多くの妖精が登場するアイルランドの伝説の中でも興味深い「ケット・シー」の逸話とは?【眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々】
ケルト神話|ケット・シーは黒猫の妖精王
人間の言葉を話し、人間界を観察する不思議な妖精
ケルト神話をはじめとするアイルランドの伝説には、多くの妖精が登場します。中でも興味深いのが黒猫の妖精ケット・シーです。
普通の猫と変わらぬ姿ですが、頭がよくて人間の言葉を話し、何食わぬ顔で人の暮らしにまぎれ込んでいます。
全身を黒い毛で覆われ、後ろ足2本で立ち上がると胸に白い斑点があり、これが妖精の印といわれます。
ケット・シーにはこんな逸話が残されています。ある晩、寺院で働く男性が墓を掘っていると、9匹の黒猫が棺を担いで葬儀をしているところに出くわします。
男性が見ていると、ある黒猫が「ティム・ティルドラムが死んだとトミー・ティルドラムに伝えてほしい」と語りました。
男性は驚き、うちに帰ってその様子を妻に話しました。すると、暖炉のそばで眠っていた飼い猫が目を覚まし、「猫の王が死んだ?それなら自分が王になる」と人間の言葉で叫び、煙突を駆けのぼって外に出ていきました。
それ以来、飼い猫が戻ってくることはありませんでした。その猫は黒猫。妖精ケット・シーであり、猫の世界の王子だったのです。
いまでもアイルランドでは、街中に猫が集まるのは人間界の情報交換のためといわれます。
妖精:クー・シーという犬の妖精も登場する。大きさは牛ほどもあり、人に襲いかかることもある。ケット・シーのように人間の言葉を話すことはないが、人の顔をしているともいわれる。
猫の妖精王ケット・シー
緑色の瞳をし、胸に白い斑点がある黒猫。胸の白い斑点が妖精の印。
知能が高く、楽観的で快楽主義者。
普通の猫の振りをして人間社会に潜んでいるが、人語をしゃべり2 本足で歩く。
ケルト神話の不思議な動物たち
ケルト神話には、猫の妖精王ケット・シーのほかにも、数多くの不思議な動物が登場する。まず、犬の妖精ことクー・シーだ。妖精たちの番犬とされ、ときには人も襲うという。犬はケルト神話で重要な位置にあった。
クー・シー(犬の妖精)
全身濃い緑色の毛で、丸まった長い尾を持つ。牛ほどもある巨体。
英雄を支えた名馬
英雄クー・フリンの愛馬といえば、特別な戦車を引く軍馬マハ。「馬の中の王」と呼ばれた。
2頭の魔法の牡牛
もともとは妖精王の豚飼いたちで、お互いにさまざまな姿に変身して争った結果、牡牛になった。
野生の象徴としての猪
ケルト人にとって重要な食物で、凶暴で荒ぶる動物でもあった。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』監修:鈴木悠介