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『地面師』を生み出したNetflixジャパンが考える、ヒットする作品の前提は?

ほぼ日

先日、糸井重里は、六本木にあるNetflixのオフィスを訪れました。「Netflixの坂本さん」に、会うために。ご存知ですか、「Netflixの坂本さん」。『全裸監督』、『今際の国のアリス』、『First Love 初恋』、『サンクチュアリ-聖域-』をはじめ、数々の「Netflixオリジナル実写作品」を企画し、世界的なヒットに導いてきた、日本コンテンツ部門のトップ。それが、Netflixの坂本和隆さんです。糸井は、『サンクチュアリ-聖域-』の江口カン監督など、たくさんの方が「Netflixの坂本さんが進めてくれたいい仕事」について話すのを聞いていて、ずっと、「その人に会って、話を聴いてみたい」と思っていたのです。「日本のNetflix」というチームは、どうして一緒に仕事をした人たちから信頼されるのか。「コンテンツを生む」ことを生業とするふたりの対談は、互いに何度も頷きあうように進んでいきました。第3回です。

糸井
今のお話はつまり、これまでたくさんの作り手たちが「予算をかけずにいいものをつくろう」とか、「ここを我慢すればできるぞ」と考えてきたところを、「『我慢する』以外の方法で、どうやるか」を必死に考えてきたのがNetflixだった、ということなんでしょうね。
坂本
ああ、そうかもしれません。

糸井
今まではやっぱり、本当にやってみたいと思うおもしろそうなことは、「それ面白そうだから、タダでもやるよ」みたいに「身を切るかたち」でやってきたと思うんです。言ってみれば、自主映画と同じですよね。もちろんみんな「身を切らない」でやりたいけど、「身を切ってつくる」に匹敵するような本気さで、「身を切らないでつくる方法を考える」ということを、誰もやってこなかったんじゃないかな。
ものづくりの世界では「俺はビジネスのことは考えたくない」って人もいっぱいいたし、考えたとしても間違ったことを考えちゃう人もいるし、誰も正解がわかんなかったところに、Netflixが出てきた。

坂本
そうですね、やっぱり今ってもう「24時間働けますか」とは言えないので、「1日の撮影は12時間以内にしましょう」とか、「週に1回は必ず休みを取りましょう」っていうことを、ちゃんと設けていかなきゃいけないんですね。ただ、そこを真っ当にやればやるほど、どうしても制作期間は長くなるし、その分予算も膨らんでいってしまうわけで。

糸井
時間をかける分だけ、「家賃がかかる」みたいなことがいっぱいありますもんね。

坂本
はい。でも、そこをちゃんとしたうえでものづくりに向き合わないかぎりは、いくら作品が世界で見られたとしても、日本の映像業界にイノベーションを起こしたり盛り上げたりすることは難しいと僕らは思ってるんです。「日本の映像作品にはお金をかける価値がある」と感じていただくためには、やっぱり「お金をかけて成功した実績」を積み重ねていく必要があると思うので。
その意味でも、監督、スタッフはじめ‥‥関わる方全員を幸せにするのはなかなか難しいんですけど、「なるべくみんなが満足をいく環境」をどう準備するかというのはすごく重要だと思っていますし、そのバランスを考慮したうえで「いくらかけられるか」っていうところは、やっぱり今でも常に、勝負ですね。

糸井
いやあ、だから、Netflixのそこの凄さをきっと、みんなざっくりと「時間と金があるんだよ」という言い方で済ませちゃってるんですよね。

坂本
本当にいつも、ギリギリの戦いです。自分たちが勝負した作品のいくつかが結果を出せなかったら、会社としてもそれなりの判断をしなきゃいけない。そこで日本の映像業界の可能性がキャップされちゃうことが、我々は非常に悔しいので。
Netflixって、世界中の支社が一同に介して、「今年うちは、こんなラインナップでいくぞ!」というような集まりを年に1回とかやっているので、なんか本当にもう、「オリンピック」みたいな感覚なんですよね。それこそ韓国もいて、フランスもブラジルもいて。

糸井
はああー、オリンピック。

坂本
そこでは「これからやること」だけじゃなくて「やったこと」の結果発表もするので、「ああ、日本いい感じだね」とか、「あ、フランスこうきたか」「イタリアはこうきたか」みたいに、お互い毎年その場に向けて挑み合っていくという。そこはたぶん他社にはなかなかない、刺激的で、ダイナミックな部分だと思います。

糸井
いや、ないですね。映像に関わるほとんどの人、そんな経験してないですよね。

坂本
なので、本当に1つひとつの作品が自分たちのチームの大切なプレゼンテーションになっていくので、配信した作品が視聴者の間で広がっていくときというのも、すごく刺激的なスケールというか、社内の興奮度もやっぱり、すごいことになります。

糸井
社内にある種の、お祭りができますよね。

坂本
そうですね。ありがたいことに、いま日本語の作品ってじつは全世界でも韓国語に次いで2番目に観られていたりするので、アジアを中心にオーディエンスがついてきてくださってるのは感じます。
そこはやっぱり「インターネット」の恩恵で、これまでの映画って映画祭を通して初めて才能が発掘されたり、出会いがあったりしていたと思うんですけど、Netflixの場合はもうワンストップで、190カ国以上にドンッと配信されるので。

糸井
190カ国。恐ろしいことですね。

坂本
はい。今は3億世帯くらいの方が観てくださってるんですけど、インターネットさえあれば誰でも観れるので、「才能を見つけるスピード」というものが急激に加速していて。そこでいいものをきっちりとプレゼンテーションできると、「だったらこのチームを招聘しよう」みたいな才能の交流も、これまで以上に活発になっている感覚がありますね。

糸井
いま、その「ワールドシリーズ」では、どういう作品が勝ち上がっていくんですか。

坂本
「自国でちゃんと見てもらえる作品」というのが、前提になっているように感じます。そもそも、そういうコンテンツを作ることが我々ローカルチームのミッションなので、もちろん自ずと自国のインパクトが最優先になるんですけど、世界的な反響を考えたときにも、「これならアメリカでつくればいいじゃん」と言えちゃうような、「どこの国かもわからないような作品」が、いまは一番弱かったりするんですよね。

糸井
ああ、そうですか。

坂本
僕たちはそういうコンテンツを「ミックススープ」って呼んでいるんですけど。「これ、どこの味なの?」というところが弱いと、世界的には通用しなくなっている感覚があります。

糸井
どこの国の料理か、わからないような。

坂本
はい。なのでやっぱり僕らがつくるうえでも、オーセンティックな部分というか、「日本だからこそ作れる世界観、物語、キャラクター」をやっていくというのが、グローバルに広がっていく最大の要素にはなっていますね。

糸井
『サンクチュアリ』にしても『地面師』にしても、日本の、すごく狭い世界のことを描いてますもんね。「こんな世界があったのか」みたいな。そのへんの作品に、今おっしゃった、「アメリカが作ったのと同じじゃ結果も出ないんだよ」というのが染み込んでいるんだ。

坂本
アメリカナイズしちゃったら、僕たちが存在する意味がなくなってしまうというか。それこそ、僕たち日本に関して言えば、Netflixは今でこそ世界中の主要都市にオフィスがありますけど、じつはアメリカ以外でものづくりのチームが立ち上がったのって、「日本のオフィス」が初めてなんですね。「これだけオリジナリティの強い国は世界的にもなかなかないから、ここがNetflixのアジアの軸になってくんじゃないか」と当時の責任者がオフィス設立を決めた背景があるので、そういう意味でも、アメリカナイズするべきではないという意識は強く持っていますね。

糸井
アメリカの作品って、東洋人を主人公にするにしても各国の何かを取り入れるにしても、どっかでどうしても「アメリカナンバーワン」の体系の中に入れていくというか、「『アメリカじゃないもの』はわかんないよ」ってことにしちゃうものも多いんだけど、今のお話聞いてるとNetflixのアメリカ本社はそれと完全に逆で、「僕らにわかんないものを、君たちはどのぐらい入れてくれるんだ?」と問いかけてきてるくらいだってことですよね、むしろ。

坂本
おっしゃるとおりです、おっしゃるとおりです。だからこそ、「ちゃんと『委ねたい』と思えるだけの説明をしてくれよ」というような会社です。自分たちが現場の考えが理解できないと、肩を並べて戦えないから、という。

糸井
「わかるように言ってくれ、そしたら俺は、何がわかってないかがわかるから」ってことですよね。いやあ、ここについてはもう、みんな真似すべきなんじゃないでしょうか。

坂本和隆(さかもと・かずたか)さんのプロフィール

坂本 和隆 (Kaata SAKAMOTO):1982年9月15日生 / 東京都出身。Netflix コンテンツ部門 バイス・プレジデント。Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写とアニメ作品のコンテンツ制作及び、ビジネス全般を統括。日本における最初の作品クリエイティブ担当として2015年に入社後、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」「First Love 初恋」「サンクチュアリ -聖域-」「幽☆遊☆白書」など、多くの実写作品を担当。
「Devilman Crybaby」「リラックマとカオルさん」「アグレッシブ烈子」などの幅広いアニメ作品も仕掛け、日本市場におけるNetflixの作品群拡大に貢献。2021年6月より現職。

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