と推測する。
『川崎物語集』や『文化かわさき』については、一部の図書館などにも置いてあり、現物を読むこともできるという。
◆金井観音(@宮内4丁目31)
新編武蔵風土記稿には「慶長年間に、二ヶ領用水に架かる家内橋のたもとで金井杢之助の一族が処刑された『金井橋事件』があった」と記載されている。この事件を村人が悼み、手厚く供養したが、この辺りに白ヘビが頻繁に出没。しかし村人は「これは吉兆の知らせだ」と考え、1792年に府中街道に面するこの地に観音様を建立し、杢之助を祭ったという。
宮内自治会の田村二三夫会長は「現在、宮内こども文化センターの子どもたちに協力してもらい、金井観音が題材の紙芝居を作成している」という。3月までに完成させ、地域の小学校などで披露したい考えだ。
◆八大龍王弁財天(@宮内2丁目18)
かつて多摩川に近い池の傍らにあった祠を、59年にこの地に再建。八つの頭を持つヘビを神様とし、商売繁盛、富貴栄達のご利益があるという。
「戦後の復興時、今の西宮内保育園近くにあった『下ノ池』の埋め立て工事をしていたところ、その場所に大きなヘビが死んでいた。これは『下ノ池』の主であったことから、工事を請け負った業者と地主が社をつくりヘビを供養した」と伝えられている。
◆宝蔵寺の弁財天(@上小田中1の4の13)
七福神の中で、紅一点の女神である弁財天。河川が神格化した水の神様で、その使いが仏教の守護神でもある巳(ヘビ)とされる。白ヘビは弁財天の化身と言われ、同寺の弁財天も周囲に池のあるお堂に祭られている。
住職の谷口隆祥さんは「新年の川崎七福神めぐりの際にお立ち寄りいただければ」と話す。