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【新コラム】「台湾出身蔡さんの古民家再生プロジェクト」第1回「ゼロからのスタート、素人による古民家再生」(蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)

にいがた経済新聞

冬の文化複合施設「MAHORA西野谷」

新潟県妙高市に移住して以来、「古民家をゲストハウスとして運営する」という構想が心に芽生えていた。2014年の日記に記したアイデアがそのきっかけ。夫とは小樽のゲストハウスで出会い、その交流スペースで異なる国籍の人々がつながりを築く姿を見て、地域資源を活用した新しい挑戦をしたいという思いに繋がった。

移住後の半年間、アパートで暮らしながら一軒家を探し続けた。その過程で現在再生した古民家と出会ったが、新婚夫婦には手が届かない物件だった。そのため別の中古物件を購入することになったが、「古民家を活かしたい」という思いは消えることなく、10年後に西野谷の物件と再会し、ついに再生を決断するに至った。

古民家再生を決断した理由

古民家再生に踏み切った理由の一つに「危機感」があった。移住してからの10年間、空き家が次々と解体され、地元のお年寄りから聞く「昔は祭りも賑やかだった」という話も、今では想像すら難しい状況に変わっていた。二人の子供を育てながら、「この土地に何を残せるのか」という問いに向き合い、未来の世代に「帰る場所」を残したいという強い思いがあった。

エフェクチュエーション理論との出会い

古民家購入の半年前に経営管理大学院に通い始め、授業を受けながら古民家再生計画を練り、先進事例の古民家宿を訪れることで現場の知見を深め、同級生とのディスカッションを重ねる中で、具体的なアイデアを形にしていった。その過程で吉田満梨先生が担当する事業デザイン論において、エフェクチュエーション理論の考え方に影響を受けた。

エフェクチュエーション理論は、米国の経営学者サラス・サラスバシーが提唱した理論で、起業家が予測不能な状況下でどのように意思決定を行うかを説明するフレームワークである。従来の「目標から逆算する」カウゼーション(因果推論)とは異なり、「手持ちの資源を基に進む」アプローチを重視する。この理論を学ぶ中で、自分が持つ資源や人脈を整理し、それを活用して計画を実行に移す具体的な方法を考え出した。

特に吉田満梨先生の著書『エフェクチュエーション—優れた起業家が実践する「5つの原則」』が大きな助けとなった。この本ではエフェクチュエーション理論を分かりやすく解説し、その実践方法を事例を交えて紹介している。

エフェクチュエーション理論の5つの思考様式

1.手中の鳥の原則:目的主導ではなく、手段主導で「何ができるか」を考える。
2.許容可能な損失の原則:失敗の際に許容できるリスクを明確にし、それを基準に行動する。
3.クレイジーキルトの原則:多様なステークホルダーとの協力関係を築く。
4.レモネードの原則:偶然の出来事を前向きに捉え、チャンスに変える。
5.飛行機のパイロットの原則:自分でコントロールできることに集中し、状況に応じて柔軟に行動する。

手持ち資源の棚卸し

授業で最初に取り組んだのは、自分自身の手持ち資源の棚卸し。「自分が何を知っているのか」「誰を知っているのか」をリスト化し、周囲の余剰資源を見渡した。

例えば、古民家そのものは所有者にとって余剰資源だった。高齢化や家族への負担を避けるため解体予定だったこの古民家を、地域課題を解決する資源としてポジティブに活用できる可能性を感じた。また、高齢化社会の課題も「生活の知恵」を持つ人生の先輩たちとの交流機会と捉え直した。

古民家再生で実現したいこと

以下は当時自分の手持ち資源を基に考えたアイデアの一部を以下に挙げる。

1. 地域の古民家を改造し、都心部に住む子育て世帯へ第二のふるさと空間を提供する。
2. Facebookのフォロワーへ日本の田舎の魅力を発信し、ロングステイプランを提案する。
3. 子供向けの食育イベントや農業体験を実施する。
4. 地域の高齢者の生活知恵を活かし、郷土料理教室を開催する。
5. 台湾語と日本語で地域情報を発信し、台湾と日本の架け橋となる。

これらの案は、少しずつ実現に向けて進行中。この連載では、古民家再生の挑戦と学びを共有し、同じような夢を持つ人々に参考になる情報を提供していく。

次回は「許容可能な損失の原則」と「クレイジーキルトの原則」に焦点を当て、具体的な古民家再生の進め方を紹介する。

蔡紋如(サイ・ウェンル)

台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い 危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。

【関連サイト】
MAHORAホームページ
ダイヤモンド社ホームページ

【コラム第2回】「許容可能な損失を考える—古民家再生へ一歩を踏み出すため」蔡紋如「MAHORA西野谷」代表

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