ル・コルビュジエの円熟期の創作に迫る展覧会が「パナソニック汐留美術館」で開催中
モダニズム建築の礎を築いた20世紀を代表する建築家のル・コルビュジエ(Le Corbusier)の展覧会「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」が「パナソニック汐留美術館」で開催されている。建築でその名を世界にとどろかせたコルビュジエだが、同展ではコラージュ・絵画・タペストリーなど、多様な芸術表現に焦点を当て、彼の芸術家としての側面に迫る。
2019年に「国立西洋美術館」で開催された展覧会では、コルビュジエが推進した「ピュリスム(純粋主義)」の運動に焦点を当て、1918年から約10年間の活動を振り返った。一方で同展は、彼の円熟期に焦点を当て、異なる視点からコルビュジエの創作を掘り下げる。
会場では、コルビュジエが生涯を通じて追求した、絵画・彫刻・建築を一つの理念として結びつけようとする「諸芸術の統合」への取り組みを紹介。コルビュジエの思考の全貌を知る上で重要な手がかりとなるだろう。
建築家でもあり、芸術家でもあったコルビュジエ
同展は、世界恐慌の影響で機械万能主義が衰退したパリにおいて、貝殻や骨、流木といった自然物の形態が創作の着想源として注目されるようになった1930年代のコルビュジエの作品から始まる。また、フェルナン・レジェ(Fernand Léger)やジャン・アルプ(Hans Arp)ら同時代の芸術家たちの絵画や彫刻作品も展示されており、彼らの遊び心あふれる作品からは、未来を希望的に見据えた視点が感じられるだろう。
特筆すべきは、第2章で展示されているタペストリー作品。コルビュジエにとってタペストリーは、インテリアの装飾にとどまらず、転居の多い現代人のための「即席の壁」として構想されたものであり、床に敷くのではなく壁に立ち上がるように設置することが意図された。
絵画と建築を統合しようとするこの斬新なアイデアは、さまざまな分野を結びつけたいという彼の革新的な思想を象徴する一例といえるだろう。
ルシアン・エルヴェ(Lucien Herve)が撮影したコルビュジエの建築写真と、ワシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky)の版画が並列して展示されている第4章の展示も見逃せない。この実験的な構成は、未来への理想や抽象的な形態の探求といった、2人の創作に共通するテーマを浮かび上がらせるという点で興味深い。
コルビュジエの最も未来的なビジョンが紹介されている最後の展示室では、1958年の「ブリュッセル万国博覧会」のために制作されたマルチメディアインスタレーション『電子の詩』が、同館によって再現されている。同作は、映像・音・建築を統合するというコルビュジエの究極の目的を体現したもので、展覧会の締めくくりとしてふさわしいものとなっている。
会場ではぜひ、同館の常設展示室であるルオー ギャラリーに特別設置されたコルビュジエらがデザインした名作椅子や、会場内に設置されたシャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)による長椅子に座りながら作品を眺めてほしい。きっと忘れられない体験となるだろう。
建築の外側に目を向け、多様な表現に挑戦し続けた芸術家としてのコルビュジエを、見つめ直す機会にしてみては。