人気ポッドキャスト『Teacher Teacher』が作った“完全無料”の不登校支援フリースクールと 新時代の“子育てコミュニティ”
子育ての悩みに寄り添う人気ポッドキャスト番組『子育てのラジオ「Teacher Teacher」』の福田遼さん、秋山仁志さんへインタビュー第3回。2024年4月開校した不登校児のための無料オンラインフリースクール「コンコン」ってどんな学校? 全3回。
#3 【写真➡】Teacher Teacherのフリースクール「コンコン」の様子を見る元小学校教諭の福田遼さん(以下、はるかさん)と、音声番組プロデューサーの秋山仁志さん(以下、ひとしさん)が、子育てについて“納得するまで考える”ポッドキャスト番組『子育てのラジオ「Teacher Teacher(ティーチャーティーチャー)」』。2023年4月に始まったポッドキャスト番組は、「第5回 JAPAN PODCAST AWARDS」(2024年)大賞と「教養部門最優秀賞」を受賞する人気番組に。
ポッドキャスト以外での活動の幅を広げ、2024年4月には、不登校の子どもたちのための無料オンラインフリースクール「コンコン」を開校しました。
無料で運営する「コンコン」ですが、一体どんな学校なの? どうして無料で成り立っているの? 2人の活動の土台となる「ティーチャーティーチャー村」とは? これからの『Teacher Teacher』の展望についても伺いました。
●PROFILE 福田遼(ふくだ・はるか)、秋山仁志(あきやま・ひとし)
ポッドキャスト番組『子育てのラジオ「Teacher Teacher」(ティーチャーティーチャー)』で、子育てや教育に関する情報発信を続ける2人組。元小学校教諭の福田遥と、音声番組プロデューサーの秋山仁志で、子育てについて“納得するまで考える”がコンセプト。無料オンラインフリースクール「コンコン」も運営中。
譲れない“無料”のフリースクールへの思い
平日はオンラインのフリースクールに出勤している、福岡在住のはるかさん(写真右)。週末はひとしさん(写真左)と東京で合流し、取材や子育てイベント出演をこなすことも。 撮影:日下部真紀
ポッドキャストラジオ以外の活動としてはじめて手がけた、無料のオンラインフリースクール「コンコン」。構想当初は、オンラインではなくてリアルなフリースクールを作りたいという野望がありました。
「子どもたちと触れ合いたかったし、理想の学校を作りたいと思っていて。でも、きちんと不登校に関する調査を進めていくと、本当に困っているのは家を出られない子たちだってことがわかったんです。だから、オンラインという形がしっくりくるな、と」(はるかさん)
「かつ、現状の国内のフリースクールを運営している人たちと関わる中で、継続して運営することの難しさにも気がついてしまって……。だから僕たちは、その仕組みごと変えたほうがいいんじゃないか、って」(ひとしさん)
「もちろんすべてのフリースクールがそうではないですが、そもそも構造の矛盾がある。一生懸命に支援をして、子どもたちが学校でも頑張れるようになると、その結果、フリースクールとしては収益が下がって、スタッフの給料を払えずに困ってしまう。そんなフリースクールの運営者にも出会ってきました。
経営が苦しくなると、不登校支援の目的である『子どもの社会的自立』だけを純粋に目指すのが難しくなる、という事例に直面したんです」(はるかさん)
もともと「無料にしたい」という思いの裏には、教育格差をなくしたい、継続した支援のために金銭面での障壁をなくしたい、などのさまざまな理由がありました。
「僕は、のちのち無料にするとしても、ある程度は運営を形にしてからでいいと考えていた。でもそういう側面に気がついてからは、“無料”で運営することに意味がある、それを僕たちがやらないと、と。
難しい挑戦かもしれないけど、まず突っ走ってみて、ひとつの形にしたほうがいいなと強く感じたんです」(ひとしさん)
なぜ無料のフリースクールが成り立つのか?
とはいえ、しっかりとしたシステムを構築し、人員を動かすとなるとボランティアだけでは成り立ちづらいのも現実です。どうやって無料のフリースクールを実現させているのでしょう。
「コンコンの運営は、ポッドキャストを通じて僕たちの活動に賛同してくれる方たちからの支援で成り立っている。個人だと月額1,100円から、法人だと11,000円から、ご希望の金額で単発の支援をしてくださる方もいます」(ひとしさん)
おもしろいのは、月額で支援をする人たちは、「ティーチャーティーチャー村」というコミュニティに招待されて、村人になれるという仕組み。
「ティーチャーティーチャー村は、ディスコード(Discord)という仮想空間を使って村人たちとコミュニケーションをとることができる場です。子育ての悩みはもちろん、『今日の晩御飯、献立どうする?』などの雑談もあり、村の中ではいろいろな意見交換が飛び交っています。見るだけ、聞くだけのスタイルで楽しんでいる村人もいます」(ひとしさん)
「子どもの問題を家庭だけで抱え込まず、社会全体で子育てをしていくという形ですよね」と、はるかさん。そんな村人たちのサポートで、コンコンは運営されているのです。
オンラインフリースクール「コンコン」の様子。メタバースで登校し、はるか先生たちと一日を過ごす。 写真提供:Teacher Teacher
排出型ではないフリースクールの課題
「コンコン」のメタバース校舎には、はるか先生をはじめ、数名の先生やカウンセラー、ボランティアがいます。開校して4月(2025年)で1年になりますが、現状はどんな先生が、どういったスタイルで教えているのでしょうか。
「親は子どもに幸せになってほしいし、子どもも幸せになりたい。親子で共通の目的は持っているはずなのに、ぶつかってしまう。親子の目線を合わせてサポートするのが僕たちの役割」(はるかさん)
「今、コンコンの生徒は、小学校1年生から中学校3年生まで、12名在籍しています(2024年12月現在)。朝は登校してから、雑談をして心をほぐすリラックスタイムや、ワクワクすることに取り組む探究学習の時間の後に、学習タイム。
昼食を食べたら掃除をしたり運動をしたり。子どもたちそれぞれに合ったスモールステップを話し合って、教育機関へ向かうようサポートしています。子どもたちと関わるのは、元小学校教諭やカウンセラーの先生たち。僕も基本的には毎日、コンコンで子どもたちと触れ合っています」(はるかさん)
コンコン入校後、だいたいの子どもたちは約1~2ヵ月以内に再登校を始めます。完全に毎日学校へ通えるようになって、約3ヵ月でコンコンを卒業した子も。しかし、入校を待っている子は常時20人以上いて、毎週のように待機が増えている状況です。
「もともとは、入校期間に期限を設けようと思っていたんです。でも子どもたちと実際に関わってみると、支援が必要な期間はそれぞれの子どもによって違うのに、みんな同じ期間で卒業する仕組みに違和感を感じたんです」(はるかさん)
期限を設けた排出型ではないフリースクールとなると、待機は増え続けます。
「もちろん子どもに応じて、目標は設けています。でも、支援が必要なまま卒業させるようなことはしない。そうすると入校できる人数が限られてしまう。もしかしたらこの支援方法には限界があるのかも、と相当悩んだ時期がありました。その突破口になったのが、ティーチャーティーチャー村の人たちなんです」(はるかさん)
社会課題に向き合う人が世の中に広まっていく仕組み作りを
はるかさんの不安を払拭したのは、ティーチャーティーチャー村の人たちとのリアルなコミュニケーション。2024年11月に行われたポッドキャストのイベントで、実際に村人たちと触れ合う機会があったといいます。
「ティーチャーティーチャー村でつながった大人たちが、僕らの直接的な支援がなくても、助け合っていたということを知ったんです。例えば、放課後デイサービスが必要な方がいたら、みんなで情報を調べたり、励まし合ったり。
これまでは僕らが全部支援しようと意気込んでいたけれど、お互い助け合って情報提供し合うスペースが存在していた。その中に、不登校で『コンコン』の待機をしていたけれど、入校する前に課題が解決されたという話もあったんです」(はるかさん)
2人の活動の裾野に広がる、ティーチャーティーチャー村というあたたかく平和な村。単純に支援者の集まりということだけでなく、みんなが支え合い、子どもたちを育んでいこうという村の雰囲気が目に浮かびます。村が大きくなればなるほど、そこで助け合える仲間が増えていくのでしょう。
「村人は今、300人弱くらい。子育て以外のことでも、伴走しているエピソードがたくさん起きています。例えば、とあるデザインアプリを使ってみたい人が質問すると、できる人がさっと教えてあげたり。村人には、実際の子育て世代や、子育ての課題に興味がある方だけでなく、このプロジェクト自体がおもしろいと積極的に関わってくれている人がいる。本当に心やさしい、いろいろな人たちがいます」(ひとしさん)
「僕たちが日々、まい進できるのは、ティーチャーティーチャー村の人たちのおかげやね」と、はるかさんもうなずきます。
「はるかのように社会課題に対して熱心に取り組む人たちが、頑張り続けられる世の中の仕組みを作るのが僕の役割だと思っている。村からも、そんな人たちがたくさん出てきてくれたらうれしいです。
あと、これからは月額の支援がなくても村に参加できる仕組みを考えていきたい。ディスコードに慣れてないから入りづらいという人でも気軽に覗けるスペースを作ろうかなと考えています」(ひとしさん)
ディスコードという空間に広がる、ティーチャーティーチャー村。もちろん2人も参加しており、村人とさまざまなコミュニケーションを取っている。 写真提供:Teacher Teacher
「いかに主体的に関わってもらえるか、その設計を考えるのが自分の仕事だと思っている。だからこそ、どんどんこちらからも頼っていきます」(ひとしさん)
「僕たちも村の人たちに相談するよね。親身に向き合って動いてくれる人ばかりで本当に助かる」(ひとしさん)「僕は書類関係が苦手なので、『助けてください~』って言って、年末調整もしてもらったりしました(笑)」(はるかさん) 撮影:日下部真紀
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2024年12月にはこども家庭庁主催の子育てイベントにも登壇するなど、活動の幅をどんどん広げていく「Teacher Teacher」の2人。2025年には、2人の地元である福岡で実際の居場所作りをする計画や、小学校のPTAに参入する企画も。
常に新しい形を模索し続け、仲間を増やして進んでいく「Teacher Teacher」。新時代の2人が描く日本の教育の未来がとても楽しみです。
取材・文/遠藤るりこ
Podcast番組で反響があった回をベースに書籍化。SNSでは「手元に置いておきたかった」「何度も繰り返し読みたい」等々、うれしいコメントが多数。『先生、どうする!? 子どものお悩み110番 子育てのラジオ「Teacher Teacher」が納得するまで考えます』(PHP研究所)