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福岡市民にとって定番、お正月の『三社詣』!大正後期、鉄道会社の販促から始まった!

フクリパ

福岡市民にとって定番、お正月の『三社詣』!大正後期、鉄道会社の販促から始まった!

福岡市民にとって三社詣は、なじみ深い正月の恒例行事です。その一方で他エリアの人たちからは、驚かれることの一つが三社詣になっています。全国的に正月の参拝は、一社だけが多い中、なぜ福岡市民は、三社も参拝するのでしょうか。三社詣の秘密を解き明かしながら、初詣の意外な真実にも迫ります。

神社は全国に8万社強、3,409社の福岡県は第3位

神社8万608法人、寺院7万5,370法人――。
文化庁宗務課が2024年1月に公表した『宗教年鑑』2023年版によると、2022年12月31日現在における日本の宗教法人数は17万8,946法人だ。
このうち、神社8万608法人、寺院7万5,370法人、教会2万1,0193法人、布教所274法人、その他1,675法人だった。
なお、信者数は神道系8,396万4,368人、仏教系7,075万9,447人、キリスト教系126万2,924人、諸教700万4,560人であり、総数1億6,299万1,299人だった。
そして、これらの信者総数は、日本の総人口を上回っている。

 

 

『宗教年鑑』2023年版では、伊勢の大神が飛び移るという信仰で各地に設けられた神明社は、約1万8,000社あるそうだ。
宇佐八幡宮に発祥するとされる八幡神は武神として尊崇を集めており、八幡神社は全国に約2万5,000社あるとする。
京都の伏見稲荷大社を総本社とする稲荷神社は、約3万2,000社となっている。
また、菅原道真を祭る天満社・天神社は、約1万500社とされている。

 

 

そして、神道系における神社数を都道府県別にランキングすると、第1位は新潟県の4,672社であり、第2位に3,857社の兵庫県が続き、3,411社だった福岡県は第3位にランクインしている。

太宰府天満宮(太宰府市)、筥崎宮(福岡市)、宮地嶽神社(福津市)、櫛田神社(福岡市)、香椎宮(福岡市)、住吉神社(福岡市)、宗像大社(宗像市)、水天宮(久留米市)……。
福岡県内には、個性的で霊験あらたかな神社が多い。

 

出所:文化庁『宗教年鑑』(令和5年版:2022年12月31日現在)

 

 

三社詣の起源は源頼朝!? 福岡藩主・藩士らは三社詣に励む

画像:福岡県立図書館所蔵『絵葉書:筥崎宮(4)』(福岡県立図書館デジタルライブラリより)

 

福岡市民は毎年正月、家族や大切な人たちと一緒に出掛ける正月の参拝において、3つの神社を参拝する『三社詣』が一般的だ。
しかし、全国的にみて三社詣は珍しく、正月の参拝では一つの神社へ出向くことが多い。
三社詣は福岡をはじめとする九州地方、および中国地方のごく一部に根付いている独自の風習だったのだ。

 

 

三社詣の由来について諸説がある。

その一つは朝廷が伊勢神宮、石清水八幡宮、賀茂神社に奉幣していたことが庶民に伝わり、三社詣が始まったとする説だ。

 

また、三社詣の起源を源頼朝に求める説もある。
『吾妻鏡』によると、源頼朝は1188年の正月20日、走湯権現(伊豆山神社)、三島社、箱根権現(箱根神社)の参拝へ出掛けた。
走湯権現と箱根権現は「二所」と称され、吾妻鏡は「二所詣」と記す。

二所詣は源頼朝の参詣以降、幕府の公式行事となり、鎌倉末期の1327年まで続いたそうだ。
武家の棟梁だった源頼朝が始めた正月行事であり、三社詣は武将や武士たちの間で広がったという。

 

1601年、福岡藩の初代藩主として黒田長政が入府した。
黒田長政は八幡大神を祭る筥崎宮に一之鳥居を寄進し、筑前国一宮とされる住吉神社の本殿を造営している。
その後、歴代の福岡藩主だった黒田家当主は正月、筥崎宮、住吉神社、日吉神社(比恵山王宮)への三社詣をしていたと伝わる。
そして、黒田家の家臣らも三社詣へ出かけて、庶民らにも浸透していったそうだ。

 

西鉄前身の博多湾鉄道汽船が三社詣を鉄道利用で復活

江戸時代に浸透していった三社詣だったが、明治維新を迎えた後、三社詣は廃れていった。

そんな三社詣を復活させたのは、西鉄前身の一社となる博多湾鉄道汽船だった。

博多湾鉄道汽船は1924年(大正13)5月、宮地嶽神社と博多市街地を結ぶ目的で新博多駅~和白駅を開業した。
翌1925年(大正14)7月、和白駅~宮地嶽駅が開通する。

当時の博多湾鉄道汽船は、本来目指していた飯塚市への延伸ができず、貨物需要が見込めない状況に陥っていた。
このため、宮地嶽線の開業直後から旅客、特に行楽客の誘致に努めていた。

夏の海水浴客誘致に向けて1925年(大正14)、新香椎(現西鉄香椎)駅~和白駅間に片男佐仮停留場を設置。
さらに和白駅~宮地嶽駅間に海水浴場を直営で開設した。
また、秋には新博多駅~和白駅間で観月列車の運行を行い、加えて芋掘り会も催すなど、年間を通じてさまざまな催事を企画して誘客を図った。

 

一方、参詣客を狙った取り組みも行われていた。
筥崎宮を最寄りとする箱崎宮前仮停留場(1927年4月:本停留場に昇格)は開業年である1924年(大正13)7月に設置された。
それ以降、沿線にある宮地嶽神社、香椎宮、筥崎宮の三社詣を企画し、臨時急行列車も運転して好成績を上げていた。
当時の営業報告書にも「正月に宮地嶽、香椎、筥崎宮の三社詣を計画し、参拝客誘致に努め」との記述が残る。

 

その後、西鉄は貸切バス販促として1953年(昭和28)、前年に1050年大祭を迎えた太宰府天満宮、筥崎宮、宮地嶽神社を巡る「三社詣」コースを設定して人気を集めた。

さらに西鉄電車も「正月の参拝は電車で!」というキャンペーンを展開し、テレビCMを積極的に流した。

文明開化を経て、廃れていた風習だった三社詣は、電車・バスの増客策で脚光を浴び、福岡の地域文化として生き残ったのだ。

 

西鉄の『三社もうで』切符(画像提供:NPO福岡鉄道史料保存会の吉富実理事長)

 

『西日本鉄道百年史』や『西日本鉄道創立110周年記念誌』を西鉄アーカイブ担当課長時代に手掛け、福岡の交通事情に詳しいNPO福岡鉄道史料保存会の吉富実理事長は、次のように解説する。

 

吉富実理事長

鉄道と社寺との関係については、歴史的にも縁深いものがあります。
京浜急行と川崎大師、京阪電鉄と伏見稲荷、近畿日本鉄道と伊勢神宮などの組み合わせに加えて、戦前の博多湾鉄道汽船と宮地嶽・香椎宮・筥崎宮、戦後の西日本鉄道と太宰府天満宮・筥崎宮・宮地嶽神社という事例が該当します。

西鉄の場合、太宰府天満宮・筥崎宮・宮地嶽神社の三社詣は、かつて大牟田線~福岡市内線~宮地嶽線で結ばれており、3路線を乗り継ぐ『三社詣切符』を販売していました。
太宰府天満宮・筥崎宮・宮地嶽神社の三社詣は片道45キロという文字通りの長丁場でした。
このため、切符の有効期間も大みそかの12月31日から1月15日まで有効となっていました。

福岡県内の交通体系は、太宰府天満宮を中心に発展してきたという歴史的な経緯もあり、『三社もうで』切符には感慨深いものがあります。

 

 

NPO福岡鉄道史料保存会の吉富実理事長

※西鉄における路線名(区間名称)は1948年の制定時、新博多~宮地嶽間は神社名と同じ『宮地嶽』線としていたが、難読漢字であることから1950年代中盤から『宮地岳』線に変えていた。

 

 

実は「初詣」も明治期、鉄道の発達で誕生した参拝行事だった

櫛田神社(画像提供:福岡市)

初詣は、世間一般的に古くから伝わる〝伝統行事〟だと認識されている。
しかし、神奈川大学の平山昇准教授は、自著『初詣の社会史』(東京大学出版会)において、「一見するといかにも古めかしく見える初詣であるが、実は、近代都市の形成とともに生まれ育った参拝行事だった」と説く。

 

「古歳時記をひもといても初詣の季語すら無い」との指摘を踏まえ、平山准教授は、自著『鉄道が変えた社寺参詣』(交通新聞社新書)において、「初詣」が歳時記として初めて登場したのは、1908年(明治41)だったことを紹介している。
そして、初詣を詠んだ俳句が本格的に登場するのは、大正期以降だったと記す。
一方、新聞記事における「初詣」の初出について、『初詣の社会史』では、1885年(明治18)1月2日付の『東京日日新聞』だったと紹介する。

 

 

平山准教授によると、日本で最初の鉄道路線である新橋~横浜間が1872年(明治5)に開業した際、川崎停車場が設けられた。
鉄道開業および停車場開設によって、東京から鉄道を利用しての川崎大師への参詣が可能となったとのことだ。

そして、ハレの乗り物である鉄道と郊外散策を満喫できる川崎大師への参拝は、当時の人々にとって、いままでに無かった行楽的魅力となった。
それまでの初縁日や恵方などの旧来のルールに固執せず、正月休みに川崎大師へ参詣するようになる。

『初詣の社会史』では、「郊外に位置する川崎大師平間寺ではいちはやく明治二◯年代に縁日や恵方にこだわらずに元旦に参拝する形態が定着し、やがてこの習慣が『初詣』と呼ばれるようになる」と、初詣誕生の経緯を明らかにしている。

 

出所:ニッポン旅マガジン『初詣 人気&人出 ランキング 全国ベスト20』

 

 

イノベーションと旧来の事象との化学反応による価値創出

三社詣はもちろんのこと、昔からあるように感じられる初詣自体も実は明治中期以降、鉄道網の発達によって誕生した近代的な参拝行事だった。
鉄道という稀代のイノベーションが旧来の社寺への参拝との〝化学反応〟を通じて、初詣というビジネスイベントを誕生させ、新たなマーケットを創出したことは興味深い出来事だ。

 

世の中が移り変わっていく中において今後、新たに登場するイノベーションは、旧来の事象とも化学反応を起こしていくことで新たなビジネス価値の創出が期待されている。
特に古来、ヒト・モノ・カネ・コト・情報の交流を通じて発展してきた福岡においては、先人らの知恵や精神をいかに生かして、いかに新たな市場や雇用を生み出していくのかが、将来への試金石となるものと考える。

 

【 参考 】三社詣に関係する神社のあらまし

太宰府天満宮
◎住 所/福岡県太宰府市宰府4-7-1
◎主祭神/菅原道真
◎創 建/919年(延喜19)
◎社 格/旧官幣中社、別表神社

 

筥崎宮
◎住 所/福岡市東区箱崎1-22-1
祭神/応神天皇、神功皇后、玉依姫命
◎創 建/921年(延喜21)
◎社 格/式内社(名神大)、筑前国一宮、旧官幣大社、別表神社

 

宮地嶽神社
◎住 所/福岡県福津市宮司元町7-1
◎主祭神/神功皇后
◎創 建/(伝)神功皇后の時代
◎社 格/旧県社、別表神社

 

香椎宮
◎住 所/福岡市東区香椎4-16-1
◎主祭神/仲哀天皇、神功皇后
◎創 建/(伝)724年(神亀元)、(728年:神亀5年以前は確実)
◎社 格/廟(香椎廟)、旧官幣大社、勅祭社、別表神社

 

 

 参照サイト

文化庁『宗教年鑑』(令和5年版:令和4年12月31日現在)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/shukyo_nenkan/pdf/r05nenkan.pdf

 

にしてつWebミュージアム『会員バス「初詣バス」の運行』
https://www.nnr.co.jp/museum/bustrip/index.html

 

#FUKUOKA『“三社参り”は福岡特有の風習だった!なんと足湯にも入れる神社も?都心のパワースポット神社3選』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/hash/news/archives/34.html

 

三社参り(三社詣)は西日本、特に福岡の文化・風習
https://katsulog.net/160103-sansyamairi/

 

ニッポン旅マガジン『初詣 人気&人出 ランキング 全国ベスト20』
https://tabi-mag.jp/hatsumoude-best20/

 

福岡県立図書館デジタルライブラリ
https://adeac.jp/fukuoka-pref-lib/top/

 

初詣は新しい参詣スタイル!?――鉄道が生んだ伝統行事
https://synodos.jp/opinion/society/15857/

 

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