メジャーデビュー35周年!東京スカパラダイスオーケストラの奏でる音楽に境界線はない
あの熱いインストゥルメンタルバンド、スカパラ登場!
1990年のヒット曲ランキングを見ると、おせち料理みたいだ。ロックあり、演歌あり、アニメ主題歌あり。米米CLUB「浪漫飛行」に美空ひばりの「川の流れのように」、THE BLUE HEARTSの「情熱の薔薇」、B.B.クィーンズの「おどるポンポコリン」に、オヨネーズの「麦畑」なんてのもある。KANの「愛は勝つ」がリリースされたのもこの年だ。楽しい!
そんな名曲てんこ盛りイヤーだった1990年、あの熱いインストゥルメンタルバンドが、衝撃的なアルバム『スカパラ登場』をひっさげ、メジャーデビューしていた。そう、東京スカパラダイスオーケストラ!
クリーンヘッド・ギムラのクレジット、 “におい” ってなんだ!?
私が彼らを初めて知ったのは少し遅く、1993年。パイオニアのCDコンポ「Private」のCMだった。 “LDトレイを装備” なんて説明と絡みつつ、超イカシた男たちが超イカシたメロディを奏でていた。それが東京スカパラダイスオーケストラ。曲は「Burning Scale」だった。
もっと聴きたい。そうして購入したのがサードアルバム『PIONEERS』。「Burning Scale」だけではなく、すべてがパッションを音に変えたような跳ね感で、聴いていて体が勝手に上下に動く、動く! ああ、止められないッ。演奏の合間に “東京スカパラダイスオーケストラ…” という雄叫びや “フハハハ” という笑い声も入っていて、なんというか、サーカスの団長のようなイメージである。
音の猛獣たちをまとめ、さあお立合い、すごいショーが始まるぜ、と煽ってくるような!この声の主こそ、初代フロントマンのクリーンヘッド・ギムラ。彼の肩書が “におい” と書いてあって、 ビックリしたが感動した。音楽って、音はもちろん、情熱やエネルギーを発する。雰囲気を作り空気を動かす。ああ、確かに “におい" だ。
自由さと統一感、美しい音の拡散は唯一無二
『PIONEERS』には、笠置シヅ子のカバー「ラッパと娘」も入っていた。後で知ったが、スカパラは「ジャングル・ブギ―」のカバーも演奏しており、服部良一さんの音楽ととっても相性がいい。彼らの音楽がたまらないのは、新時代の自由な感じと、戦後のビッグバンドの後継者的佇まいの混在だ。
バンドが結成された1985年当時、バブル特有の “楽しければ何でもOK” 的な雰囲気(におい)がありながら、原信夫とシャープス&フラッツや、見砂和照と東京キューバン・ボーイズといった戦後を盛り上げたビッグバンドに通ずるような、チームワークによる興奮も見事に継いでいる。統一感をもってギューッと絞り出してバーンと破裂するような、美しい音の拡散は唯一無二だ。
私がスカパラを知った頃、“スカ” とはどんな音楽のジャンルか詳しく知らなかった。それでも彼らの “スチャスチャ!” という音を聴くと “スカ” とはきっと楽しい音楽なのだと、シンプルにワクワクしたのだ。音楽の知識が何もない幼い頃、「マンボ No.5」の “チャカチャカチャン・チャカチャカチャン、ウッ!” に謎の興奮を感じた―― それに似た、心のざわめきだった。
スカパラが小林旭のシャウトパワーを引き出した名盤「アキラ節」
デビューからコアな人気を誇っていた東京スカパラダイスオーケストラ。その名を一躍メジャーに押し上げたのは、2000年からのゲストボーカルを迎えた “歌モノ” シリーズだろう。「めくれたオレンジ」(田島貴男)、「カナリヤ鳴く空」(チバユウスケ)、「美しく燃える森」(奥田民生)の連続リリースを皮切りに、CHARA、甲本ヒロト、宮本浩次など名ボーカリストとのコラボが続いている。彼らの演奏に乗ると、そのテンションとボーカルはさらなるパワーを得て、トランポリンのように跳ねていくのだ。
私は1996年、それをいち早く、“小林旭 歌手デビュー40周年” という激シブなアニバーサリーを通して知ることになる。小林旭が東京スカパラダイスオーケストラを演奏に迎えたミニアルバム『アキラ節〜アキラのジーンとパラダイス』が発売されたのだ。聴いて驚いた。スカパラの演奏でノリにノリ “ハッ!” “イェイイェイ!” と高音を響かせるアキラのシャウト、これがタイミングといい、叫び方といい絶妙なのだ。
1985年の「熱き心に」から小林旭はいい声をしていると思っていたが、ここまでとは!2022年の『NHK紅白歌合戦』でも、スカパラは坂本冬美とともに出演し「お祭りマンボ」を演奏していたが、坂本冬美の声の艶やかさを倍加させていた。スカパラは、歌声もまた素晴らしい楽器であるのだと証明する。
なんたってバンドのテーマは “NO BORDER”
とはいえ、東京スカパラダイスオーケストラの進んできた道は決して順風満帆ではなかった。メンバーとの死別や脱退も経験し、まさに “激動"。それでも一度も活動を休止せず、今年でメジャーデビューから35年。公式サイトの画像は、新たなる地へ向かうべく帆が張られ、その前でメンバー全員が視線を上にあげ、未知の世界を見ている。
2024年10月にはオリジナルアルバム『35』をリリース。そのボーナストラックには、「メモリー・バンド feat.SUPER EIGHT」が収録されている。この曲は2018年、渋谷すばるが脱退したSUPER EIGHT(当時:関ジャニ∞)と、スカパラでの経験を重ね、バリトンサックスとボーカルを担当する谷中敦が作詞したものだ。その中には、こんな歌詞がある。
ずっと一緒にいられなくなっても
いつまでも 忘れやしない
ぼくら人生のステージの上には
いつだって全員で並んでい
君だって
あいつも
あの子も
東京スカパラダイスオーケストラの現在のメンバーはNARGO(トランペット)、北原雅彦(トロンボーン)、GAMO (テナーサックス)、谷中敦(バリトンサックス)、加藤隆志(ギター)、川上つよし(ベース)、沖祐市(キーボード)、大森はじめ(パーカッション)、茂木欣一(ドラムス)の9人。旧メンバーはASA-CHANG、クリーンヘッド・ギムラ、青木達之、武内雄平、冷牟田竜之、林昌幸、寺師徹、杉村ルイ。旧メンバーも、激動の道のりもまるごと含め、ステージに在るのだろう。
そして、彼らの音楽を聴く私たちもそこにいる。なんたってバンドのテーマは “NO BORDER”。音符のようにそれぞれが自由に絡み合い、弾みながら、東京スカパラダイスオーケストラは続いていく。聴いているこちらの心も飲み込みながら。