オスカー女優ケイト・ウィンスレットが尊敬 主演&プロデューサーとして語る制作秘話『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』
映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』の主演とプロデューサーであるケイト・ウィンスレットが制作秘話を語るインタビュー映像が解禁となった。
「男性を魅了したリーは忘れる、女性としての真の姿を見せたかった」
この度解禁されたのは、トップモデルから20世紀を代表する報道写真家へ転身した実在の女性、リー・ミラーを演じたケイト・ウィンスレットが主演として、そして製作総指揮であるプロデューサーとして語るインタビュー映像だ。
本作で描かれるリー・ミラーとは、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』でキルステン・ダンスト演じる主人公のモデルになった人物で、トップモデルとして多くの天才たちから愛されたミューズであったが、その後戦場の最前線に赴き数々のスクープを発信する報道写真家へと転身した20世紀を代表する伝説的な女性だ。
そんな彼女の人生を映画化することを強く望んだケイトは、製作&主演として本作の企画を始動させた。ケイトが本作に懸ける熱量は凄まじく、膨大な資料収集と取材に挑み本作を創り上げている。
ケイトが「ドラマが数本できるくらいの濃い人生を歩んでいる」「人生の後半にも深い味がある」と語るように、リーの人生は挑戦と変化に富んでいる。
本作では、報道写真家になった30代からの10年にフォーカスをあてたが、20代のリーは、マン・レイのミューズであり、ピカソやダリら時の天才たちをも魅了している。そして戦後のリーは、PTSDに悩まされるも、「ル・コルドン・ブルーのシェフになり、美容整形もして、自分革命をしていた」と茶目っ気たっぷりに語る。
本編はリーが30代の、第二次世界大戦の直前から始まる。ピカソが開いた南フランスでのピクニックのシーンだ。
ケイトは、リーは「開放感や自由奔放さ、だから風変わりで創造的、超現実主義者でもある」とし、「あの人たちの人生がどれほど美しく、自由で豊かだったかを伝えた。強運な人生を歩んでいた、名声の特権もある」と、ピカソやマン・レイ、親友のソランジュやヌーシュ、後に夫となるローランドたちと過ごす南フランス時代を振り返る。
しかし、「戦争がすぐ隣に見え隠れする時代であった」と。そして、第二次世界大戦に突入し、登場人物たち全員が戦争に巻き込まれていく。
この約10年にフォーカスをあてた理由を、「男性を魅了したリーは忘れる」とし、「女性としての真の姿を見せたかった、つまり第二次世界大戦で戦争報道記者として活躍したリーの姿を」と語る。
「だから本作ではリーを戦場に送った。美貌を失いつつある中年のリーという女性を戦場に置いた物語」であるとし、彼女のドラマティックで色濃い人生の中から、この10年間を描いた理由を明かしている。
リー・ミラーの死後、屋根裏部屋で見つかった4万枚の報道写真
そして本作で描かれていない戦後のリーは、「兵士や写真家、そして記者が経験したであろう悲惨な光景がすべて箱にしまわれていた。
アントニーは母の真実を、亡くなったあとに箱の中で見つけた」と語るように、リーは息子・アントニーに、生前、戦争写真家であったことを一度も明かすことはなく、4万枚に及ぶ戦地での大量の写真は、全て屋根裏部屋の箱の中にずっと仕舞われていたのだ。
死後に知った母・リー・ミラーの真実の姿を「アントニーは人生を賭けて世に出し、後世に伝えようと著書に書き残してきた。」と話す。何度も映画化の企画が持ち上がるも映画化されなかったリー・ミラーの物語は、ケイト・ウィンスレットとアントニー・ペンローズの出会いと築かれた信頼関係から、ケイトの手によって遂に映画化された。
鑑賞後コメント全文(順不同・敬称略)
町山智浩(映画評論家)
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』でキルステン・ダンストが演じた戦場カメラマンのモデルがこのリー・ミラー。彼女の実人生はどんな映画よりも波乱万丈だ。19歳の頃、ニューヨークの街角でスカウトされていきなりVOGUE誌のファッション・モデルになり、パリに渡ってヌード写真をマン・レイと共作し、シュールレアリスムのミューズと崇められ、第二次大戦では従軍カメラマンとして最前線を駆け抜け、世界で初めてホロコーストの惨状を暴く……。だが、リーは過去を語ろうとしなかった。その凄まじい経験をこの映画で目撃する!
田島陽子(英文学・女性学研究者/元法政大学教授/元参議院議員)
リー・ミラーは初志を貫き、フォトグラファーとして素晴らしい仕事をした。彼女がレンズを通して見た世界は、人類の敵はナチス。そして、女性の敵は男性を中心として回る、この世界だった。それは今でも変わらない。
伊藤亜和(文筆家)
映画はモデルとしてのキャリアを終え、写真家としての人生を歩み始めたリーの姿から始まる。私が今まさに進むべきところを探している、身体の最も美しい頃を終えたあとの人生についてだ。見えない誰かに、なにか“ツケ”を払わせられているような、汗水を流してした仕事が軽んじられているような感覚がいつもしている。多かれ少なかれ、女が社会に背負わされるこの呪い。戦場を走るリーの身体を掠める弾丸が、私にはそれと同じように見えた。ひたすらに事実だけを追いかけた彼女の仕事が紛れもない偉業であったことを、決してドラマティックではないこの映画の重厚さが証明する。使命を背負って走る姿は、こんなにも美しいのだ。
長島有里枝(写真家)
リー・ミラーは、マン・レイのミューズではなく写真家だった。南仏で友人たちとヴァカンスを過ごす彼女は、ヒトラーのニュースを恐れつつもアートで世界は変えられると信じていた。同じように信じる自分に戸惑い、それって体のよい言い訳じゃないのかと自問する。
世界はいま、彼女が生きた時代に少し似ている。写真家として彼女のようにはきっとできない。でも、考えるのを諦めない彼女の勇気を持つ人でありたいと思う。
ISO(ライター)
男たちが始めた戦争で女たちは悲劇に見舞われ、さらには女の手で戦争の真実を世界に届けることすら阻まれる。ミラーはそんな男社会と戦場、ふたつの場所で戦わなければならなかった。そこで自身も傷だらけになりながら、戦禍とゼロ距離で向き合い続けたからこそ撮ることができた市井の人々の凄惨な痛み。戦争とは何かを忘れないために世界はそれを目に焼き付けるべきだった。
この映画はあまりに長いあいだ見過ごされてきた彼女の偉業を、人々の心に刻み直す記念碑となることだろう。
『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』は5月9日(金)TOHOシネマズシャンテほかROADSHOW