授業中に離席、脱走…「スクールカウンセリング」が通常学級から特別支援学級転籍のきっかけに【現役カウンセラーのアドバイスも】
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
何の疑いもなく迎えた入学式。なぜうちの子に補助の先生が?
タクは振り返ってみると、幼少期から発達障害の多動や衝動性が強く表れている子でした。しかし3歳児健診での担当医師の言葉、家庭環境、園の先生から指摘を受けたことがなかったなど……いろいろな要因が重なって発達障害の可能性を考えずに、小学校入学を迎えました。就学先は通常学級でした。
そして入学式の当日、落ち着きがないタクは補助の先生に手を引かれて入場してきたのです。今まで先生方には、タクの発達や進級について何も言われたことがなかったので、正に青天の霹靂でした。
通常の名前順の並びとは違って、明らかに違う列で先生と共に入場する姿を見て……あれ?やっぱりウチの子って何かある?と不安になったのを覚えています。
入学式の間は、ずっと先生が横についてくれていて、着席して楽しそうに手遊びをしているようでした。後日、先生に聞いてみると、ほかの子に付いていた支援員の方からタクが離れようとせず付いてくださっていたとの事でした。
教室で座っていられない!何でこんなことするんだろう??
通常学級で学んでいたタクは、入学してしばらくすると、少しずつトラブルが表面化してきました。
授業中に何度も教室を脱走したり、放課後の学童でも同じように脱走してしまいました。朝の登校班では「疲れた」と言ってその場に座り込んでしまったり、ランドセルを道端に置いていこうとしたり……。
私がそばにいられたら声をかけられますが、四六時中一緒にいることはできません。学校からトラブル報告の電話を受ける度に、精神疲労がどんどん蓄積されていきました。
教室から出ていくなんて、当時の私には考えられない事でした。私の小学校時代の記憶では教室から出ていく同級生はおらず、先生に叱られないように「規律は必ず守るもの」と思っていました。なので、まさかわが子が授業中に立ち歩いて教室から出て行っているなんて想像もできなかったのです。「何で立ってしまうの?皆と同じようにできないの?」と当時の私には知識も余裕もなくて、つい質問責めにしてしまっていました。
スクールカウンセラーとの出会いで支援の道へ
タクの問題行動の連絡を受けるたびに、私はタクに注意したり怒ったり話をきいたり気分転換させたり……試行錯誤をしました。しかし繰り返される教室脱走。
教室内でトラブルを起こす日々が続いて、別の子に付いていたはずの支援員の方に負担をかけることが増えていきました。私は、先生やクラスメイトに対して申し訳ない気持ちが大きくなっていくけど、行動改善ができずに日々焦りと苛立ちが積もっていきました。
そんなある日、担任の先生から「スクールカウンセリング」について教えてもらいました。学校に配置された公認心理師などの資格を持つスクールカウンセラーの方のカウンセリングを受けたり、アドバイスをもらえたりするというものです。
私がお世話になったスクールカウンセラーの先生は月に2回ほど学校に来てくれて、子どもだけ・親だけ・子どもと親などさまざまな形でお話してくれました。
物腰が柔らかく、とても優しい先生でした。当時の私は子育てだけではなく、仕事や義実家同居のストレスがとても大きくて……!それを踏まえて私のメンタルが安定するように親身になってたくさんの話を聞いてもらえました。タクだけではなく、私も救ってくれた恩人であり、今でも感謝しています。
特別支援学級という選択
面談を重ねていくうちに、私もタクと落ち着いて話せるようになっていきました。そして、「なんで教室を出ていきたくなるの?」と聞いてみると、タクには聴覚過敏の傾向があり、「教室がうるさい」と感じて出ていきたくなるのだと分かりました。
今までずっとワガママで出ていきたくなっているんだと、ルールを破ることに罪悪感がないんだと思い込んでいた私。タクなりにきちんと理由があったことを知りました。それが分かった時はショックでしたが、より一層タクの学校生活に向き合っていかなくてはと思いました。
そしてついに小1の秋ごろ、「次年度から特別支援学級への転籍を考えてみてください」とお話がありました。
正直なところ、転籍を打診されてすぐはマイナス思考のほうが大きかったです。しかしWISC知能検査、小児神経科の受診を進めるうちにだんだんと私の心に変化がありました。教室にいるだけでストレスを感じてしまう通常学級よりも、タクの特性を把握してくれている支援の先生に見てもらうほうがタクにとって良いんじゃないのか……?と。
読み取る力が弱いタクは、国語や算数の文章問題が苦手なようでした。でも、横に付いて問題を声に出して読んであげると理解できるのです。通常学級では横に付いてここまで細かく指導してもらうことはできないけど、特別支援学級であればそれが可能です。
特別支援級を見学をして説明を受けるうちに、今のタクにとって必要な手厚い指導が受けられるありがたい場所なんだという意識が芽生えていきました。
実際に発達障害の診断を受けるまでには、大変な思いやトラブルもありましたが、あの期間と向き合ったからこそタクにとって良いと思える選択ができたんだと思います。
仕事を休んでスクールカウンセリングに向かうのは罪悪感もあって、時間的に負担を感じることもありましたが、何よりも大切な時間だったと思います。スクールカウンセラーの方が担任の先生と保護者の中間に立ってくれて、的確な助言をくださったおかげでうちの家族は支援に繋がれたのだと思います。
こうしてタクは小2の進級のタイミングで特別支援学級に転籍することになり、中3の現在も特別支援学級で学んでいます。将来のことを考えると不安になる時もありますが、あの時に特別支援学級に転籍するという決断は正しかったと胸を張って言えます。これからもタクの良さが生きる環境で、輝いていってほしいと願います。
執筆/もっつん
(監修:初川先生より)
タクくんが小学校入学後、教室から出てしまうことなどが続き、スクールカウンセリングを通して特別支援学級に転籍されたエピソードをありがとうございます。小学校に入学してみたら、できるだろうと思っていたのに集団生活や学習に困難さが表れ、どうしてと困惑されること、ありますね。それまでの家庭での様子、園での様子からはそこまで不適応になると思わなかったと語られる保護者の方は結構いらしゃいます。小学校という枠組み、例えば多ければ35人で一クラスで過ごすこと、45分間着席していることが基本であること、時間割が決まっていて気分が乗らなくともその時間に決められた学習に取り組むことなど、それまで経験してきたこととは多かれ少なかれ異なる環境への適応が求められます。だからこそ、「小学校に入ってから問題行動が」ということが起きる場合があるのです。
お子さんが学校でうまく過ごせていないとなれば、保護者としては困惑や焦り、怒り、不安が湧き立つことがあるでしょう。学校からの電話や連絡帳が恐怖に感じられる方もいらっしゃいます。もっつんさんは当初「何で立ってしまうの?」と責めてしまったとのこと。ここに心当たりがある保護者の方は多いと思います。初期はそうして「なんで」と疑問と怒りとが入り混じることがあると思います。
もっつんさんの場合には、担任の先生からスクールカウンセラー(以下SCと表記)に相談することを勧められたのですね。相談しようと思っていただけたのは、SCとしてとてもうれしく感じました。担任にSCへの相談を紹介されると、人によっては「担任に見放された」「うちの子は相当ひどいってことなんだ」と傷つかれる方もいらっしゃいますが、担任の先生方はお子さんが学校で健やかに学べることを願っていて、心理の立場からの助言があればもっとお子さんに良い支援や対応ができるかもしれないと考えられてSCへ繋ぐことをされています。校内のリソースとして、SCを気軽にご活用いただければと思います。
SCとの相談では、保護者の混乱する思い、不安、怒りなどもうかがい、保護者の方がまずは落ち着いてお子さんの今のつまずきや苦戦を考えられるように整えたり、保護者の方からお子さんのこれまでの育ちや家庭での様子を聞き取りながら「何でつまずいているか」を一緒に考えたり、またSC自身がお子さんの様子を観察して見取り、どんなつまずきがありそうか、そしてどんな手立てがあると良さそうかとお伝えして一緒に考えていく。そんなことをやっていきます。担任の先生と相談することでも同じようなことは達成できますが、担任の先生は直接お子さんに対応されていて、保護者からすると担任の先生の疲れた様子や表情に自責的になってしまうこともあり、そういう意味でも違う立場のSCと話すことが、話しやすく感じられる場合もあります。SCとの相談の中で、タクくんが音に過敏な面があることに気がつくなど教室の環境につらさがあると見えてきたのは何よりです。
また、今はお仕事をされている保護者の方も多いので、SCへの相談が保護者の勤務時間と重なることもあります。お仕事を休んでお越しいただくことは恐縮ではありますが、だからこそ有意義な時間、心の荷下ろしになる時間、さまざまな問題や状況を整理する時間、一緒に作戦会議する時間として機能できればと思います。
タクくんは特別支援学級への転籍されたとのことですが、そこにあたってもっつんさんが検討されたポイントも書かれていますね。タクくんの苦手さとそれをふまえた対応ができる環境としての特別支援学級。特別支援学級の種別にもよりますが、知的発達の水準やお子さんの特性・苦手さとその学級で提供できるものとを合わせて考えてみることは大事です。その準備として発達検査の受検であったり、見学・体験であったりということもあるでしょう。そうした1つひとつの検討点にしても、そこにまつわる保護者の思いの逡巡にしても、SCは一緒に考えていく存在だと思っています。うまく活用していただければと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。