【高知グルメPro】四万十町で初めて出会った加圧鍋で茹でるうどん「KOBACO(こばこ)」フードジャーナリスト・マッキー牧元の高知満腹日記
四万十町JR窪川駅の近く、周囲に飲食店などなき街道に、その店は、ぼつねんとあった。
店頭には、「釜揚げうどん came again-udon」と書かれた、木製看板がある。
釜揚げとcame againを欠けた、駄洒落が楽しい。
だが、明らかに、隣の「古本」というのぼりの方が目立っている。
「ごめんください」
と言いながら、恐る恐る入っていくと、
「いらっしゃいませ!」
店に入るやいなや、年配のご主人から快活な声が響いた。
どうやら、お一人でやられているらしい。
温かいうどんは、かけ汁の各種と釜玉の各種、冷たいうどんはぶっかけと醤油うどんがある。
おや?店頭に掲げられていた釜揚げうどんがないじゃないか。
壁を見ると、そこには「夜のうどん」という品書きが張り出されており、どうやら釜揚げは夜だけやられているらしい。
だが、それより気になったことがあった。
単なる温麺と冷麺ではなく、加圧温麺、加圧冷麺と書かれているではないか。
うどんを作るのに加圧しているのか?
俄然、好奇心が掻き立てられ、夜だけだという釜揚げうどんを無理にお願いした。
うどんが出来上がるまでの間、冷やした「パリパリピーマン」や、なすと竹輪とミニトマトによる「冷やしおでん」、
「揚げたてじゃこ天」を頼み、待つ。
どれも夜なら、これらでいっぱいやってからうどんを食べたら良いだろうなあ、という酒を呼ぶ味わいである。
ご主人は小部屋に消え、うどん打ちの機械だろうか、部屋からゴトゴトという音がし始めた。
やがて店主がうどんを持って現れる。
そして何かの鍋に入れたかと思うと、シュシュシュ、シュシュシュという音が聞こえ始めた。
ここは圧力鍋でうどんを茹でるのだという。
小部屋のドアに張り紙がしてあった。
「当店のうどんは、圧力鍋で茹でています。茹で時間は通常の2分の1で、表面はニュルのモッチモチです。一度に茹でる量が限られ、お待たせすることもありますが、ご容赦ください」。
全国いろんなうどん屋に行ったが、圧力鍋で茹でるうどんは、初めてである。
加圧温麺の、釜揚げうどんがやってきた。
見た目は普通である。
しかし食べれば、表面は博多うどんのようにやわやわなのに,もちもちと30回ほど噛む。
表情や言葉は優しいのに、芯は強い。
京女のようなうどんである。
書かれているとおりニュルもっちもちのうどんであった。
聞けば、加圧式にすると、コシが出やすいのだという。
長く茹でるともちもち感が強くなり過ぎてしまうため、短い時間で茹でる加圧は最適らしい。
うどんは、前の日に打って一晩寝かす。
店は5年目で、ご主人は、電力会社のサラリーマンを定年でやめられて始められたのだという。
「四万十にうどん屋がなくて、やろうかなと思ったんです」。
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北海道産にオーストラリア産の小麦粉を混ぜて、毎日3〜4キロ打つ。
冷たいうどんも食べたくなり、珍しい「煮干しぶっかけ」も頼んでみた。
うどんの上で、煮干が3匹整列している。
冷たいうどんでも、表面は柔らかい。
唇へのあたりがふんわりとしている。
だが噛めば、歯を押し返しながら30回以上噛ませるのだった。
噛んで噛んで、うどんの甘さが出始めた頃合いに、煮干しをかじる。
煮干しの素朴な旨味と、うどんの淡い甘さが出会って、のほほんとした気分になった。
最後に店名由来を聞いてみた。
「小さな店だから小箱ってね。あまり考えてないのよ」。
そうご主人は言って、優しい笑顔を作られた。
まだ頼みたいメニューがある。
「鶏天キムラ君カルボ」の「キムラ君」とは誰だろう。
このコシのあるうどんで、カレーうどんも食べてみたい。
こりゃcame againだな。
高知県高岡郡四万十町本町2-1「KOBACO」にて