Yahoo! JAPAN

「号泣するゾンビ映画?」「そもそもゾンビなのか」亡き家族の“よみがえり”描く『アンデッド/愛しき者の不在』

映画評論・情報サイト BANGER!!!

「号泣するゾンビ映画?」「そもそもゾンビなのか」亡き家族の“よみがえり”描く『アンデッド/愛しき者の不在』

悲しみと慈しみの“死者よみがえり”物語

『アンデッド/愛しき者の不在』が1月17日(金)より全国公開。ノルウェーの新星監督テア・ヴィスタンデルの長編監督デビュー作であり、『わたしは最悪。』でカンヌ国際映画祭の最優秀女優賞を得たレナーテ・レインスヴェが主演を務める話題作だ。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

現代のオスロ。息子を亡くしたばかりのアナ(レナーテ・レインスヴェ)とその父マーラー(ビヨーン・スンクェスト)は悲しみに暮れていた。墓地で微かな音を聞いたマーラーは墓を掘り起こし、埋められていた孫の身体を家に連れて帰る。

鬱状態だったアナは生気を取り戻し、人目につかない山荘に親子で隠れ住む。しかし還ってきた最愛の息子は、瞬きや呼吸はするものの、全く言葉を発しない。そんなとき、招かれざる訪問者が山荘に現れる。そして同じ頃、別の家
族のもとでも、悲劇と歓喜が訪れていた……。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

『ぼくのエリ』原作者による静謐な恐怖と共感・感動

テア・ヴィスタンデル監督は、2005年に発表された同名小説を原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストと共に脚本化。3つの家族のもとに突然、亡きはずの最愛の人たちがアンデッド(生ける屍)となって還ってくるという予期せぬ“再会”を描いた本作は、生きている者たちが悲しみに満ちた中で互いに心を通わせることの難しさ、そして還らぬ人への思慕の気持ちを、美しい映像とともに表現している。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

ヴィスタンダル監督とともに脚本を手がけたアイヴィデ・リンドクヴィスは、『ぼくのエリ 200歳の少女』や『ボーダー 二つの世界』など北欧の傑作映画の原作者として知られるスウェーデンの鬼才だ。

『アンデッド/愛しき者の不在』メイキングカット © 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

「悲しみ」「喪失」が再定義する「ゾンビ」という存在

本作は“ゾンビ映画”の定義をひっくり返す人間劇ながら、ジャンル映画的な入観も否定しない。すでに“ゾンビ”が現代人のDNAに刷り込まれているからこそ、その存在と引き離せない人々の痛みや悲しみ、後悔といった“念”の陰影がいっそう浮かび上がってくる。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

35mmフィルムで撮影された映像は美しいがうっすらと紗がかかっているようにも見え、すべて妄想、夢想なのではないかという感覚もつきまとう。群像劇ながら極端なセリフの少なさで観客に想像する余地を残している部分が多く、しかし登場人物たちの深い悲しみはストレートに突き刺さる。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

本作はマーラーとアナの父娘とその息子のほかにも老齢の同性カップルと、妻/母を失った若い家族も登場する。それぞれ境遇は異なるものの大切な存在の喪失を悲しみ、なんとか受け入れようと葛藤している。とはいえ相手は死体なので、かれらのとる行動、そこに踏み込もうとする行為には少なからずグロテスクさもともなう。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

にじみ出る“ロメロ的”ゾンビ映画のバイブス

いまや私たちは「アンデッド(生ける屍)」をエンタメの素材として消費しまくっているが、映画におけるアンデッド=ゾンビの始祖であるジョージ・A・ロメロは、自身の作品に常に明確なメッセージを乗せていた。本作は攻めたアート映画のように見える瞬間もありつつ、そのシンプルな構造からはロメロ作品のバイブスも滲み出る。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

もし大切な人、近しい人を失った経験があれば……という言い方はするべきでないだろうし、当然ながら観る者によって共感ポイントは異なり、悲しみを感じるか、恐怖を覚えるかも人それぞれだろう。ともあれ、物語終盤に唐突に突きつけられる<衝撃>からの<死の許容>を、ぜひ前情報ナシで劇場で体験してほしい。

『アンデッド/愛しき者の不在』© 2024 Einar Film, Film i Väst, Zentropa Sweden, Filmiki Athens, E.R.T. S.A.

『アンデッド/愛しき者の不在』は2025年1月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国公開

【関連記事】

おすすめの記事