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自分を見失わないために、みんなと対話する。キャスト陣も憧れる賢者の強さとは|『魔法使いの約束』田丸篤志さん・仲村水希さん・花守ゆみりさん最終回直前インタビュー

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

魔法使いと心を繋ぐ育成ゲーム『魔法使いの約束』(略称まほやく)。2019年にリリースされてから、漫画や舞台などにメディア展開し、2025年1月6日からはアニメが放送されています。

アニメイトタイムズでは、アニメ『魔法使いの約束』の収録を終えた田丸篤志さん(アーサー役)、仲村水希さん(ムル役)、花守ゆみりさん(賢者役)にインタビューを実施。

最終回放送を直前に控え、アニメならではの掛け合いのある演技や、アニメで初登場となった女性賢者の印象などについて語って頂きました。

 

 

【写真】『魔法使いの約束』花守ゆみり・田丸篤志・仲村水希 最終回直前インタビュー

賢者役のオーディションが来た時はおもわず歓声

――『魔法使いの約束』がアニメ化されると聞いた時、どう思われましたか?

田丸篤志さん(以下、田丸):自分は「やっと来た!」という気持ちでした。でも、意外性はそこまでなくて。というのも、僕らの元に届くファンの反響がものすごく大きいのが分かっていたので、「もしかしたらアニメ化されるかもしれないな」と心のどこかで思っていました。ただ、アニメ化って簡単なことではないので、確実とは言えない部分もあって。だからこそ、嬉しさと「やっぱりそうだよね、『魔法使いの約束』ならアニメ化できるはずだ」という納得感、その両方の気持ちがありました。

仲村水希さん(以下、仲村):僕たちキャストにアニメ化の話が伝えられたのは、正式発表よりも前で、確かアプリのリリース3周年後のタイミングくらいだったと思います。その頃、たまたま番組でオズ役の近藤隆くんと一緒になった時に、「どこからどこまでをアニメ化するんだろうね」「できるだけ省略せず、大事に作ってほしいよね」って話していました。「どんな感じになるんだろう?」とワクワクと心配が半々くらいの心境でしたね。

花守ゆみりさん(以下、花守):分かります! 私も、発表のタイミングが4周年だったので、「ついに来た!」という感覚でした。でも、物語のボリュームを考えると、「どうやってアニメ化するんだろう?」というのが最初に浮かびましたね。

仲村:『魔法使いの約束』って、すごく大切なシーンが多いじゃないですか。どのエピソードも捨てがたいし、全部入れるとなると12話ではとても収まらない。だから、どこをどう描くのかがまず気になりました。

――賢者役のオーディションはどのタイミングだったんでしょうか?

花守:私はアニメ化が決まったことを、4周年の発表の少し前に知りました。その時、私は別のオーディション用の音源を録るために事務所のスタジオに行っていたんです。すべて録り終えて「お疲れさまでした」と帰ろうとした時に、「もう一つオーディションが来たんだけど、やりますか?」と聞かれて。

――突然ですね。

花守:そうなんですよ。スタジオの予約を取り直すのも大変だろうし、「やりますよ」と即答しました。すると「本当にやりますか?」って何度も確認されて。「なんでそんなに念を押されるんだろう?」と思いながら資料を見たら、『魔法使いの約束』って書いてあったんです。その瞬間、スタジオ内でその日一番大きな声を出してしまいました(笑)。それくらい、すごく嬉しくて!

――思い入れの強い作品だったんですね。

花守:元々ゲームを遊ばせてもらっていて、賢者歴が2年以上あったんです。『魔法使いの約束』は、大人の道徳の教科書のような、心の栄養になるような作品だと思っていて。だからこそ、「いつか映像と一緒に見られたらいいな」とずっと願っていました。まさかアニメ化されるだけでなく、賢者役のオーディションを受ける機会をいただけるなんて思っていなかったので、本当に嬉しかったです。

――オーディションを受けた時はどんな心境でしたか?

花守:「この役を取れる確率なんて、星の砂を握りしめるくらい難しいのに!」と思いながら、ドキドキしてオーディションを受けました。今思い出してもゾワッとしますね。でも、あの時「やります」と即答して本当に良かったです。

仲村:巡りあわせですね。

花守:まさに、声優をやっていて良かったと思えた瞬間でした。オーディションはテープ審査だったんですけど、当日その場で資料を見せてもらって、「これ、もう絶対に私がやります!」って即決しました。

賢者は個性が強すぎるわけではないのに、存在感のある不思議なキャラクター

――今回のアニメで、花守さんは『魔法使いの約束』で賢者を演じることになりましたが、いざ演じるとなった時はどのような気持ちでしたか?

花守:プレイヤーの皆さんが長く親しんできたキャラクターなので、プレッシャーはすごく大きかったです。でも同時に、「今まで自分が読み手として進めてきた物語だからこそ、頭の中にある賢者の声をちゃんと彼女に当ててあげたい」という気持ちも強くありました。

――すでに賢者の声をイメージしていたんですね。

花守:ちょっと不思議な話なんですけど、私の中では「賢者様って、きっとこういう風に話しているんだろうな」というイメージがすでに出来上がっていたんです。だから、アニメを見た皆さんにも「そうそう、この声で話してた!」って思ってもらえるようにしたいと思いました。自分の中のイメージをどう演技に落とし込むか、収録前はずっと試行錯誤していましたね。

――賢者はプレイヤーごとに捉え方が異なるキャラクターでもあると思います。

花守:そうなんです! いろんなプレイヤーさんの視点を通して描かれるキャラクターだからこそ、違和感がないように演じたいと思いました。だけど、それで個性が薄まってしまうと、物語の鍵となる彼女の心の動きが伝わりにくくなる。そこが一番難しかったです。

だから、今回の役作りは今までとは違いましたね。でも「十数年声優をやってきた自分ならできる!」と信じて、今の自分ができることをすべて注ごうと思いました。台本の書き込みも、他のキャラクターとは全然違うアプローチをしていて。具体的にセリフの意図を固定するのではなく、プレイヤーごとに異なる解釈ができるように、あえて抽象的なメモを書いたりしていました。

答えを一つに決めつけてしまうと、プレイヤーさんが抱いている賢者像とズレてしまう可能性があると思って。だから、色や雰囲気、動物の名前など、少し曖昧な表現を意識していました。

――確かに、賢者は個性が強すぎるわけではないのに、ちゃんとキャラが立っているのが不思議だなと思っていました。

花守:そうですよね。でも、物語の中で彼女の感情が動くことで、他のキャラクターやプレイヤーさんの気持ちも変化していく。だからこそ、感情のキーとなる存在として、絶妙なバランスを持たせたかったんです。

――本当に賢者というキャラクターを大切に演じられているのが伝わります。

花守:ありがとうございます。私自身も、ゲーム『魔法使いの約束』の主題歌「Cast Me a Spell」の歌詞にあるように、賢者の「落ち着く声」をしっかり感じてもらえるように意識していました。そして、これはどうなるか分からないんですが、賢者様ってこの世界からいなくなると忘れられてしまう存在なんですよね。すごく寂しいことなんですけれど、同時にすごくロマンティックでもあるなって。

「こんな雰囲気の人だったよね」って、ふと思い出してもらえるようなキャラクターになればいいなと思っていました。儚さと、懐かしさと、「いてくれてよかった」という安心感が最後に残るような存在にしたいなと。その点を特に意識して演じていました。

<次ページ:アニメとゲームそれぞれの魅力>

アニメで演技の幅が広がった。掛け合いによって生まれる新しい感覚

――ゲームでは一人で収録することが多かったと思いますが、アニメで実際に他のキャストと掛け合いをしながら演じた感想はいかがでしたか?

仲村:ゲームの収録では、基本的に自分の中のイメージで演じることが多いんです。相手のキャラクターがどういうふうに返してくるかを想像しながら演じるので、ある程度自分の中で完結した芝居になりがちなんですよね。でも、アニメでは実際に相手の役者さんと一緒に演じることで、想定とは違う投げ方の球が飛んでくるんです。それがもう、ものすごく楽しくて!

アニメとゲームで、また違った魅力のある『まほやく』になったんじゃないかと思うんですよ。だから、アニメから入った方も、ゲームをプレイしていた方も、それぞれの楽しみ方ができると思います。

――アニメとゲーム、それぞれのメディアで違った表現の良さがありますよね。

仲村:ゲームとアニメを行ったり来たりしながら、その違いを楽しんでもらえたら嬉しいです。アニメでは絵がついて、音楽がついて、キャラクターが動くことで、作品世界の解像度がより高まるんですよね。制作陣の頭の中にあったものが、具現化される。そうして明確に提示された『魔法使いの約束』の世界観を自分の中に取り入れて、役作りに励んでいました。

――今回のアニメで実際に掛け合いをすることで、演技にも変化はありましたか?

仲村:ありましたね。アニメでは実際に相手の芝居を聞いて、それに反応する形で演じられるので、自分の中のイメージもどんどん補完されていくんですよ。だから、次にゲームの収録をする時には、「きっと彼はこういうふうに返してくるかもしれない」と、より明確にイメージできるようになりました。

――ゲームからアニメへと演じる場が広がったわけですが、演技の幅の調整は難しくありませんでしたか?

仲村:アニメでは視覚的な情報を頼りにできるぶん、より他の部分に集中できるんです。たとえば、自分のキャラがどんな服を着ているか、どういう場所にいるか、そういう部分に意識を向けられる。だから、ゲームの収録よりも、より芝居の幅が広がったように感じましたね。

花守:ゲームの収録では、見えない相手とキャッチボールをするような感覚で。それも楽しいけれど、アニメで掛け合いをする相手がいると「本物だ!」ってなりますよね(笑)。

田丸:僕も、スノウ役の鈴木千尋さんと一緒に収録した時に、「本物だ!」って何回も心の中で思いました(笑)。

花守:現場でいろんな方が「本物だ!」って言っているのを聞きました(笑)。

――(笑)。

田丸:アニメでは、キャラクター同士の距離感が絵で分かるので、それに合わせて演じられるのも大きな違いです。たとえば、ゲームの時は「このシーンでどれくらいの距離感で話しているのか?」を自分で想像するしかなかったんですが、アニメでは視覚的に「こんな距離で話してるんだな」とわかる。だから、ゲームの時とはまた違う感覚で演じることができました。

でも、これは不思議なんですけど、僕自身はアニメになってもゲームと大きく演じ方を変えたという感覚があまりないんです。

――それはどういうことでしょうか?

田丸:たとえば、ゲームの収録では、賢者様に対して話す時に、性別を意識せずに演じていました。『魔法使いの約束』は男性賢者としても女性賢者としてもプレイいただけるので、どちらかに偏ることなく、誰にでも違和感がないように演じる必要があったんです。でも、アニメで賢者様に声がついたことで、自然とその演じ方が変わるのかな? と思っていたんですが、実際に収録してみたら、まったく変わらなかったんですよね。

――それはすごいですね。意識していなくても、自然と馴染んだということでしょうか?

田丸:そうなんです。賢者様に声がついたことで、掛け合いがより明確になったはずなのに、演じている感覚としては、ゲームの時とほとんど変わらなかったんです。それがすごく不思議でしたね。もちろん、アニメでは瞬発的なアドリブが生まれることもありますが、自分の中ではアーサーはずっと同じままでいられた。これは、自分でもちょっと不思議な体験でしたね。

花守:たしかに! 私もアニメを見ていて思ったんですが、アーサーってずっと変わらないんですよね。それこそ、膝をついて話すシーン(第4話)なんかも、「あれ? これゲームの時と同じ感覚で見たことある!」って思いました。田丸さんの中でのアーサーの軸がブレてない感じがしたんですよね。

田丸:変わってないですね。アーサーって、相手の立場や地位によって態度を変えたり、上下関係を意識しすぎたりすることがないんです。だから、ゲームの中で5年という時間が経っても、彼自身の本質的な部分は変わっていないんじゃないかなと思っています。もちろん、彼自身の成長や周囲の変化の影響はありますが、大元の部分は変わらない。そういう意味では、演じる上で一つの軸が作りやすかったのかもしれませんね。

「ゲームの演技をなぞろう」という雰囲気はまったくなかった

――これまでご自身が演じるキャラクターについてお話しいただきましたが、逆に、他の方がキャラクターを演じる姿を見て、どのように感じましたか?

花守:「本物だ!」って思いました(笑)。

――(笑)。実際に演じている姿を見ると、より実感が湧きますよね。

花守:そうなんです。皆さんはもう5年以上演じられているキャラクターなんですよね。ゲームのリリース前から声を吹き込んでいたわけですし、すでに役として確立されているから、私は「大船に乗ったつもりで大丈夫!」って思いながら、収録現場にいました(笑)。一方で、私は新しく加わる立場だったので、最初は自分の声をどう作るか模索していました。

――長年キャラクターを演じてきた方々と一緒に演じるのは、プレッシャーもあったのでは?

花守:でも、現場では「ゲームの演技をなぞろう」という雰囲気はまったくなくて。むしろ、アニメーション作品として、新たに演じようとする姿勢の方が強かったように感じました。だから私も、言葉のキャッチボールを大切にしよう、相手の声にしっかり耳を傾けよう、という気持ちで現場にいましたね。

――すごくいい環境ですね。

花守:本当に皆さん優しくて。私はもう、「壁!」と思いながら(笑)。でも、賢者としてお話を聞く立場ではあるので、ちゃんと真ん中に座ってお話を伺っていたんですけど、田丸さんも鈴木さんも、すごく話しかけてくださって。特に鈴木さんは、たくさんお話ししてくださって、すごく温かい現場でした。

仲村:第1話の収録では、花守さんは気負ったりしてました?

花守:緊張はしてました!(笑)

仲村:僕は「新しいファミリーが増えるんだ!」ぐらいの感覚でしたね。「よく来たね!」みたいな(笑)。母親目線というか、皆そんな雰囲気でした。でも、花守さんは長年続くコンテンツに入ってくることで、相当プレッシャーもあったと思うんですよね。そんなプレッシャーをものともせず演じてくださったので、すごいなと思いました。

花守:ありがとうございます! 原作の言葉にもあるんですが、不安を感じるということは、それだけ楽しみでもあるってことなんだなって思うようにしていました。不安に心を傾けるよりも、「こんなにドキドキするってことは、それだけワクワクしてるんだ!」って思って、気持ちを前向きに持っていくようにしていましたね。

<次ページ:賢者は“考え続ける人”>

賢者は“考え続ける人”。キャストも憧れる彼女の強さとは

――賢者というキャラクターに対して、どんな印象がありますか?

仲村:やっぱり、晶(賢者)って素直な子なんですよ。演じていてすごく思ったんですけど、第1話でドラモンドたちがいろいろ話しかけてくるシーンや、ヒースクリフたちが真剣に語りかけてくれるシーンがありますよね。あの時、晶は「どっちが本音で私に話しているんだろう?」って冷静に見極めてるんです。最終的に魔法使いたちと一緒に行くことを選びますが、あれがあったからこそ、魔法使い側も少しずつ心を開いて、晶と友達になっていく流れが生まれたんだと思います。

もし、なんとなく流される形で魔法使いたちについて行っていたら、もっと関係性を築くのに時間がかかったんじゃないかなと思います。晶の素直さがあったからこそ、彼らとの距離が縮まっていったんじゃないかなと。

花守:もし晶が何も考えない人だったら、多分ドラモンドたちのほうについて行ったと思うんです。でも、ムルも言っていたように、晶は“考え続ける人”なんですよね。ドラモンドたちは、晶にとって都合のいいことしか言わない。でも魔法使いたちは、彼女にとって都合が悪いこともちゃんと伝えてくれる。どちらも情報を提示してくれるということは、魔法使いたちは嘘をつかずに本当のことを言ってくれるかもしれない。そう考えて、彼らについて行くことを選んだんだと思います。

仲村:あの素直さって、実はなかなか持てるものじゃないと思うんです。第9話のラストで、晶がオーエンに対して謝るシーンがありますよね。あれって、現実で同じようなシチュエーションになったら、なかなか素直に「ごめん」って言えないと思うんですよ。なんとなく言葉を濁してしまったり、気まずくなって距離ができちゃったりすることもあると思うんですけど、晶はそういう時でも真正面から「ごめんなさい」って言うんですよね。感動しちゃいました。

花守:ああやって、自分の心を限りなく相手にさらけ出して、ちゃんと本音で心を交わそうとするのが賢者様なんだなって思いました。

仲村:あのシーンを見た時、「あ、僕も心を開かないとな…」って思わされましたね。

花守:晶を演じていて、私も憧れました。彼女って、一番現実に近いキャラクターかと思いきや、実は絵本の主人公みたいな、理想も詰まっている存在なんですよね。「こういう人になれたらいいな」って、小さい頃に憧れるような。だからこそ、彼女の心が揺れるシーンには共感しつつも、時折見せる透明で強い部分に「壊れずにいてほしいな」って思うんです。そういうところが、プレイヤーの皆さんが彼女に惹かれる理由なのかなって。

仲村:彼女が迫られている選択って、「ゲームだから」とか「異世界だから」っていう特別なものではなくて、僕たちが生きている中で実際に起こり得る問題なんですよね。「ここは素直に謝ったほうがいいよな」とか、「今はちゃんと本音を伝えて、相手に助けを求めるべきだよな」とか。そういう選択を、美しいストーリーの中で提示してくれるんですよ。この作品、本当に道徳の教科書にしていいんじゃないかって思うくらいです(笑)。

田丸:何人か怖い人もいるからなあ(笑)。でも、改めて声がついたことで、賢者様のキャラクターの不思議さがより際立ったなって思います。彼女って、前に出て強く振る舞うわけでもなく、ずっと後ろで弱気になっているわけでもなく、すごくニュートラルな立ち位置にいるんですよね。

――絶妙な立ち位置です。

田丸:そうなんです。魔法使いたちは賢者様を頼りたくなるけど、彼女自身は時折、不安そうな姿も見せる。だからといって、決して押し付けがましく強く言葉をぶつけてくるわけではない。そこが本当に絶妙で、「印象が強すぎないけど、芯がある」という不思議なバランスのキャラクターになっているんですよね。

花守:主人公というより、「隣人」みたいな存在ですよね。

田丸:珍しいタイプの主人公ですよね。でも、賢者様には決断を下せる強さがあるんです。例えば、人間と魔法使いのどちらに付いていくかドラモンドに迫られた時だって、「分からないから決められない」って言う選択肢もあったはずなんですよ。でも、彼女はちゃんと考えて、自分で選ぶ。どんなに状況が分からなくても、最終的には自分で決める。その強さが、彼女の魅力なんだと思います。

賢者としての一歩を踏み出せたのは、アーサーやムルの言葉がきっかけ

――賢者を演じる花守さんにとって、アーサーやムルはどんなキャラクターでしたか?

花守:お二人がいてくれたからこそ、賢者としての成長ができたというか……。ホップ・ステップまで来て、あとはジャンプするだけ、みたいな状態になっているのが、今のアニメの段階だなって思います。

――なるほど。最初は突然異世界に放り込まれた状況でした。

花守:そうなんですよ。まったく知らない世界に突然やってきて、「あなたが救世主です」って言われて……。でも、アーサーやムルがいてくれたからこそ、賢者としての道を進んでいけるようになったんだなって、すごく実感しています。

目の前にいる相手の態度や言葉を頼りに判断しなければならない状況って、どちらを選んだとしても絶対的な自信は持てないし、不安がつきまとうと思うんです。だから、賢者様も「この人たちを信じよう」と決断した後も、不安は消えなかったと思うんですよ。でも、そんな中で「飛び込んだからこそ、もう一歩信じてみよう」と気持ちを一段上げたのが、やっぱりムルの「人生は旅さ!二度と出会えない素敵なものにあふれてる!」(第1話)っていう言葉だったと思います。

それでもやっぱり「お家に帰りたい」という気持ちは絶対にあったと思うんです。そんな中で、「あなたの力を貸してほしい」と言ってくれる人たちのために、一歩踏み出そうと決意した。そのきっかけになったのが、アーサーの「帰す方法を見つけ出したいと思っています。それまで、どうか……。私たちに力を貸していただけませんか」(第4話)という言葉だったんですよね。

――目線を合わせて伝えるアーサーの姿勢が印象的でした。

花守:はい。今は帰る手段がない。でも、彼らは自分の力を必要としてくれている。だったら、こんなに真摯に向き合ってくれる人たちのために、できることをしたい。そこが、賢者様の“使命”としての気持ちの芽生えだったんじゃないかなって思います。

――確かに、アーサーやムルがいなかったら、賢者様はもっと“ゲスト”のような立ち位置になっていたかもしれません。

花守:そう思います。でも、彼らの言葉によって「覚悟を決める」きっかけをもらった。それだけじゃなく、21人の個性豊かな魔法使いたちと関わっていく中で、彼女自身もどんどん彼らを愛おしく思うようになっていく。愛おしくなればなるほど、「彼らのために自分ができることは何だろう?」って考えるようになるんです。

でも、そうやって役割に固執しすぎたときに、オズから「名前を忘れるな」と言われる。この言葉が本当に大切なんですよね。賢者様はずっと“中間”にいる存在なんです。状況的にも、立場的にも。でも、大切な人たちが増えていくからこそ、「自分は何者なのか」という問いに向き合わざるを得なくなる。

――「自分を見失わない」というのは、賢者にとって大きなテーマのひとつです。

花守:自分を知るためには「誰かと話すこと」がすごく大切なんだと思います。だからこそ、彼女はずっと誰かと向き合っているんじゃないかなって。自分を忘れないために、皆と向き合う。皆を大切にすることで、自分も大切にできる。それが、彼女の存在の根幹なのかなって思っています。

仲村:深いなあ。

花守:彼女を演じている間、ずっと「自分を忘れない」って何だろう? って考えていました。でも、その答えは、誰かと対話することなんじゃないかって。『魔法使いの約束』のテーマのひとつとして“対話”があるんですが、それが彼女の軸にもなっているんですよね。考えれば考えるほど、この作品に心を掴まれて離れなくなるんです(笑)。

最終回は注目シーンの目白押し! オズの言葉の重みを感じてほしい

――最終回に向けて「ここを注目してほしい!」というポイントがあれば教えてください。

田丸:最終回近辺では、オズ様と賢者様の会話に注目してほしいです。オズ様って口数が多いわけじゃない分、一言一言の重みがすごくて。彼の言葉の深さがすごく際立つシーンがあるので、ぜひ見てほしいですね。ちょっと詳しく言うとネタバレになっちゃうので控えますが、あのシーンはとても印象に残っています。

仲村:それで言うと、魔法使いたちの関係性の変化も見どころですね。最初はそれぞれがバラバラで、チームとして機能していなかった部分もあるんですが、最終回に近づくにつれて、どんどん協力体制が整っていく。まさに「共に立ち向かう」姿が描かれているので、そこをぜひ注目してほしいです。

普段はムルって、花火を上げたり、人を驚かせたり、喜ばせたり…そういう“楽しい”魔法をよく使っているんですけど、珍しく戦っているシーンもあります(笑)。ムルが真剣に戦う姿って、あまり見たことがないと思うので、そこもぜひ見てほしいですね。

花守:本当に、お二人がおっしゃる通りで。魔法使いたち21人と賢者様を含めた22人が、同じ場所で一緒に戦うなんて、なかなか見られない光景ですよね。じゃあ、どうやったら皆が同じ方向に向かって歩き出せるのか? というのを考えていく中で、“トビカゲリ”という、魔法使いにとっても人間にとっても世界にとっても脅威となる存在が現れる。普段はバラバラだった彼らが、「この脅威を皆で力を合わせて取り除こう」とひとつの決断をしていく。その流れの中で、賢者様も“名前を忘れずに”一歩を踏み出すことができるんです。

――それが、賢者にとっての大きな成長の瞬間でもあるんですね。

花守:特に第12話には、賢者様が本当に「賢者」として歩み出す大切なシーンがあります。個人的には、さっきもお話に出たオズとの会話のシーンは、オーディションの時から「ここをちゃんと演じたい」と思いながら準備をしてきたシーンでした。今までゲームで物語を読んでくださった賢者様にも、今回アニメで初めて触れてくださった賢者様にも、勇気をもらえるようなシーンになっていたらいいなと思いながら演じました。どうか最後まで魔法使いたちのことを信じて、見守っていただけたら嬉しいです。

――本日は素敵なお話を聞かせてくださって、ありがとうございました!

[インタビュー/石橋悠 文/柴山夕日]

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