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自然に恵まれた県の最西端、島根県益田市。旅先の街の魅力に心ほぐれる【徒然リトルジャーニー】

さんたつ

5-3徒然益田市

石見(いわみ)地方と呼ばれる島根県西部のさらに西端に位置する益田(ますだ)市。雄大な日本海、高津川に代表される清流、山林が広がる中国山地と、多様な自然が凝縮された土地柄である。今回は市の中心部周辺に焦点を当て、東京から空路で現地へと飛び立った。

鶏卵堂(けいらんどう)

アクセス

東京(羽田空港)から萩・石見空港まではANAが1日2便運航(所要約1時間40分)。2024年夏には大阪からのANA季節便も運航(2025年ダイヤは未定)。同空港からJR益田駅までは石見交通バスで約12分。空港内にはレンタカー4社の受付カウンターもある。

日本海に面する島根県西端の地

今回の旅の目的地が島根県と知り、てっきり出雲空港に降り立つものと思っていたが、行き先は島根県西部の益田市にある萩・石見空港と伝えられた。失礼ながら益田市がどこにあるのか知らなければ、空港の存在も知らなかった。確認すると益田市は日本海に面した島根県西端の地で、県境を挟んで山口県萩市と隣り合っているそう。萩・石見空港は1日2便、東京(羽田空港)とを結ぶ直行便が運航しているとのことなので、午前便を手配し、益田市へと一路飛び立った。

新天街へ繰り出し、触れ合いに心温まる

萩・石見空港から益田市中心部までは車で10分ほどで、その利便性に驚かされる。まず手始めに『Fruits moritani』で豪勢なフルーツパフェと濃厚なコールドプレスジュースを平らげてから、『島根県芸術文化センター「グラントワ」』へ足を運ぶとしよう。施設の玄関がどこか分からず行き来している私を見かねたのか、散歩中の女性が「入り口はあちらですよ」と穏やかな口調で教えてくれた。館内外に散りばめられた建築の妙や空間美には感服するばかりで、ひとしきり回廊や中庭を巡ってから、今宵お世話になる『MASCOS HOTEL(マスコスホテル)』にチェックインし、長旅の荷を解いた。

ホテルのフロントで教わった『絣(かすり)』は、親子2代で営む気さくな居酒屋で、出迎えてくれたお母さんの明るい笑顔に旅の緊張がほぐれていくのが分かる。ひとしきり地魚と地酒を堪能してから界隈をブラブラしていると、街灯に「新天街」と記された飲食店街に出た。「ところで新天街ってどんな所なんですか?」とハシゴ酒で立ち寄った店で尋ねたところ、「詳しい人がいるから」と、土地勘のない私を『すずめのがっこう』なる店までわざわざ店主自ら連れていってくれた。

カラオケハウスの一角に酒場を併設した風変わりな店で、すでに地元の酔客でにぎわっている。店主の松本さんに事情を話すと、ここは林業が盛んな地で、仕事帰りに酒を飲む文化が培われ、「新天街」はその名残だと教えてくれた。「人口5万人未満の市で、個性的な飲み屋がこれほど密集している場所は珍しい」と誇らしげで、居合わせたお客さんも「『MARUFUKU』のマスターはこの店でカクテルの作り方を学んだんだよ」とか「地域の暮らしを守るキヌヤの姿勢にはマジで頭が下がる」とか、気になっていた地元情報を惜しげもなく教えてくれるのがありがたい。気づけば時計は午前0時を回っていたが、見知らぬ土地での屈託ない触れ合いが素直にうれしかった。

行く先々での気遣いに自然と募る感謝の念

翌朝、『MASCOS HOTEL』内の「益田温泉」でさっぱりしてから、朝食会場の1階ダイニングへ向かった。見ると一人でゆったり朝食をとる女性が何人もおり、旅先での特別な時間を静かに楽しんでいるようだ。

さて、今日はどう過ごそうか。休館していた映画館を市民有志らの尽力で復活させた『Shimane Cinema ONOZAWA』や、地域随一の人気を誇る食事処『田吾作』のランチについても、新天街で昨晩レクチャーを受けたおかげで、付け焼刃ながらちょっとした事情通になった気分で楽しめた。

帰りの便まで時間があるので、気になるスポットをひと巡りしてから、地元の方に薦められた『鶏卵(けいらん)堂』で、旅の締めくくりに気になる和菓子を見繕うとしよう。「初めて訪れた地にもかかわらず、本当に親切で世話好きな方ばかり出会えたのは、偶然ではなく、この地域で培われた風土なのだろうな」と、映画の舞台にもなった清流・高津川を渡りながら、少々しんみりとした心持ちで夕暮れ迫る萩・石見空港を目指した。

キャバレー赤玉(あかだま)

昭和風情が色濃く残る新天街のランドマーク

フロアを囲むように座席が配された吹き抜けの店内。赤くて高い座席の背もたれなど随所に時代の息吹を感じる。

全国に4軒のみ残るグランドキャバレーの1つ。「時代を超えて長年使われてきた備品などを極力残し、昭和レトロな空間を保っています」と現代表の天野寛徳さんは語る。料金はフロアレディの接客とドリンク各1杯込みで6500円~。接客なし(3000円~)で雰囲気を楽しみに訪れる女性客も大歓迎だ。毎週金曜はショーを2回開催。

キャバレー赤玉(キャバレーあかだま)
住所:島根県益田市駅前町23-6/営業時間:19:00~24:00/定休日:日(臨時休あり)

萩・石見空港

月2回、かわいい柴犬たちが空港でお出迎え

柴犬との記念撮影もOKだ(写真提供=石見空港ターミナルビル)。

東京との直行便が運航し、所要時間は約1時間40分。空港のある益田市は柴犬のルーツとされる石見犬「石号」が生まれ育った地であることから、毎月第1土曜・第3日曜のANA725便到着に合わせ、柴犬たちが搭乗客を出迎える。第2・4土曜の同便は伝統芸能の石見神楽衣裳での出迎えになる。

Fruits moritani

フルーツ専門店が提供する究極のフルーツパフェ

おいしさが凝縮されたフルーツパフェ1500円は見た目も華やかだ。
果物本来の甘みに舌を巻くコールドプレスジュースも一緒に。

JR益田駅前にあり、グレードの高い贈答用フルーツを使用したメニューが評判。ジュレの上にジャージー牛のバニラアイス、甘さを抑えたホイップクリーム、そしてフルーツがのった各種パフェをはじめ、コールドプレスジュースやスムージーなど、季節の果物の魅力を存分に味わえる。

Fruits moritani(フルーツ モリタニ)
住所:島根県益田市駅前町25-32/営業時間:10:00~17:00/定休日:火・水

島根県芸術文化センター「グラントワ」

建築家のこだわりが詰まった芸術文化の拠点

石見神楽の大蛇(おろち)をモチーフにした彫刻「OROCHI」が正面エントランス前で来館者を出迎えている。
ホールのロビーを彩るデザイン性豊かなペンダントライト。
「大ホール内で観劇の際はコンクリートの折れ壁にも注目してください」と話す総務広報課の田原維子さん。

『島根県立石見美術館』と『島根県立いわみ芸術劇場』をあわせ持つ複合施設で、レストランやミュージアムショップも併設。屋根や壁には風合いの異なる6種の釉薬(ゆうやく)を施した合計28万枚もの強固な石州(せきしゅう)瓦が用いられ、建物の存在感を一層際立たせている。有料施設以外は休館日を除いて自由に出入りできるので、25m四方の水盤(すいばん)を配した中庭広場でくつろいだり、館内の造形を観察したりなど、思い思いの時間を過ごせる。

島根県芸術文化センター グラントワ(しまねけんげいじゅつぶんかセンター グラントワ)
住所:島根県益田市有明町5-15/営業時間:9:00~22:00/定休日:第2・4火(祝の場合は翌平日)

キヌヤ益田ショッピングセンター

地元愛あふれる益田市発祥の地域密着型スーパー

自然農法で育てた地元野菜を自ら店頭に並べる「月のてぶくろ農園」の大倉明蓮さん。
「まる・さんかく・しかく」のキヌヤ特製オリジナルグッズ。

島根県を中心に24店舗を擁するスーパーマーケットの本店。ごく普通の店構えと思いきや、近隣の農家約1000人と直接取引をし、評価の高い松永牧場牛を自社精肉センターで受け入れるなど、生鮮食品から加工品に至るまで、地元優先で地産地消の姿勢をとことん貫く徹底ぶりに驚かされる。

キヌヤ益田ショッピングセンター(キヌヤますだショッピングセンター)
住所:島根県益田市常盤町4-38/営業時間:9:00~20:00/定休日:無

絣(かすり)

酒を片手に地元の食を思う存分味わいたい

前菜3種に季節の刺身盛りが付くおつまみセット1650円はお得感十分で大満足!
初代と2代目ご夫婦が和気あいあいと切り盛りする家庭的雰囲気だ。

「新鮮な地魚をたっぷり食べてほしい」と穏やかに語る2代目店主の中島猪佐雄さん。価格は抑えめで、一品料理は鮮魚から長州どりまで幅広いメニューが並ぶ。吟味した全国各地の純米酒も約50種と豊富で、各種利き酒セットや手の込んだ珍味は左党にはたまらない。

絣(かすり)
住所:島根県益田市駅前町19-19/営業時間:17:30~22:00/定休日:日(臨時休あり)

新天街(しんてんがい)

ディープな一夜がお待ちかね♪

どこからか地元の酔客が現れ、そしてお気に入りの店へと消えていく。
行く先々で誘惑が待ち受け、すんなりとホテルへ帰れない。
界隈の事情通で、頼りになる『すずめのがっこう』の松本英次さん。

JR益田駅近く、車が行き交う大通りから一本入った路地を中心に、気さくな居酒屋から料理自慢の店、こぢんまりとしたスナックなど約90店舗が軒を連ねる。チェーン店はなく、それぞれが個性を打ち出した店ばかりで、その奥深さに引き寄せられそう。ハシゴしてグラスを重ねたくなる店が多いのが悩ましいが、旅先での深酒はほどほどに。

JAZZ&Sound BAR MARUFUKU

キャンドルライトがほのかに揺れる大人の空間

音楽好きが客を前に自由に演奏できるオープンマイクは主に火曜夜開催。
慕われた前オーナーから店を継いだ現代表の髙島宏幸さん。

近隣の愛好家が集う居心地のよい音楽バー。ジャズを中心とした選りすぐりの曲が流れるなか、ギムレット580円など良心的価格のカクテルなどを手に旅先での一夜を楽しみたい。店内には各種楽器が置かれ、月の半分ほどは多彩なジャンルの生演奏も聴ける。

JAZZ&Sound BAR MARUFUKU(マルフク)
住所:島根県益田市駅前町30-27/営業時間:19:00~翌0:30(金・土は~翌2:00)/定休日:日

MASCOS HOTEL 益田温泉

地域の魅力を多角的に発信するクラフトホテル

使い勝手のよい土間や温もりある無垢材の床、職人が手がけた家具が目を引く客室(写真はエグゼクティブツインB)。
ホテル2階の「益田温泉」には自前の源泉を引いた大浴槽とサウナ(女性用はミスト)・水風呂がある(写真は男性用)。
バイキング形式の朝食は何を選ぶか迷うほど種類も豊富だ。

客室と共用部に置かれたテーブルやイスから器、館内着に至るまで、地場産業と共同開発した逸品を備えた落ち着きあるホテル。気の利いた間接照明やルームフレグランスが醸し出す空間に身を置けば、誰もが心の安らぎを感じることだろう。客室は15タイプと多彩で、一人旅から小グループまで幅広く対応。手足を伸ばしてくつろげる「益田温泉」は、宿泊者であれば午前1~6時を除いていつでも入浴可能だ。朝食で提供される料理にも地元の季節の食材が数多く用いられている。

MASCOS HOTEL 益田温泉(マスコスホテル ますだおんせん)
住所:島根県益田市駅前町30-20

Shimane Cinema ONOZAWA

思わず応援したくなる映画館

「壁画にはクラウドファンディングに賛同した方々の名前を記しているんですよ」と微笑む館長の和田さん。
市民らの熱意で見事によみがえった劇場内部。

「映画館特有の世界感に触れてほしい」と東京でユニバーサルシアターの支配人経験をもつ和田浩章さん。妻の実家がある益田市に移住し、クラウドファンディングで資金を集めて休館中の映画館を復活させた。「復活した灯を消してはいけない」との熱き思いがビシビシ伝わる。

Shimane Cinema ONOZAWA(シマネシネマ オノザワ)
住所:島根県益田市あけぼの東町2-1 3F/定休日:月・火

田吾作

全国各地から客が訪れる

揚げた魚にお煮しめや小鉢が並ぶ田吾作定食とちょっと刺身2000円はランチタイム限定メニューで、コーヒーも付く。
「地元の旬の食を味わってほしい」と代表の志田原耕さん。

手の込んだ料理と新鮮な魚介を味わえる食事処で、元旅館を改装した風情ある店内の一角に大きな生け簀(いけす)が置かれている。昼は刺身定食2500円や海鮮丼2000円など定食のほか単品料理やコースも。夜営業の料理はおまかせで地酒も多く揃う。屈指の人気店だけに予約を。

田吾作(たごさく)
住所:島根県益田市赤城町10-3/営業時間:12:00~14:00・17:00~不定/定休日:不定

鶏卵堂

懐かしさを感じる益田名物

店舗併設の工場で独自製法により作られる鶏卵饅頭。各商品の価格は2025年4月に改定予定だ。
しっとりとした優しい食感の鶏卵饅頭は10個756円など。

看板商品の鶏卵(けいらん)饅頭は、自家製白餡(しろあん)を地元養鶏場の鶏卵を用いた生地で包んだ素朴な味わい。とろけるような口当たりのますだポテト1個216円や、西条柿を丸々使った食べ応え十分の柿麿(かきまろ)3個入り箱1269円(12~5月のみ販売)も一緒に買い求めたい。

鶏卵堂(けいらんどう)
住所:島根県益田市あけぼの本町9-18/営業時間:9:00~17:30/定休日:火・水(営業の場合あり)

高津川

ダムのない清流として名高い地域の誇り

欄干中央部のハート形が縁結びスポットにもなっている飯田吊橋。

中国山地を水源に島根県西部を南北に流れ下り、益田市で日本海へと注ぐ高津川。全国の一級河川で唯一本流にダムがなく、国土交通省による2023年の水質調査において8回目となる清流日本一に判定されるなど、水質が最も良好な河川として知られる。アユやウナギ、ツガニなどが生息するのは、エサが豊富で恵まれた環境の証しでもある。

【耳よりTOPIC】足を延ばして世界遺産「石見銀山」へ

龍源寺間歩(写真提供=大田市観光振興課)。

萩・石見空港からレンタカーで東へ約90km。島根県大田(おおだ)市の大森地区にあるのが江戸期に世界屈指の採掘量を誇った石見銀山で、2007年には「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産(文化遺産)に登録されている。「間歩(まぶ)」と呼ばれるかつての銀採掘坑道も見学可能で、鉱山とともに栄えた界隈の歴史的町並みも整備。益田市探訪とあわせて足を運びたいスポットだ。

取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2025年3月号より

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