今こそ聴くべきジャパニーズ・フュージョン!名門レーベル “エレクトリック・バード”
ジャパニーズ・フュージョンの名門レーベルELECTRIC BIRD
ジャパニーズ・フュージョンの膨大なカタログの中から、“今こそ聴くべき楽曲" を集めたコンピレーション・アルバム『CROSSOVER CITY』シリーズ。このシリーズを紹介するコラム第2弾は、キングレコード編の『CROSSOVER CITY -Bon Voyage-』だ。
日本のフュージョンを語るうえで、キングレコードは絶対に避けては通れないレーベルである。むしろ、キングレコードこそがジャパニーズ・フュージョンの神髄といっても過言ではない。というのも、名門レーベルELECTRIC BIRD(エレクトリック・バード)があるからだ。
ELECTRIC BIRDは、1970年代後半に設立されたレーベルで、日本のミュージシャンだけでなく、ニューヨークのミュージシャン人脈を駆使した作品を多数生み出してきた。いわば本格派という形容詞がしっくりくる。ただ本格派だけに、内容はかなり渋めだ。代表的なアーティストを挙げると、増尾好秋、大野俊三、本多俊之、益田幹夫、森園勝敏といったところだろうか。いわゆるフュージョンブーム期における誰もが知っているスタープレイヤーはいないが、個性的な実力派による必聴の作品ばかりである。
看板アーティスト本多俊之、「Opa!Com Deus」の見事な躍動感
通好みの作品が多いとはいえ、増尾好秋の名盤『Good Morning』(1979年)は、当時から非常に人気の高いポピュラリティのある作品だ。増尾好秋は渡辺貞夫に認められてプロとなり、渡米してソニー・ロリンズのバンドに在籍していたという国際的なギタリスト。この作品も海外ミュージシャンで脇を固め、スムースなフュージョンサウンドを構築している。『CROSSOVER CITY -Bon Voyage-』には最もメロウな名曲「(I'm Still)Believing In Dreams」をセレクトしたが、心地良いギターの音色を堪能できるので、アルバムもぜひお聴きいただきたい。
本多俊之もELECTRIC BIRDの看板アーティストのひとりである。学生時代からその実力が認められ、いきなりシーウィンドをバックに従えたリーダー作『Burnin’ Waves』(1978年)でデビューし話題となった。一般的には伊丹十三監督の傑作『マルサの女』をはじめとする映画やテレビのサウンドトラックで知られるが、初期のフュージョン作品のクオリティには唸らされるだろう。ブラジル音楽を大胆に取り入れた「Opa!Com Deus」の躍動感は見事だ。
レアグルーヴ好きにチェックしてもらいたい「Green Vestige」
『CROSSOVER CITY -Bon Voyage-』のオープニングナンバーは、沢井原兒 & Bacon Eggのファンキーな「Green Vestige」。沢井原兒は、後にビル・ラズウェルがプロデュースした異色作『薩婆訶(SOWAKA)』(1984年)で知られるが、この曲が収められたデビュー作『SKIPJACK』(1981年)は、いわゆるレアグルーヴの隠れた傑作として知られている。ジャイルス・ピーターソンをはじめ、海外のDJからの熱い注目を集めていたということもあり、ぜひレアグルーヴ好きにもチェックしてもらいたい。
日本のプログレッシヴロックを代表するバンド、四人囃子のギタリスト、森園勝敏はフュージョンに転向して話題となった。ロックやニューウェイヴ色が強かったり、技巧的になったりと様々な側面があってユニークだが、ここで収録したのはタイトル通りファンクのテイストを持つ「Blue Funk」。1980年の『ESCAPE』に収められた1曲で、淡々と続くビートに抑制されたギター・プレイが奏でられ、クールな味わいが独特だ。
他にも、ELECTRIC BIRDの音源は充実しており、トランペット奏者なのにソリーナを弾くという異色の大野俊三、スペクトラムのトランペッターである兼崎順一、ニューヨークのセッションがまぶしい益田幹夫、意外にも正統派フュージョンを奏でる清水靖晃、宮野弘紀を中心に結成されたRIGHT STAFF、ジョージ川口の息子である川口雷二がリーダー兼ドラマーのHANG RAIJIと、ふり幅は大きいがしっかりとジャズをベースにしたミュージシャンが中心のため、クオリティの高さは折り紙付きだ。
注目すべき村岡建のサックス
一方、ELECTRIC BIRD以外のキングレコードのカタログにも、注目すべき音源が多数ある。とくに強く推したいのが、村岡建 & His New Groupの「Bon Voyage」だ。村岡建の名前はあまり馴染みがないかもしれないが、彼のサックスを聴いたことがない人はいないだろう。『太陽にほえろ!』、『傷だらけの天使』、『ルパン三世』、『名探偵コナン』といずれもテーマ曲のサックスは彼によるものである。しかし、そういったイメージからもまた違うこの曲のカッコよさを感じていただきたい。
宮の上貴昭(現在は宮之上貴昭)の「Mellow Around」も、同様に強くお勧めしたい1曲だ。宮の上貴昭はウェス・モンゴメリーに影響を受けたギタリストで、この曲でもストリングスをバックにメロウかつ饒舌なプレイを聞かせてくれる。上田力による美しく流麗なアレンジと、どこかクールに構えたギターとの対比が素晴らしい。こういう楽曲を聴くと、日本のフュージョンの奥深さが知れるのではないだろうか。
清水信之の疾走感に満ちた演奏
ちょっと変わったところでは、清水信之のソロ楽曲「Corner Top」を挙げておきたい。清水信之といえば、プレイヤーというよりもアレンジャーとしてのイメージが強いだろう。17歳で紀ノ国屋バンドのメンバーとしてデビューして以来頭角を現し、EPO、大江千里、飯島真理、平松愛理など、いわゆるポップな楽曲に関わっている印象が強い。しかし、この曲は渡嘉敷祐一、高水健司、松木恒秀、ペッカーという超一流のセッションミュージシャンとともに疾走感に満ちた演奏を披露する。フュージョンというにはロック寄りのテイストだが、これもまたジャパニーズ・フュージョンの醍醐味と言っていいだろう。
他にも、ジャズピアニストの重鎮が本気を見せたという印象を持つ八木正生「No Ifs, No Buts」や、増尾好秋の弟である増尾元章のアンビエント風のトラックなど、個性豊かな音源がキングレコードには揃っている。フュージョン本来の面白さが目いっぱい詰まった『CROSSOVER CITY -Bon Voyage-』を味わっていただきたい。