介護現場の「職員ファースト」|「利用者ファースト」へ繋げるために介護施設ができることとは
介護現場では、なぜ「利用者ファースト」ではなく、「職員ファースト」が注目されているのか?
執筆者/専門家
脇 健仁
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/22
「職員ファースト」で人材不足を解消しよう
介護施設において、「職員ファースト」が掲げられるようになった主な要因として、「慢性的な介護人材の不足」が挙げられます。
現在、多くの介護事業所で人材不足が課題となっています。様々な採用方法で、時間とお金と労力をかけて人材を集め、時間をかけて育成しますが、離職してしまう方が多く、慢性的な人材不足が続いているという経営者の話をよく耳にします。
そもそも、なぜ人材不足なのでしょうか?指定基準を満たすことができないレベルは論外ですが、指定基準はクリアしているものの新規依頼を受けるためには人材が不足している、またはすでに受けているサービスの規模を維持していくためには人材が不足しているというケースが多いのではと思います。これはいずれも「利用者ファースト」で考えている結果です。
利用者さんに質の高い介護を届けるためには「職員ファースト」が大切
もちろん利用者さんの依頼に対応し続けていくことは大切ですし、利用者さんへのケアが一番大切だということを否定するつもりはありません。
しかし、ケアをするのは職員の皆さんです。その職員さんの健康やメンタル面、経済面、モチベーションなどがしっかりと守られていないと、良いサービスは提供できませんし、サービス提供の維持もできません。そのため、「利用者ファースト」であるために、「職員ファースト」でなければいけないのです。
「成功循環モデル」から職員ファーストを考える
成功循環モデルとは
成功循環モデルとは、組織として成果や結果を上げ続けるために必要なサイクルを示したものです。ダニエル・キム教授は成功循環モデルとして、4つの要素に着目するよう提唱しています。
4つの要素とは、「関係の質」、「思考の質」、「行動の質」、「結果の質」です。
つまり、組織として成果や結果を上げるためには、「関係の質」から介入することが重要で、逆に「結果の質」から介入すると失敗循環モデルとなるということです。
成功循環モデルを介護現場に当てはめてみましょう
では、この成功循環モデルをもとに、介護現場の課題である「人材不足」という結果に向き合ってみましょう。
「人材不足」という結果を何とかしたいと考えたときに、「とりあえず採用する」という方法は結果の質を直接改善しようとしているので、失敗します。まず、「自分の事業所が、人材不足になっているのはなぜか」という結果の原因を考える必要があります。
そうすると、1つ前の「行動の質」では、人材不足の結果が出る原因の行動を考えます。例えば、人手が足りないから丁寧に業務を教えることができず、「先輩の背中を見て、勝手に学んでもらう」ような行動が原因であったとします。
そうなると、それは「思考の質」として、「自分も昔は丁寧に教わらずに、自分で見て育った。だから新人も甘やかす必要はない」という思考に無意識になっていることに気づけるでしょう。そしてその思考に至った理由は、「新人とベテランの関係性」が原因となっているわけです。
そして、これらを整理して成功循環に当てはめると、「新人が辞めないベテランとの関係のつくり方」を事業所として本気で考えるところからスタートします。この問題と向き合うようになることで「背中を見て育て!」という関係性にはならなくなるはずです。職員さんの関係性や、職場環境の改善などが問題の解決において重要となることが、この具体例からもわかるのではないでしょうか。
誤った職員ファーストを行わないために
職員の要望を聞く=職員ファーストではない!
ただ、「職員ファースト」だからと言って、職員の要望さえ聞いておけばよいという考えも違います。
ハーズバーグは二要因理論の中で、人間の仕事での満足度は、特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるのではなく、満足と不満足に関わる要因は別物であり「衛生要因」と「動機づけ要因」によって考えられると述べています。
ハーズバーグの二要因理論とは
先述したように、ハーズバーグの二要因理論とは「衛生要因」と「動機づけ要因」に分かれています。
「衛生要因」とは給与、福利厚生、経営理念、同僚や上司との関係などです。これらは満たされたら一時的には満足感があるが、継続しません。そして不足したときには不満足につながります。
一方で、「動機づけ要因」は、達成すること、承認されること、仕事そのものへの興味関心、責任と権限、昇給や成長などを指します。これらは、不足していてもすぐに仕事の不満足にはつながりません。そして満たされていると、仕事の満足度に繋がります。この部分が満たされていると「衛生要因」が多少不足していても、仕事の満足度が下がりにくいと言われています。
これらより、「職員ファースト」を考える際に、「衛生要因」にばかり目を向けて取り組んだとしても、あまり良い結果にはつながらないということが分かります。みなさんの事業所では、どちらにバランスが傾いているでしょうか?どちらも重要ですが、私は動機づけ要因に目を向け、その中でも特に「承認」の文化がしっかりとある組織で、職員が仕事を通じて「成長」を感じることができ、自分の目標や仕事の目標を「達成」できるように人材育成をしている組織が大切であると考えています。
そして、そのような組織づくりのために「衛生要因」の充実は、手段として必要ではないかと考えます。「衛生要因」の充実だけを目的にしては組織の運営は、うまくいきません。
【取り組み例あり】職員ファーストのための事業所での具体的な取り組みとは?
私の法人(株式会社ゆりかご:茨城県水戸市)は令和6年度に「介護現場の働きやすい職場環境づくり」で厚生労働大臣・奨励賞を受賞しました。
そこで、自組織で取り組んだ具体例の一部をお伝えします。
1.理念教育
まず一番最初に取り組んだことは「理念教育」です。
皆さんは自分の事業所の理念を覚えて、現場で常に意識して実践していますか?私たちはまず、理念の刷新を行い、理念の明確化として法人の経営理念、経営方針を図示しながら、できるだけ細かく言語化し、組織のトップが考えていることを、見える化することに時間を費やしています。
私たちの理念のキーワードには、「一期一会」があり、誰に対しての「一期一会」を優先すべきか、という部分を言語化すると、一番優先すべき対象は、「職員の家族」です。そして次に「同僚・仲間」があり、その次が「利用者さん」となっています。冒頭の「職員ファースト」をより具体的に内外に示している例であると思います。
2.チームワークの可視化
そして、次に取り組んだことは「チームワークの可視化」です。
ワークエンゲージメントや、職場の心理的安全性などを尺度を利用して数値化し、部署ごとのチームワークを数値で表し、メンバーにフィードバックを行い、チームの課題やチームワーク向上のための具体的な方策を話し合う時間を作っています。
ここで要となるのは「管理者」です。多くの介護事業所では「管理者」を経験年数が長い人や、介護技術が高い人、介護知識が豊富な人などで選んでいることが多いですが、マネジメントは全くの別物です。管理者が、きちんと管理者として機能するための人材育成が鍵であると、私たちは考えています。
最後に:職員ファーストのマネジメントを意識しましょう!
どの事業所でも、基本的にメンバーは複数名います。チームの機能を発揮させるために必要なことはマネジメントです。 まずは「職員ファースト」となる仕組みをマネジメントしましょう。そして、チームを機能させていくことで、結果として「利用者ファースト」ができる事業所になれます。
これは、事業所の規模に限らず、大きい事業所や施設・小さい事業所や施設、どのような規模でも同じです。みなさん、チームマネジメントを学び、組織を共に育てていきましょう。
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