キャッシュレス社会 進むか、自治会費の電子決済 厚木市内では森の里が先行
コロナ禍で注目され、利用者が増加しているキャッシュレス決済が地域の自治組織にも拡大を始めている。厚木市では、森の里三丁目自治会で自治会費の集金にスマホ決済が導入され、注目を集めている。横浜市の町内会での導入例と合わせて紹介する。
厚木市によると、市内に214ある自治会のうち自治会費の集金に電子決済を取り入れている例は森の里三丁目自治会(原田充治会長)だけだという。市の担当者は「コロナ禍をきっかけに非接触型のキャッシュレス決済による自治会費徴収の相談はあったが、実際に導入した例はあまりないのでは」という。
森の里三丁目自治会はコロナ禍で対面の集金を避けるべく、2020年4月にキャッシュレス決済サービス「PayPay(ペイペイ)」を導入した。キャッシュレス決済の導入に精通している会員がいたことも後押しになったという。
22年度までの3年間導入したところ、約450世帯のうち各年約10%〜15%の世帯がPayPayで会費を支払った。
23年度は現金のみになったが、その理由について原田会長は「特定の役員に負担がかかってしまっていた」と話す。
負担を軽減するべく仕組みを改善し、24年度から再開。20・2%(91世帯)がPayPayで支払い、利用世帯が増えてきた。
原田会長は「若い世帯を中心に好評をいただいているので、次年度も継続していく」と話している。
他市の導入事例
横浜市保土ケ谷区の岩井町原第一町内会(小石川悦子会長)はこのほど、町内会費などをPayPayで支払える仕組みを導入した。
自治会町内会は全国に約30万あるとされる。会費は会計担当者が集金で行うのが一般的だが、一戸一戸の訪問にかかる負担をはじめ、会費の紛失や盗難、会計担当者を騙る詐欺などのリスクもある。支払う側は現金を用意する必要があり、負担に感じるという住民もいる。
この町内会では、コロナ禍がもたらした非接触型の生活様式を参考に、段階的に町内会運営におけるデジタル化を促進。自治会町内会向けのアプリを取り入れ、回覧板などの情報交換をオンラインでできるようにした。2年前からは会費の集金方法に銀行振込を導入。約400世帯のうち、80〜90世帯(企業などを除く)ほどが銀行振込で支払っているという。
小石川会長は、「銀行振込でも外出する必要がある。夏場の外出は熱中症を発症する危険性が高く、こうしたリスクを減らしたかった」と考え、新たな会費の集金方法を模索した。区役所に相談し、地域で支払操作を認知している人が多いとされるPayPayの導入を検討。それでも操作に不安を抱える住民がいたが、集金の手間を省けるなどの利点が大きいことを説明し、理解が得られたという。
選択肢増やす
同町内会は地域行事で販売物を購入する際にも、PayPayで支払いができるように準備を進めている。商品の受け取りがスムーズになり、少ない人員でイベントを運営できるなどの期待値が高い。一方、支払操作が分からない人へのフォローが重要だ。
小石川会長は「キャッシュレス決済はあくまでも選択肢の一つで、無理強いするものではないと思う。実際にPayPayでの支払いを開始した後も、住民の声を聞きたい」と話す。
加入促進も
横浜市港北区の新羽町自治会(豊岡修会長)も、自治会費の集金にPayPayを導入した。
同自治会は今年から町内会運営におけるデジタル化に取り組み始めた。6月からは自治会町内会向けのアプリを取り入れ、回覧板などの情報交換をオンラインでできるようにした。
豊岡会長は「もともと町内会の会長だった人が作ったアプリ。スケジュール管理や電子掲示板、安否確認など、痒いところに手が届く機能が備わる」とその利便性を語る。さらに新たな会費の集金方法を模索しPayPayの導入を検討。導入にあたって会員にアンケートを取り、約半数の了解を得た。
年配者の中には、支払い操作に不安を抱える住民もいたが、集金の手間を省けるなどの利点が大きいことを説明し、理解が得られたという。「年配の方でもスマホを持つ方が増えているが、使いこなせていない人が多いのも事実。使えないからやらないのではなく、使えるように変えていかないと。そのためにはフォローが重要」と豊岡会長は話す。
一方で、自治会離れが進む若い世代の住民に加入を勧めたい考えを持つ。「昨今、各地で起きている災害状況を見聞きするに、地域コミュニティーの重要性は明らか。デジタル化が若者層の加入促進につながれば」という。
同自治会では、地域行事で販売物を購入する際にもキャッシュレスでの支払いができるようになった。この夏に開催した「お楽しみ会」で初めて活用し、その効果を確かめた。商品の受け取りがスムーズになり、少ない人員でイベントを運営できるなど、今後にも期待が持てたという。豊岡会長は「業務の効率化など、これからの自治会運営にデジタル化は必須。一歩一歩進めていきたい」と話している。