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反リベラリズム、ジェンダー平等、イスラエル政策――Z世代の視点からアメリカの現在を描き出す【三牧聖子『Z世代のアメリカ』】

NHK出版デジタルマガジン

反リベラリズム、ジェンダー平等、イスラエル政策――Z世代の視点からアメリカの現在を描き出す【三牧聖子『Z世代のアメリカ』】

 10月30日に放送されたNHK「クローズアップ現代」への出演が反響を呼んでいる三牧聖子さんの著書『Z世代のアメリカ』は、Z世代の視点から未来のアメリカ、未来の平和を考える一冊です。米中対立、反リベラリズム、ジェンダー平等、レイシズムなど、さまざまな角度からアメリカの現在を描き出し、2024年新書大賞では4位に選ばれるなど高い評価を得ています。本記事では、本書の「はじめに」を特別公開します。

Z世代のアメリカ はじめに

 アメリカは今、政治・外交・社会、さまざまな意味で転換期にある。本書はこの転換期のアメリカを、1997年から2012年の間に生まれ、今後いよいよアメリカ社会の中心となっていくZ世代の視点に注目しながら考えていく。現在アメリカの人口の2割を占めているZ世代にとって、社会の多様性はデフォルト(初期値)である。アメリカは2040年代には、非ヒスパニック系の白人がマイノリティとなり、ますます人種的に多様な社会になると見込まれている。多様化しているのは人種構成だけではない。宗教や価値観、ライフスタイル、国家観や世界認識も多様化している。

 本書がこの世代に注目する最大の理由は、この世代が、歴史的にアメリカの政治外交を特徴づけてきた「例外主義(exceptionalism)」的な観念に囚われず、新たなアイデンティティや世界との関わり方を模索する世代だからだ。第一章で詳述するが、「例外主義」とは、アメリカの比類のないパワーや道義性を誇り、アメリカを諸国家を導く存在とみなす観念のことである。こうした観念はしばしば独善的な対外行動となってあらわれ、アメリカと世界との関わり方に多くの歪みを生み出してきた。

 しかし、この観念に変化が起きている。もちろん今日でもアメリカは依然として強国で、特にその軍事力は世界でも突出している。しかしZ世代の肌感覚では、「豊かで強いアメリカ」は過去のものになりつつある。世論調査会社ギャラップの2020年の調査によれば、「アメリカ人であることを非常に誇りに思う」と回答したZ世代の若者は、他の世代より突出して低く、わずか20%だった。

 彼らが生きてきたこの20年間のアメリカを考えれば、自国への肯定感の低さは納得がいく。アメリカは、人種差別や富の格差、脆弱な社会保障など、深刻な国内問題に向き合うことなく、アフガニスタンやイラクなど、世界各地で軍事行動に乗り出し、巨額のお金を浪費して、多くの人命を犠牲にしてきた。肥大化する軍事費は社会保障費を圧迫し、教育費は高騰を続ける。格差は拡大を続け、人種差別や憎悪に基づく暴力が蔓延まんえんしている。この世代にとっては、国内に山積する問題にもがき苦しむ「弱いアメリカ」こそが現実なのである。

 しかし、若者たちは絶望しているばかりではない。この世代は、アメリカが抱える問題や、過去に行ってきた不正義を見据える強さも持っている。声をあげ、さまざまなアクションを起こして、新しいアメリカを求めている。これらの世代がアメリカ社会の中心になっていくとき、どのような新しいアメリカが生まれるだろうか。そのアメリカは、今世界が切に求めている平和に、どのように貢献する存在になるだろうか。

 もちろんよりよい未来への希望は、「アメリカのZ世代」の行動だけに託されているわけではない。より年長の私たちは、この世代からの問題提起をどのように受け止め、「Z世代のアメリカ」「Z世代の平和」に向けて、どのように協働していけるだろうか。本書は、Z世代に生まれつつある新しい認識や動きに着目しながら、未来のアメリカ、未来の平和を展望しようとするものである。

各紙メディア、SNSで絶賛の嵐!

本書は矛盾だらけのアメリカの深層をつぶさに探る。アメリカの底流に迫るには何本もの補助線が必要だ。Z世代は不可欠の一本。読み応え十分の一冊である。
――橋爪大三郎(社会学者、毎日新聞2023年9月30日付)

注目のアメリカ研究者による挑戦的な本だ。ウクライナ戦争を機に専制主義の脅威や台湾有事への対応が盛んに語られる日本では、「強いアメリカ」待望論が主流である。アメリカ頼みは日本の現実だ。だが、その「強いアメリカ」論に疑義を挟む。
――杉田弘毅(共同通信社論説委員長、週刊新潮2023年11月16日号)

プロフィール

三牧 聖子(みまき・せいこ)
1981年生まれ。国際政治学者、同志社大学大学院准教授。東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科博士課程修了。米ハーバード大学日米関係プログラム・アカデミックアソシエイト、高崎経済大学准教授などを経て現職。専門はアメリカ政治外交史、平和研究。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、共著に『私たちが声をあげるとき――アメリカを変えた10の問い』(集英社新書)、共訳書に『リベラリズム 失われた歴史と現在』(青土社)、『自壊する欧米』(集英社新書)がある。

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