1980年代アイドル “冬うた” ベスト10!白石まるみ「オリオン座のむこう」を再評価
思ったよりも少ない? アイドルの歌う“冬うた”
80年代アイドルの “冬うた” で10曲という依頼を受け、いろんなアイドルの曲を聴き返してみたのだが、わかりやすく “冬” という季節感を出している曲が思ったよりも少ないなぁ、という印象を受けた。やはりアイドルというと春、あるいは夏のほうがイメージに合うのだろうか。
そのため、今回曲をチョイスするのには少し苦労した。冬というと、やはり “雪” “ゲレンデ” などをテーマにしたものが多くなるのだが、私のチョイスもそういったシチュエーションをテーマにした曲が多くなった。ただ、できるだけ “選ばれがちな曲” は避け、この機会に聴いてほしいものを集めるようにしてみた。個人的なランキングなので偏りがあるかもしれないが、“こんな曲あったなぁ…” と思い出したり、新しい発見をしてもらったりしたらとても嬉しい。
第10位:冬のオペラグラス / 新田恵利
1986年1月1日リリース。
タイトル通り、紛れもなくウィンターソング。オールディーズ・テイストの作曲と編曲は佐藤準。シンプルな作りのようで、サビでさり気なく転調しているところがお見事。
ただ、この曲の魅力はなんといっても新田恵利の歌声にある。下手だのなんだのと取り沙汰されることがあるが、この曲は新田恵利の “一度聴いたら耳に絡みついて離れない” あの声だからこそ成立したのだ。特に1コーラス目の最後の「♪イェイイェイイェイ〜 ウォウォウォウォ〜」がないと物足りなくないですか(笑)
第9位:雪の帰り道 / 渡辺美奈代
1986年10月15日リリース。
彼の部屋を訪ねたとき、知らない誰かの赤いパンプスを見つけてしまう。ん? 似たようなシチュエーションがユーミンの曲になかったっけ?(笑) ユーミンは冷たい雨の中、街をさまよったけど、美奈代は「♪雪になれば 忘れられる」と言い聞かせながら真冬の街を歩いて帰る。あまりにも主人公がかわいそう過ぎる曲なのだが、悲壮感を漂わせないのはシャッフル調のアレンジのせいだろうか。
第8位:パウダー・スノーの妖精 / 島田奈美
1986年11月19日リリース。
この曲も渡辺美奈代の「雪の帰り道」と同じように、彼の部屋を訪ねたら扉越しの話し声で既に誰かがいることに気づいてしまう。しかもそれはクリスマス・イブの夜だったりする。美奈代と違うのは「♪朝までたたずんで氷になるわ」と、傷心のままその場に留まってしまうところ。ひたむきというか、いたいけというか、あまりにも哀しすぎる。「♪まるで今の私 マッチ売りの少女」というフレーズからも、冬の寒さの中で恋を失ってしまう絶望感に溢れている。しかし、どいつもこいつも可愛い子を置き去りにして浮気しやがって(笑)
第7位:ホワイトラビットからのメッセージ / 渡辺満里奈
1987年1月1日リリース。
リリースされた年の干支は “卯(うさぎ)” 。年の初めに届いたクラスメートからの手紙を読んでしあわせな気持ちになる女の子を表現するのに、渡辺満里奈のあどけないヴォーカルは実にうまくマッチしている。そして聴いているこちらも “ほっこり” とした気持ちになれる。曲としては山川恵津子のオシャレなメロディとアレンジが冴えている。
第6位:THROUGH THE WINDOW〜月に降る雪 / 河合奈保子
1985年12月12日リリース。
LA録音のアルバムを2枚出しているが、2枚目のアルバム『9 1/2 NINE HALF』と同時にリリースされたシングル。アメリカ一流どころのミュージシャンによる作品を難なく歌いこなす高い歌唱力が聴きどころ。
凍えた月を
ガラスの小瓶に閉じ込めましょう
涙が割れて
きららの粉雪 月に降るよう
売野雅勇による訳詩は、叙情的なフレーズが並ぶ。ただ当時気になったのだが、レコードの演奏のクオリティが高すぎて、歌番組での生演奏がどうしてもチープに聴こえてしまったのが少し残念だった。
第5位:夢千秒 / 堀ちえみ
1986年1月21日リリース。
前作「青春の忘れ物」で、出だしから「♪探さないで面影は 私もうあの頃と違う…」と悲しげに歌うちえみにはとても驚いたのだが、この曲のーー
私の素肌は綺麗でしょうか あなた
雪割草より綺麗でしょうか あゝ
―― というフレーズ。これを聴いて “ちえみどうした? 一体何が!” と思った記憶がある。当時はまだTVドラマ『スチュワーデス物語』のイメージがついて回っていたところがあるが、このあたりからぐっと大人びた気がする。
「♪紅をさした指を噛んで」「♪夢で重ね合った肌の 熱さ愛しい」など、艶めかしい言葉が並ぶこの曲は、ちえみの少しかすれ気味の声にとても良く合っていた。後藤次利によるドラマティックなアレンジもいい。
第4位:冬のバラ / 薬師丸ひろ子
1984年10月24日リリース(「Woman “Wの悲劇”より 」B面)。
A面と同じく、作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂(松任谷由実)によるもの。A面のスローバラードとは違い、明るくゴージャスなアレンジだが、決して楽しい曲ではなく、歌詞のシチュエーションは彼との別れのシーン。それなのに彼のことを深く愛せたこと、二人で楽しく過ごせた眩しい季節、そして自由に生きてこられたことに対して、
哀しみさえもキラリ
流星になる
わたしの神様ありがとう
―― と締めるのである。前向きなのか? それとも強がりなのだろうか。
第3位:LET'S BOYHUNT / 松田聖子
1983年12月10日リリース(アルバム『Canary』収録)。
歌詞に「♪春のゲレンデ 雪はシャーベット」とあるが、個人的にこの曲が聴きたくなるのはスキーシーズンである冬真っ只中。ということで “冬うた” として選ばせていただいた。
スキー場で素敵な彼をゲットするため、いろんな手を使って彼を振り向かせようとする聖子。 “ボーイハント" と言いながらも、あくまでも “誘われた” という体に持っていくところがさすが聖子(笑)。林哲司による軽いタッチのメロディと、井上鑑のシャープかつカラフルなアレンジが、ウィンターリゾート感を存分に出していて楽しく聴ける。
第2位:リフトの下で逢いましょう / 南野陽子
1988年12月14日リリース(アルバム『SNOWFLAKES』収録)。
当時『夜のヒットスタジオ』や、出演したバラエティ番組で披露していたのでご存じの方も多いのではないだろうか。西日本エリアの方はJR西日本のシュプール号(スキーシーズンに運行されていた臨時列車)のCMソングとしてもおなじみだと思う。
イントロのホルンの音がゲレンデの空気感を想像させてワクワクする。同じくスキー場をシチュエーションにした松田聖子の「LET'S BOYHUNT」が恋の駆け引きを描いているのに対して、こちらは恋人同士がスキーを楽しんでいる情景を描いている。何より『夜ヒット』でスキーウェアを着て歌うナンノは超かわいかったのだ。
第1位:オリオン座のむこう / 白石まるみ
1982年1月21日リリース。
作詞:松任谷由実、作曲:松任谷正隆という、なんとも贅沢な作家陣での恵まれたデビュー。可愛らしいルックスと安定した歌唱力で “これはいける!” と誰もが思ったに違いない。しかしオリコン最高155位というセールス的には残念な結果だった。荒井由実「魔法の鏡」や三木聖子・石川ひとみ「まちぶせ」を彷彿とさせるメロディ、そして歌詞はひたむきな女の子の恋心を描いていて、埋もれさせるにはもったいない、再評価されるべき作品だと思う。
ちなみにカップリングの「恋人がいても」は2022年にリリースされた松任谷由実の50周年記念ベストアルバム『ユーミン万歳!』に収録された新曲「Call Me Back」の元歌。全く違うアレンジなので比較すると面白い。そして2曲とも当時のクレジットはペンネームの “呉田軽穂” ではなく、“松任谷由実” なのも興味深い。
―― 以上が私の80年代アイドル “冬うた” ベスト10である。冬真っ只中のこの季節、皆さんもこれを機会にご自身の “冬うた” を選んでみてはいかがだろうか。
Original Issue:2022/11/12 掲載記事をアップデート