Kroi、Chilli Beans.、BREIMENら実力者が大阪に集結、「ここに来たことが自慢になる」とFM802が胸を張った『Rockin’ Radio』
『FM802 Rockin’ Radio! -OSAKA JO YAON-』2024.6.29(SAT)大阪・大阪城音楽堂
大阪で圧倒的人気を誇るラジオ局・FM802が「今、あなたに見てほしい。注目のアーティストが春の野音に大集結!」と最旬のアーティストをオーガナイズする『FM802 Rockin’ Radio! -OSAKA JO YAON-』。初開催となった2013年から毎年開催され、コロナ禍で開催を断念した年もあったものの今年の6月29日(土)に節目となる第10回開催を迎えた。今年出演がアナウンスされていたのは、Kroi、サバシスター、Chilli Beans.、BREIMEN、NEE、離婚伝説、そしてオープニングアクトのヨナツメを含めた7組。開催直前、くぅ(Vo.Gt)の急逝により出演キャンセルとなったNEEだったが当日はNEEのバンドTシャツに身を包んだファンも多く訪れ、彼らへ心を寄せる1日だったことも記しておきたい。早速、大阪城音楽堂でのライブの模様をお届けしよう。
近畿地方に平年よりかなり遅い梅雨入りが宣言された6月下旬。開催日が近づくごとに悪天候の日が続いていたこともあり、アーティストも関係者も、チケットを手にしていた人もドキドキしていたかもしれない。ところが6月29日(土)の大阪は「この暑さ、ヤバない?」という声があちこちで聞こえるほどの好天に恵まれた。その効果かフードブースは長蛇の列で、ビールやかき氷が飛ぶように売れていく。
開演時刻ピッタリ、ステージにMCの板東さえか(FM802 DJ)が現れ、開口一番「今日、晴れましたー!」という高らかな声に誰もが拍手で応える。それもそのはず、天気予報に晴れマークが現れたのは開催前日だったのだから。そして「早速オープニングアクトをご紹介しましょう。「ミュージシャンの夢と一緒に歩んでいく」が合言葉の新人アーティスト育成プロジェクト『GIANT LEAP』から、昨年のオーディションを勝ち抜いた大阪のバンドです!」と今年の『Rockin’ Radio!』の開会が告げられた。
ヨナツメ
灼熱の会場に風を送り込むような涼しげなSEと共に登場したのは、紅一点の萩月美樹(Vo.Gt)を筆頭に福屋礼央(Vo.Aco)、たいが(Gt)、Atsuki(Ba)、笠置昂生(Dr)からなる5人組バンド・ヨナツメ。萩月の「『Rockin’ Radio!』、ヨナツメです。よろしくお願いします。せーの……」と、この日の開幕曲に選んだ曲は「ふるさと」だ。生まれた街への思いがキャッチーなメロディーに乗せて野音の空へと広がっていく。萩月のキュートな歌声とポップなメロディーが心を掴んだのだろう、オープニングアクトの1曲目だというのに観客総立ちの光景が広がる。
そしてキーボードの繊細な音が際立つイントロから、するりと疾走感あるバンドサウンドへのコントラストが高揚感を煽った「全部捨てればいいよ」、エモさを含んだメロディーラインが萩月の綺麗な高音と溶け合う新曲「青い翠」、ノスタルジックな歌詞と音像で観客を魅了した「最終電車に乗って」まで、会場にしっかりと自分たちの種を蒔き、観客の心に花を咲かせてオープニングアクトの役目を終えた。萩月が何度も口にした「出会ってくれてありがとうございます」という言葉もじんわりと沁みる、素晴らしいパフォーマンスだった。
サバシスター
「スリーピースのストレートな音と言葉に胸を熱くする」と板東さえかより紹介されたトップバッターはサバシスター。なち(Vo.Gt)の「『Rockin’ Radio!』覚悟を決めろ!」の開幕宣言から「覚悟を決めろ!」でキックオフすると、4つ打ちのドラムとオクターブを移動するベース、軽快なギターで会場を揺らしていく。GK(Dr.Cho)が歌詞に合わせてバッチリとピースサインを見せつける一方で、るみなす(Gt.Cho)となちは激しくヘッドバンキングをしながら、ピュアなロックンロールサウンドを炸裂させる。
サマーチューン「スケボー泥棒!」、GKとるみなすのコーラスワークが冴え渡った「キラキラユー」に続いて演奏されたのは「よしよしマシーン」だ。なちが「頑張って家に帰ってきて1人だと寂しいから、よしよししてくれるマシーンが欲しいなって曲です」と紹介した同曲では、なちの要求に応えてオーディエンスが左右に大きく手を振り、よしよしする光景が広がる。これにはなちも「すごい……」と声を漏らしていた。
拳を自身の胸へと突き立てたなちの姿から決意がひしひしと伝わってきた「ミュージック・プリズナー」、るみなすとなちが背中合わせでギターを鳴らし合った「タイムセール逃してくれ」を経て、ライブはクライマックスへ。
ギターを下ろしハンドマイクへと持ち替えたなちが「イェイ!」とシャウトして投下されたラストナンバーは「サバシスター's THEME」。ステージ上を左右目一杯に駆け抜けるなちとるみなすがジャンプを煽り波打った客席は、この歌がバンドのテーマとしてだけでなく、ファン全員のアンセムとして機能していることを証明していた。
色違いのラグランTシャツに身を包み、純度100パーセントのパンクを鳴らしたサバシスター。オーディエンスに背を向けてプレイする瞬間に目に飛び込んできた所属レーベルPIZZA OF DEATHのロゴマークロゴマークが、彼女たちの真っ直ぐな決意を表しているようだった。
離婚伝説
期待感が詰まった拍手がステージへと送られる中、黄色のジャケットに身を包んだ松田歩(Vo)とストライプのシャツを羽織った別府純(Gt)が颯爽と姿を表し、離婚伝説のショータイムが始まった。スラップを織り交ぜるベースとタイトなドラムが強固なアンサンブルを提示した「あらわれないで」で滑り出し、セッションから「スパンコールの女」へと流れ込む。松田と別府がステップを踏みながら左右に踊るキュートな一面を見せると、クライマックスではステージから身を乗り出した別府がチョーキングを効かせたギターを炸裂させ、のっけからうっとりとする空間を演出する。
イントロのストリングスのフレーズにファンから歓声が上がった、初夏にぴったりのナンバー「眩しい、眩しすぎる」を終えると会場のムードは一変。教会を連想させる厳かなキーボードの音色が鳴りはじめ「萌」が披露された。ロングトーンを基調とするベースとキーボードのミニマムな演奏によって、松田の色気を感じるボーカルと歌謡曲調のメロディ、歌詞が際立って映える。曲終盤で楽器隊がグッとボリュームを上げると松田の語気も自然と強まり、失った日々へのノスタルジーを紡ぐ同ナンバーの切なさを一層掻き立てた。
メロウな空気を一転させたのが「愛が一層メロウ」。悠々と舞台上を歩き回りながら歌い上げる松田が「歌える?」と問いかけると、オーディエンスからシンガロングが巻き起こる。回数を重ねるごとに段々と観客の合唱が大きくなっていく様子は、親しみ深いメロディが多くの人を虜にしたことを裏付けていた。
エンディングを彩った「メルヘンを捨てないで」では、少し風が吹き始めた大阪城野音に伸びやかな歌声を響かせた松田がステージを去ったのち、怒涛のセッションが展開される。強弱をつけたギタープレイで会場を沸かせ、身に着けていたサングラスを客席へと放った別府へと止まない喝采が降り注いでいた。
BREIMEN
3番手は、メジャーデビュー後初のワンマンツアー『AVEANTING』を完走したばかりのBREIMEN。Kroiの「HORN」をカバーするサプライズでファンを喜ばせたリハーサルの段階から、ノリに乗ったバンドの勢いが一目で見て取れる。
高木祥太(Ba.Vo)のスラップが静寂を切り裂いた「乱痴気」で開幕の号砲を鳴らすと、掛け声に合わせて観客から掲げられた手にいけだゆうた(Key)と高木は「ナイス!」と満面の笑みを浮かべる。「ウルトラソウル!」の無茶苦茶なコールアンドレスポンスで客席をジャンプさせる様子は、「乱痴気」を冠するに相応しいどんちゃん騒ぎだ。
「暑くて歌詞飛んじゃった」と話す高木に笑いが起きた「LUCKY STRIKE」に続けて「ODORANAI」がドロップされる。曲の終盤、高木が「みんなが好きなのさ それだけさ!」と歌詞にアレンジを加えフロアへの愛を叫べば、客席からも声が上がり相思相愛の多幸感に満ちた時間が流れた。ジョージ林(Sax)が高速フレーズのソロを爆発させると、既に高まり切っていたボルテージも青天井の勢いで上がっていく。
サトウカツシロ(Gt)と高木の型破りなダンスを愛するしかない「ラブコメディ」を終えると、高木は先刻の離婚伝説のライブを観て、クライマックスでソロの演出をやりたくなったことを話し、セットリストの相談がスタートした。スタジオの様子を垣間見ているようなMCを経て、ラストに据えられたのは「ブレイクスルー」。
巨大なチャントが発生した後、宣言通りジャムセッションが展開され、高木のアイコンタクトによる指令で力強いソロが順番に繰り広げられる。ベースをスタンドに立てかけて爆音を鳴らした高木が先にステージを去ると、So Kanno(Dr)のビートを基軸にした4人のセッションが余韻を残した濃密な40分だった。
BREIMENのライブに圧倒された人々のざわめきが収まらない中、「涼しくなってきましたね〜」と板東さえかがステージに登場。ここまでのライブについて振り返っていると「大阪城音楽堂にいる板東さえかさんを呼んでみましょう、板東さーん!」とスピーカーから声が聞こえてくる。この日MCとして名を連ねていた樋口大喜(FM802 DJ)の声だけの登場に会場では拍手が湧く。この時間、樋口はFM802『SATURDAY AMUSIC ISLANDS -AFTERNOON EDITION-』(毎週土曜12:00~18:00)のオンエア中で、どうやらスタジオと野音を生で繋いでいるらしい。
「そちらはどうですか?」と問いかける樋口に板東が会場の様子をリポートするものの、タイムラグが激しく「私の声、電波乗ってる?」(板東)……「乗ってます乗ってます!」(樋口)……「まるで地球の反対側くらい距離あるわ。あ、ちゃうわ。日本の反対側やね」(樋口)……「ツッコミ入れにくいねん!」(板東)とタイムラグにも負けない、ナイスコンビネーション。この日こっそり教えてくれた板東曰く、この生中継は実験。「せっかくひぐっちゃんが生放送中だから連動感を作りたいと思ったんです。生放送の声が野音のスピーカーから出たら面白いでしょ? ただ、あんなにラグがあると思わなかったけど(笑)。もっとお客さんにラジオ局がやっているイベントだって伝わったらいいなぁと思って」と話してくれた。
Chilli Beans.
トリ前に登場したのは、Chilli Beans.。デビュー以降リリース、ライブ、動員などあらゆることを一歩一歩スケールアップさせてきた「実直なガールズバンド」だ。Maika(Ba.Vo)がFM802で『MUSIC FREAKS』(毎週日曜22:00~24:00)を隔週で担当中ということもあり、サウンドチェックの観客の盛り上がりからすでに期待値の高さを感じさせる。改めてMOTO(Vo)、Lily(Gt.Vo)、Maikaとサポートドラムの4人が現れるとひときわ大きな歓声が上がり、ダンサブルなビートが効いた「Welcome」でステージが幕を開ける。
Chilli Beans.流のポップソングから、ファンキーなベースラインが光る「rose」へ。リズムに合わせ軽やかにステップを踏みながら歌うMOTOの姿が、ユルく洒脱な雰囲気を伝える。息もつかせぬままダークな一面も見せてくれる「See C Love」、MOTOの歌声のキュートさが際立つ「aaa」、エモーショナルなメロディーに呼応するように夕刻の風が吹き抜けた「spark」と、ライブは途切れることなくシームレスに続いていく。
そしてMOTOの小さな声でぽつりと曲名が紹介された「lemonade」が始まると、会場の誰もがグッと手を挙げる瞬間が訪れる。それぞれ違うバンドを目当てに集まった人たちも皆、この曲を待っていたようだ。リズムに合わせてLily、MOTO、Maikaが左右にステップを踏む姿もとてもかわいかった。MCを挟むことなくさらにギアを上げた「Digital Persona」から、「シェキララ」、「you n me」まで、アクセルべた踏み怒涛の3曲。3人は、演奏を止めない。とにかくたくさん曲を演る――そんな意志が見えたステージだった。
「『Rockin’ Radio!』、みなさん楽しんでますか? FM802大好き、大阪大好きです! Chilli Beans.でした!」とMaika。9曲をやって、ようやくMCかと思えばラストソング……! 歪んだギターのイントロからメランコリックな世界へと引き込まれる「Mum」で締め括ったChilli Beans.。わずか40分ほどで10曲。チリビの曲、めちゃくちゃ聴けた! と満ち足りたパフォーマンスだった。
Kroi
2024年の『Rockin’ Radio!』、ラストを飾ったのは内田怜央(Vo.Gt)、長谷部悠生(Gt)、関将典(Ba)、益田英知(Dr)、千葉大樹(key)の5人組ミクスチャーバンド、Kroi。
メンバーがBREIMENのアルバム名『AVEANTIN』を連呼しながらステージに現れると、くすくす笑いとともに大歓声、大きな拍手が起こる。「トリですねー」と内田が投げかけると千葉が「MCからライブが始まるのってあんまないよ(笑)」とリラックスムード……かと思えば、メンバーが音を鳴らし始めると、Kroiがようやく始まる……という期待感で会場の空気がピシリと張りつめた。オープニングナンバーはオリエンタルムード漂うイントロから一気に、うねりを上げて疾走していくダンスチューン「Sesame」。ひとりひとりの高い演奏力と内田のボーカルセンス、5人のパフォーマンスで魅せるバンドの類稀な存在感。それを示すために1曲もかからない。
圧倒される観客を尻目に「Green Flash」、「Hyper」と6月にリリースしたばかりのアルバム『Unspoiled』から3曲、Kroiの最新のモードをぶっ放す。どの曲も展開がジェットコースターのようで、行き先が見えないワクワクとドキドキが同居する。
演奏が終わったかと思えば、「バカ暑いな!」とフランクなMCが始まる。「こんな素敵な日のトリ、俺らで大丈夫?」とゲラゲラ笑う5人の姿には、さっきまでの研ぎ澄まされたパフォーマンスをしていた人物とは思えないほどのギャップがある。わちゃわちゃしているかと思えば急に演奏が再開。ゆったりとメロウなメロディーに内田のロングトーンが美しく溶けた「risk」では、会場に満ちていた熱がゆっくりとクールダウンしていく。軽やかなギターのカッティング〜内田のラップに、曲の始めから終わりまで手拍子が鳴り止まない「Balmy Life」からダンサブルな「Amber」へ。大阪城野音では、手拍子する人、拳を挙げ続ける人、リズムに体を預ける人……「誰1人置いていかないライブ」が行われていく。
曲が終わり、静まった会場内に関のベースが響き始めたところで、内田の「ありがとうございました。みなさん、またお会いしましょう!」という声。するとバンドはジャムセッションで会場に再び熱を与えてゆく。彼らのライブではお馴染みの「Fire Brain」を披露。演奏終盤で内田が放ったのは、これからの彼らが楽しみになる「Kroi、ヤバい1年にしようと思ってます!」という一言。グルーヴが渦になったまま余韻として残るような、強烈なステージだった。
冷めやらぬ興奮を落ち着けることはできないと、誰もが再び演奏を望む手拍子を送る。そして最初にステージに姿を現した長谷部は、本編で動きまくってギターを演奏していたのもあってか……ハイハイで舞台中央へと進み出て観客の笑いを誘う。アンコール曲に選ばれたのはファンクナンバー「Juden」。ファンキーにがなる内田のボーカルの底力×変幻自在なボーカルに絡みつくようにグルーヴを作り上げていくバンドの演奏の底力。完全にKroiに支配された大阪城野外音楽堂で、「音を楽しむとはこういうこと」だと示してくれた。
実はこの日、終始印象的だったのはMCの板東さえかの表情だった。会場袖でステージを観る傍ら、客席に目線を移してはニヤニヤと嬉しそうにしている。はて……と、イベント終了後にバックヤードで話を聞いた。
「ニヤけてました? お客さんが楽しそうでうれしいなぁと思って。去年は雨がひどかったし、みんなカッパを着ていたからお客さんの顔が見えなかったんです。だからこそ今年はみんながすごく音楽を聴いてくれているなって楽しくなっちゃって。このイベントは、「この年にこんなアーティストが出てたんや!」って後から説得力が出てくるんです。特に今年のラインアップはそのタイムラグが1年とか2年とかではなくて、本当にすぐにそう思わせられるほど強力なものになったと思っていて。毎年そういう並びではあるけれど、今年に限っては本当に誰もがこれからの音楽シーンを作っていく実力者が揃ったと思っています」
なるほど。まずは出演アーティストたちのこの夏の動きに大注目、と。きっと活躍する姿が全国各地で見られるはずだ。そして願わくは来年もまた、晴天の『FM802 Rockin’ Radio! -OSAKA JO YAON-』@大阪城音楽堂でいい音を存分に浴びたい。FM802のみなさん、今年を凌ぐ強力なラインアップを楽しみにしています!
取材・文=桃井麻依子(ヨナツメ、Chilli Beans.、Kroi)横堀つばさ(サバシスター、 離婚伝説、BREIMEN)
写真提供=FM802(撮影=渡邉一生、キョートタナカ)