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能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第18回)

まるごと青森

能町みね子の「あんたは青森のいいところばかり見ている」(第18回)

シリーズ・バス終点の旅 ただただ惹かれる地名「枯木平」に行きたいだけの旅

弘前に行くたびに気になっている「終点」があった。
駅前のバス乗り場でたまに見る「枯木平」行きのバス。
カレキタイ、と読む。東北では「○○平」と書いて「○○タイ」と読む地名がよくあるが、「タイ」は標高の高い山裾のゆるい斜面などを差すらしい。
「枯木」の部分に、すごく妄想が膨らむ地名である。荒涼とした曇り空の大地に枯木がまばらに立ち、目に入る色はすべて褐色か灰色……みたいな、SF映画的な世界を想像してしまう。行ってみたい。行こう。

ちなみに、枯木平に行ったのは昨年の9月中旬。昨今の異常気象で、まだ青森もけっこう暑い時期だった。ということで今回も私だけがバスに乗り、終点で5号氏・風呂道具師に待ちかまえてもらうという手法です。今回はほとんど景色だけでお届けするので、お二人の活躍には特に触れません。すみません。

枯木平行きバス、時刻表の一の位は1。※昨年9月取材当時 現在は始終点に変更があります

枯木平行きのバスは1日7本。多いとは言えないが、激レアではない。
バスは弘前駅から西に進む。幹線道路を走ったかと思えばすぐに狭い道に入り、運転手の技量が試されるようなルートを進みながら岩木山の南山麓をゆく。

道、けっこう狭いですよね。バスの大きさは標準的。

岩木山神社の前でラスト1人の乗客が下り、客は私だけになった。岩木山神社よりあとはフリー乗降区間となり、運転手さんに告げればどこでも下ろしてくれるらしい。
どんどん坂を上る。山麓を進むにつれ、道はむしろ整備されてきて、風景がりんご畑から「きみ畑」に変わってくる、

車窓のきみ(とうもろこし)畑。

……乗ること約1時間。ついに枯木平についた。
地図で見ると岩木山の西南西、弘前から見て岩木山の裏側に差しかかっている。果たして景色はどうか。そこには枯木が広がる、殺伐とした荒野が広がっているか。

そそり立つ終点バス停。

終点には意外にもちゃんとした建物が。「いわき・ときわのコミュニティセンター」とのこと。

枯木平、暑い。枯れては……ないなあ。枯木平バス停のすぐ近くに枯木(?)があるといえばあるけど、基本的には景色は青々としているよ。ひとけはないけど。
枯木平、はっきり言って、何か劇的なこと・ものがあったわけではなかった。でも、ただ、景色がなんだかすごかった。写真多めでお届けしたい。

空が広い。

しかし、なんでしょう、バス通りから一本入るとはてしなくどこまでも行けてしまいそうで、荒涼とした雰囲気がなくもないね。道が山のほうに入っていかないことで、逆にちょっと足がすくむ。

碑があった。

「藤田謙一先生頌徳碑」とある。誰だば?
藤田謙一について調べてみる。彼は弘前出身の実業家・政治家で、弘前にある藤田記念庭園も彼の邸宅だそう。彼はこの枯木平に「藤田農牧場」を開設し、整備して田畑を開墾し、その利益をすべて育英資金に充てたという人物であるらしい。
枯木平、そんな歴史のある場所だったとは。「枯」どころか、たくさんの人物を生み育てているではないか。

きみ(トウモロコシ)畑が広がる。

現在の枯木平バス停の周辺に、集落は10軒くらいだろうか。
キビの穂が広がる景色は、青森にあってなぜか沖縄のようでもある。それでいて、起伏に畑が延々続くさまは北海道のようでもある。なんだかザワザワする景色で、たまらない。

街道のいちばん奥にある滝吉商店。

とうもろこしを直売している滝吉商店は、この日やっていなかった。「嶽」で採れるものが「嶽きみ」と呼べると聞いたことがあるけど、どこまで「嶽」に含まれるのかな。このへんのとうもろこしも「嶽きみ」って呼んでいいのかな。

この赤い柱は……?

作物は実っているけどどこか索漠とした景色の中に、急に赤い柱が二つ現れた。なんだこれ。

うわ、神社だ。

こちらの大山津見神社、何と言いましょうか、なんとも、すごい迫力である。この存在感をうまく表す言葉がない。寺山修司の世界……。

道が判然とせず、これ以上行けませんでした。

9月なのになぜか紫陽花が咲いていた。

山にのぼっていく一本道、ゾッとするほどいい感じ。

そんなわけで、青森というよりも北海道と沖縄をミックスしたような、広漠でゾワーッとするような景色が見たかったら、枯木平はおすすめです。すごくよかった。

生で初めて食べた。

帰り道、小田切農園さんによって嶽きみをいただきました。収穫したてのものを初めて生で食べたけど、甘くてスイカみたいね。ちなみに、枯木平のあたりで採れるものまで「嶽きみ」と呼んでいいのだそうです。

by 能町みね子
【プロフィール】
北海道出身。文筆業。大相撲好き。南より北のほうが好きで青森好き。著書に、『逃北』(文春文庫)、『結婚の奴』(平凡社)など。アンソロジー小説集『鉄道小説』(交通新聞社)では青森の妄想上の鉄道について書いている。新刊『ショッピン・イン・アオモリ』(東奥日報社)が大好評発売中!

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