北見方町会 「道端の石造物に光を」 鶴見大教授と連携し、修理
北見方2丁目にある庚申塔などの石造物5点が先月、鶴見大学で文化財を専門とする星野玲子教授らと地域の連携で修理された。北見方町会(藤原忠興会長)で、石造物の管理を担当する竹内勝副会長らは「道端にある忘れられた文化財が、日の目を浴びる機会になれば」と喜んでいる。
石造物の場所は北見方第三下の交差点を玉川方面に通り過ぎてすぐ左に入った道沿いの一角。昨年5月ごろに同町会のメンバーから、管理を担当していた竹内さんのもとに「土台がぐらつき、子どもたちが遊んだりすると倒れて危ない」との声が届いた。そこで竹内さんは自身で直そうと、川崎市教育委員会の文化財課に相談。これを受け、同課職員が川崎市文化財審議会で委員を務める星野教授に相談し現地調査を実施したという。
以前からこうした相談を受けることがよくあったという星野教授。「地震で倒壊の危険なども考えられる石造物の文化財を安全に固定・維持するにはどうしたらよいか。文化財の修理でも現代の材料を用いるべきか」を思案していたという。
このため「この機会に石造物修理を専門とする熟練技能士に施工方法を学べれば」と星野教授が北見方の石造物修理を研究題材にしたいと申し出て進展。星野教授の意向と「地域の文化財を安全に維持管理したい」との町会側の思いが合致し、今回の修理が実現した。
地域の歴史刻まれ
修理は茨城県の石材施工技能士会の技能士、寺西俊雄さんに依頼。1743年に建てられた庚申塔をはじめ供養塔、馬頭観音2体、線香立と思われる付属物1点を寺西さんがモルタル等の混合物を用い地面のコンクリートや台座に固定した。
修理が完了し、星野教授は「研究課題の解決に向けた道筋ができたと感じる。これで終わりではなく、文化財を守ってきた地域の方と連携し、今後も研究を進めたい」と話し、現在報告書を作成しているところだ。
文化財課によると、この場所は、かつてあった多摩川の渡し場に近く、江戸時代には八王子、川崎に通じる三叉路だったとされる。同町会では解説板を設置するなど地域の歴史を物語る貴重な文化財として大切に守ってきたといい、同課担当者は「貴重な文化財の保存・継承に行政だけでなく地域住民の皆さんもその担い手として取り組んでいく好事例」と話す。
川崎市は地域風土に根ざして継承されてきた文化財を「地域文化財」として、その価値を伝えていく「地域文化財顕彰制度」がある。石造物は付属物を除き6基で、そのうち1番大きな地神塔は今回の修理対象外で修復方法等の課題も残るが、これを契機に「来年度、地域文化財の申請を目指したい」と竹内副会長。「地域の文化財として皆で見守っていければ。さまざまな地域に近代化以降、知られず埋もれている文化財がある。そういうものに光を当てる機会になった」と語った。