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3000年前の遺跡から発見された少女が物語る「恐ろしい事実」とは ~古代中国

草の実堂

3000年前の遺跡から発見された少女が物語る「恐ろしい事実」とは ~古代中国

実在が確認できる中国最古の王朝

いまから約3000〜3700年ほど前、黄河中流域に「殷(商)」と呼ばれる古代王朝が存在していた。

中国史上、実在が確認されている最古の王朝である。

画像 : 殷の推定位置 紀元前16世紀から紀元前11世紀ごろ CC BY-SA 3.0

殷は、高度な青銅器文化や独自の文字(甲骨文字)、緻密な占いの体系を発展させた王朝で、長く神話と現実の境界にあったが、20世紀に入って本格的な発掘が始まった。

1928年、中国河南省安陽市小屯村にある殷墟(殷王朝後期の都城跡)での調査が始まり、甲骨文字が刻まれた亀甲や獣骨、大量の青銅器、巨大な王墓などが次々に出土。これにより、殷王朝の実在が確実なものとなった。

その後、殷墟の発掘が進む中、1984年、小屯村北地の5号宮殿遺跡付近から出土したある青銅製の「大型蒸し器」が、大きな注目を集めた。

蒸し器の内部から、なんと「少女の骨」が発見されたのである。

一体、なぜ彼女はそこにいたのだろうか。

今回は、その発見が語りかける殷王朝の知られざる実像を掘り下げていく。

青銅蒸し器が語る奇妙な発見

その青銅器は、大型の「(げん)」と呼ばれる蒸し器だった。

画像 : イメージ 青銅連体甗(周代)wiki c Editor at Large

殷代の青銅器といえば、酒を盛る「爵(しゃく)」や、煮炊きに使う「鼎(てい)」が有名だが、この甗(げん)は内部に格子状のすのこが仕込まれ、水蒸気で食材を蒸す構造になっている。

大型で精緻な青銅製の甗(蒸し器)の発見は珍しく、宗教儀礼など特殊な用途に用いられていた可能性が高い。

しかし、研究者たちを戦慄させたのは、この蒸し器そのものではなかった。

内部を調査したところ、そこで見つかったのは少女の頭骨だったのである。

骨格の特徴から、10代と推定される少女の頭骨が、蒸し器の内側にほぼ完全な形で残されていたのだ。

画像 : 骨が納められた殷代の青銅製蒸し器(甗)殷墟博物館 flickr Haonan Xu public domain

腐敗を避けるかのように密封されていたこともあり、保存状態は極めて良好だった。

この発見は、ただの副葬品では説明できない異様さを帯びており、考古学者たちの間で議論を呼ぶこととなった。

何が行われていたのか?生贄儀礼の実態

殷王朝の繁栄の裏には、現代の私たちには到底受け入れがたい儀式があった。

神々と祖先の加護を得るため、殷の王たちは牛や羊のみならず、人間すら生け贄として捧げていたのである。

蒸し器の内部から見つかった少女の頭骨は、歯の成長段階や骨格の発達状況から、13歳から17歳ほどと推定されている。
さらに骨の成分分析によれば、成育環境は良好で、重労働の痕跡も認められないことから、貴族階層に属していたと考えられる。

王族に仕える侍女や、陪嫁(ばいか:結婚に際して実家から新郎側に伴われる従者・侍女)として、宮廷に入った少女だった可能性が高い。

つまり貧困層ではなく、比較的恵まれた生活を送っていた少女が犠牲にされたのである。

画像 : 殷時代の貴族階級の少女イメージ  草の実堂作成(AI)

さらに歯に含まれる微量元素の分析から、彼女は河南の出身ではなく、遠い沿海部で育った可能性が高いと判断された。

この時代、殷の軍隊は沿海地域で大規模な戦争を行い、勝利とともに大量の戦利品と捕虜を獲得している。
この少女も、その捕虜の一人であったと考えられている。

また、蒸し器の内部には焼け焦げた痕がこびりつき、骨には高温で加熱された痕跡が確認されたことから、少女は生きたまま蒸し器に入れられ、蒸し殺された可能性が高い。

動物の骨もあったことから「人と獣をまとめて蒸し上げ、神に捧げる」儀式だったことが推測されている。

この「蒸し生贄」の儀礼は、一度きりの異常な事例ではなかったようだ。
1999年にも殷墟近郊で、同様の青銅蒸し器と少女の炭化頭骨が発見されている。

殷代の人々は鬼神を崇め、壮大な規模の祭祀を執り行っていた。

漢代に編纂された儒教の経典『礼記』には殷代の祭祀について

「殷人尊神,率民以事神,先鬼而后禮。」
意訳 : 殷人は神を尊び、民を率いて神に仕え、鬼(祖先神・死者)を優先し、礼(儀礼)を後に置く。

『礼記』礼运篇 より引用

と記されており、最も残虐な祭祀では500人以上の生贄が捧げられたとも伝えられる。
殷王墓群全体では、累計で数千人規模の生贄とみられる人骨が確認されている。

これらの生贄の多くは捕虜であり、少女もその一人だった。
そして彼女は、青銅甗の中で生贄として最後の時を迎えたのである。

殷王朝を覆う神権支配の闇

画像 : 殷(商)代の青銅器「四羊方尊」wiki c smartneddy

殷王朝の支配は、単なる武力や血筋だけでは成り立っていなかった。

殷の王は、神々や祖先の声を聞く者とされていた。

実際、殷墟から出土した甲骨文には、日々の生活から国家の大事に至るまで、あらゆる出来事を占っていた記録が膨大に残されている。
戦争に出るべきか、作物の種まきはいつ始めるか、王妃の出産は順調に進むのか。すべてが神の意志に委ねられていたのだ。

だが、その神託を受け取るのは王だけである。神の声は王を通じてのみ下され、臣民はただ従うしかなかった。
神と王が重なり合うこの構造が、王権に絶対性を与えていたのである。

そして、この神権支配を象徴していたのが壮大な生贄の儀式だった。人も獣も、血と肉をもって神々を満たす供物とされた。
少女たちの命さえ、王権の誇示と国家の安定のために捧げられた。

殷の人々にとって、生贄は恐怖というより、日々の祭祀に組み込まれた当然の営みだったのかもしれない。
祭祀は神と王とを結びつける神聖な儀礼とされ、その中で誰が犠牲となるかはあまり重要視されなかったようにも見える。
こうした苛烈な神権体制のもと、殷王朝は長く繁栄を維持していった。

しかしやがて、この血なまぐさい国家文化は次第に社会の内部を蝕み、殷王朝を滅亡へと導く遠因となっていったのである。

参考 : 『礼記・礼运篇』『带人头的单体甗:殷墟青铜蒸饭器里的古少女』他
文 / 草の実堂編集部

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