第38回春の縄文野焼き祭り(2024年4月28日開催)~「大地の野炉(のろ)で太陽と風と火の力」により焼き上げる一日
縄文アーティスト兵頭百華(ひょうどう ももか)さんが開催する縄文サロンでの縄文土鈴(じょうもんどれい)・土面作りワークショップに続き、猪風来美術館(いふうらいびじゅつかん)での野焼きに2024年4月28日に参加してきました。
楽しいだけのお祭りではなく緊張感のある儀式として、兵頭さんの師匠でもある猪風来(いふうらい)さんが復活させた縄文野焼き技法を目の当たりにできる縄文野焼き祭りを紹介します。
縄文野焼き祭りとは
「縄文野焼き祭り」が開催されるのは、春(4月頃)と秋(10月頃)の年2回。新見市のなかでも自然豊かな山間部にある猪風来美術館前の広場で、多くの縄文アーティストが創作した作品などを中心に焼き上げる祭りです。
美術館が開館以来19年目を迎え38回目の開催。さまざまな工程をへて、約8時間(午前7時~午後3時)かけ多くの作品を焼き上げます。
縄文野焼き祭りの日程(予定)
縄文野焼き祭りの日程(予定)は次のとおりです。
天候などの影響により、縄文土器などの焼き上がりの時間が多少前後します。雨による地面や土器の湿り具合、当日の太陽や風などから野焼きの火力が変化し、焼き上がりの時間が変わります。
猪風来美術館の入口では、大きい2対の土偶がお出迎え。入口左横の黒板には、祭り当日の日程が書かれています。火入れから祭りに参加したい人は、ぜひ、午前7時から参加してみてください。
縄文野焼き祭りの1日を紹介
1日の流れで紹介します。
火入れ
午前7時。猪風来さんと8名のスタッフを中心に火を起こすことから祭りが始まります。木の板の凹みにあわせ、垂直にたてた木の棒を両手で回転。その摩擦熱により火種をつくります。
続いて、野炉(のろ:野焼き場)に火種をいれる火入れ。
縄文野焼きでは、「野炉は聖なる場所」とされ、今回は猪風来さんとスタッフと事前に申込をした参加者のみが入ることを許されます。
火入れの後、土器を野炉の周りに並べ、低い温度で焼いていく「あぶり焼き」のはじまりです。
土器は十分に乾燥した状態であっても、内部に水分が残ってしまいます。水分が残った状態で強く焼くと土器が水蒸気爆発し、周りにおいた土器も壊してしまう原因になってしまうのです。
そのため、遠火、弱い火力でじりじりと土器を温めることが不可欠。
一つひとつの土器の暖かみを素手で感じながら、両手で大事に回転しつつ乾かしていく大事な工程です。
この時点ではまだ、ほとんどの土器が白っぽい色ですが、兵頭さんの話では、土器の色を見て、どの程度焼けているか、何度ぐらいの火力かをその都度、判断しながら次の工程に移っていくとのこと。
カムイノミ(祈り)
スタッフミーティングを終えると、カムイノミ(祈り)の儀式に移ります。猪風来さんが、直接、北海道のアイヌで伝わる「カムイ(神)」「ノミ(に祈る)」を習い、縄文野焼きのカムイノミとして昇華。
野焼きの作業をする数十人のスタッフが、野炉に入り太陽の昇る東にむかって祈りを捧げます。
縄文野焼き祭りの際には、
「聖なる場所の野炉は、言わば大地の炎の子宮。魂の賜物である土器・土偶は、太陽や風、火の力をかりた野焼きにより焼き上がることで新しい魂を授かれる。縄文野焼きは、言わばその助産をする儀式である」
と、猪風来さんが野焼きについて分かり易く説明してくれます。
多くの作家さんの作品と一緒に、筆者らが制作した土鈴なども焼かれています。
野焼きの技術は失われつつある技術のひとつです。世界中で5割以上の作品が割れてしまうところ、猪風来さんの縄文野焼きでは、ほとんど失敗しない野焼きを復活。海外からのアーティストや学者が見学にも訪れることもあるそうです。
野焼き祭りは、野焼きの最中の怪我や火傷、熱中症対策などにも細心の注意を払っています。猪風来さんが、「縄文野焼きは、見世物ではない、命がけで活動している」と言われたことが印象的でした。
あぶり焼きを終えたあとで、野炉の中心を方状に整地。そこにすべての作品を並べ直します。この時点で、焼きはじめには、白っぽい色であった土器から、ベージュ色に変化していることが見てとれます。
土器を並び終えた後に、並べた土器の周囲を解体した建物などから集めてきた角材や廃材を、膝ぐらいの高さまで六角形に積み重ね、火力をあげて土器を焼いていきます。
約1時間以上焼くと、ベージュ色であった土器が、黒々とした色へと変化してきました。
昼食
ここで昼食時間。美術館入口横に地元の法曽焼(ほうそうやき)同好会員による販売コーナーが設置されています。法曽特製カレーや大山おこわ、バラ寿司、各種飲料水などを販売。
攻め焚き
午後には、腰ぐらいの高さに木材を積み上げ、より焼き上げていきます。周囲の木材も焼け落ち崩れていますが、中心に見えている土器に影響がなく無事に焼かれています。この時点での温度は約500度とのこと。いよいよ最後の工程となる攻め焚きとなります。
スタッフが、薄く焼けやすい材木をどんどんとくべていきます。
このときに皮膚で感じる暑さは尋常ではなく、木材をもって近づきくべるだけでも非常に危険。最終的な温度は600度になり、一気に焼き上げます。
筆者は、この写真を見るたびに、全身で感じた熱量や火に対して頂いた怖さの気持ちを思い出します。
攻め焚きでのクライマックスです。猪風来さんが、話していた「見世物ではない。命がけでやっている」との言葉に納得です。
焼き上がり
攻め焚きの火がおさまってくると焼き上がり。焼き上がった土器などの姿を、徐々に確認できます。
周囲に焼き残った材木があるため、土器などを痛めないように慎重に撤去。
赤く焼き上がった土器などが姿を現します。この日の縄文野焼きでも、1つの土器も割れることがなく、焼き上がりました。想像していた以上に美しい赤色です。
猪風来さんの前に、焼き上がった土器などがていねいに並べられ、焼き具合を確認。
焼き上がった土器などを前に、猪風来さん、スタッフを中心に感謝のカムイノミ(祈り)をします。
最後に、恒例のスタッフ・参加者のみんなで輪になって、縄文大地の精霊ダンスをしました。もちろん、筆者もダンスに参加。
兵頭さんも縄文太鼓の奏者として参加しています。
おわりに
19年にもわたり、続けられてきた儀式のような祭り。危険と隣り合わせのなかで大きな火を扱い、1つも土器が割れない野焼きを復活させた縄文野焼き祭りを、ぜひ現場で体感してみてください。
なお、兵頭百華さんにより定期的に開催されている「縄文土鈴・土面作りワークショップ」に参加し、自身の作品を制作してから参加するとより楽しめます。
募集は兵頭さんのInstagramなどを確認してください。
補足情報 駐車場について
会場となる猪風来美術館の入口に、駐車場案内が掲示されています。でも、初めて行く人は少し分かりにくい。
そのため、補足情報として、当日の駐車場について紹介します。
会場周辺に3か所の駐車スペースが用意されています。
写真に写る牛舎が目印。手前の斜路から入り牛舎の左手がひとつめの駐車場になります。
ふたつめの駐車場は、水田の奥に位置します。左手の道路から入ってください。
もっとも奥の地元公会堂の駐車場がみっつめの駐車場。唯一、アスファルト舗装の駐車場となっています。