新連載【UNDERCURRENT / 海と街と山】#1 Choose life -- 私が山へ向かった理由
連載【UNDERCURRENT / 海と街と山】は、富山県の山奥に移住した夫婦の暮らしをベースに、海や川での釣り、森に囲まれたテントサウナのようなアウトドアでの遊び、富山の調子のいい名店などを紹介しながら、表には出ない深層的な田舎暮らしのリアルや想いを掘り下げる不定期コラムです。
#1 Choose life
2023年、富山県の山奥へ夫婦で移住した。
その背景には、前職である公安職の経験が大きく影響している。
公安職は、他の職種と比べ「死」というものの存在が近かった。
その影響からなのか、人よりも自己の死について考える機会が多かったと思う。
「いつか人は死ぬ」
ありきたりで月並みだが、その「いつか」は本当に明日にもやってくるかもしれない。
事実、29年間で “死” を意識した数は、そう多くはないが数回ある。
この事実を考えたとき、自分の生き方は自分で選びたい。
と、そんな欲望が浮かぶのはごく自然なこと。
それは物理的な死はもちろん、たとえば「人や社会に敷かれたレール」のようなものも当てはまるのかもしれない。
現代における私たちの生活は、多かれ少なかれ誰かが敷いたレールの上を走るように構築されている。
「学歴」「就職」「結婚」「子育て」——
このようなライフステージの設計は正しいことだと教えられてきた。
ただ、既存のレールが必ずしも全員のライフスタイルや価値観にあっているわけではないだろうし、どんなライフスタイルも尊重されるべきだと思う。
私は、社会や組織が決めた「仕様」の一部として「自分が自分でなくなる」ことが怖い。
心地よいがゆえに考えることをやめ、何かのただの一部にはなりたくない。
傍から見れば「何者かになりたい」や「自分が生きてきた痕を残したい」という取るに足らない承認欲求のようなものかもしれない。
その“欲求”を追い求め、私は山奥への移住を決意した。
私の欲求は単なる経済的な成功ではなく、日々の暮らしの中で自分たちらしい価値を見つけること。
本当に情熱を注げることを仕事にし、仕事と生活の境界をやわらかくすることで心地よいリズムを育てること。
「Choose life」——自分たちの生き方は自分たちで決める。
こんな生き方もあるんだ、と誰かの背中をそっと押すきっかけになるといいと企みながら、富山の自然の中での日々の暮らしから些細なハッピーを綴っていきたい。