【ロングインタビュー】「M-1グランプリ」に初チャレンジした日本最南端の漫才コンビに離島ならではのお笑い事情を聞いてみた
今年もあとわずかとなり、お笑いファンには年に1度の賞レース「M-1グランプリ」の決勝も待ち遠しい季節になった。そのM-1に石垣島在住の日本最南端漫才コンビが今年チャレンジしたという情報を聞きつけた。
離島でお笑いをするということは、どんな活動や苦悩があるのか? 観光で訪れる私たちには想像もつかない、離島芸人のリアルな実態を聞きたいという気持ちが高まり思わずコンタクトを取ってみたら、なんと快く受けてくれた。
そんなわけで日本最南端の漫才コンビに、内地(本土)の芸人たちとは全く異なる環境でどのように夢を追いかけているのか? を聞くべく、石垣島の青空の下でインタビューを敢行してみたので、とくとご覧あれ!
・日本最南端の漫才コンビ
今回、話を伺ったのは石垣島を拠点に活動する漫才コンビ「ババスペ」だ。
ツッコミ担当の代打れおさんと、ボケ担当の内原英治郎さんの2人組。宮古島も含めた先島諸島と呼ばれるエリアで唯一、そして日本最南端の漫才コンビとして活動している。
しかも芸歴2年目ながらコンビを組んで、わずか半年で地元にあるFMいしがきサンサンラジオで「ババスペのお笑い産業道路」という冠番組を持つという快挙を成し遂げた。
そんなお2人に、いつもネタ合わせをしているという八島海岸でインタビューを試みた。
耕平「それでは、よろしくお願いします! まず確認なんですが、日本最南端の漫才コンビって言っちゃって大丈夫ですか?」
代打れおさん「大丈夫だと思いますよ」
英治郎さん「ほぼ確定ですね」
耕平「ババスペさん以外の漫才コンビって石垣島にいないと……」
代打れおさん「はい、いないです。波照間(日本最南端の有人島)とか、石垣島より南には知る限りいないですね。石垣島にも今は他の事務所の先輩芸人さんはいるんですが、コンビではなくピンで活動している芸人さんなので」
耕平「近場の宮古島とかは?」
英治郎さん「宮古も、いないんじゃないかな?」
代打れおさん「あんまり聞かないですね」
耕平「じゃあ、先島諸島(宮古諸島と八重山諸島を合わせた総称)唯一の漫才コンビなんですね」
代打れおさん「で、いいんじゃないですかね。ちなみに珍しいって言うことで、デビュー前に地元の八重山毎日新聞に取り上げられました」
耕平「もう大型新人扱いじゃないですか! それで石垣島では、どういう活動をされてるんですか?」
代打れおさん「そもそも石垣島にお笑いの文化ってほとんどないんですよ。島民もテレビでは見るんですけど生で見る機会がなかったので、今やってるのは自主ライブです。僕たちがお客さんを呼んで箱を借りて、そこで漫才だったり。あとは行事の司会、イベントの司会、お祭りのネタ出演とかもやってますね」
耕平「あと、ラジオで番組も持ってるじゃないですか」
代打れおさん「もう2年目入りました。今週でちょうど1年ですね」
耕平「いやいや、半年で番組持つってすごくないですか?」
英治郎さん「意外と首切られず(笑)」
耕平「どんな経緯で番組をやることになったんですか?」
代打れおさん「これは石垣のいいところで、知り合いがどんどん繋げてくれたんですよ。ラジオも僕の知り合いの方が、そのラジオ局の社長とお知り合いで、「石垣で芸人が生まれたよ」っていうことで挨拶しに行ったら「ちょっとラジオをやってみないか」みたいな感じで決まったんです」
耕平「すごいですね! 5月に川崎で開催された『はいさいFESTA』のラジオイベントでコーナー持って、しかも有料なのに満員だったって聞きました」
代打れおさん「いや、マジでありがたかったです。ある意味、石垣に本当にお笑いがなかったからこそ結構もの珍しさじゃないですけど、どんなことをやるのかなっていうので、意外といろんなところにお呼びいただいてるっていうのはありますね」
耕平「っていうことは、競合もいないんですね」
代打れおさん「ありがたいことに、入れ食い状態です(笑)」
・離島芸人ならではの苦悩
──ここまで石垣島という離島でオンリーワンという存在から、メリットを語ってもらった。今度は逆に離島芸人ならではのデメリットについて話を聞いてみた。
耕平「でも逆に言うとお笑いの文化がないから、なかなかライブの集客とかが難しかったりしますよね?」
代打れおさん「たしかに難しいですね。ライブは基本的に、スポンサーさんの知り合いの方が持っているライブハウスをお借りして、これまでに合計3回やってます。集客はSNSで告知したりですかね」
耕平「あと聞きたいのは、この間M-1の予選に出られてたじゃないですか。ちょっと残念だったんですけど、でも2回戦までいったのはすごかったですよね。やっぱり移動のハンデってありますよね?」
英治郎さん「メチャクチャあります! 完全にハンデばっかりですよ!! マジで」
代打れおさん「お前、急に食いついてきたな!」
耕平「2回戦とかだと日程が何日かに分かれてやるじゃないですか。たしか、いつになるか結構直前までわからないんですよね」
代打れおさん「そうなんですよ、僕たちは大阪予選だったんですが、1週間切るか切らないかくらいにわかるんですよ。やっぱ大多数の人が内地に住んでるので、直前でも合わせられるじゃないですか。僕らはもう飛行機取って。で、直前になると飛行機ってめちゃくちゃ高いんですよ」
耕平「あーそうですね、たしかに」
代打れおさん「仕方ない部分もあるんですけど、1週間前に取っても候補日が3つあって、どれに当たるかわからないので」
耕平「じゃあ、もう飛行機取るってなったら結構高い?」
代打れおさん「めちゃくちゃ高かったですよ」
英治郎さん「僕は早めに取って、あっちで長いこと滞在して……って感じでやって」
耕平「でも友達とかがいて泊めてもらえるんだったらいいですけど、そうじゃないと結局、宿泊代もかかっちゃいますよね」
代打れおさん「僕は友人の家に泊まらせてもらったんですけど、こいつがもう結構長い間滞在しててホテル取ってたんで」
耕平「もう、普通に旅行レベルじゃないですか(笑)」
英治郎さん「7、8万は使ったんじゃない?」
代打れおさん「で、落ちてきたもんな。最悪」
英治郎さん「でも、いい旅行でした(笑)」
代打れおさん「いや、賞レースだから!」
耕平「大阪は結局、何日間ぐらいいたんですか?」
代打れおさん「僕、2泊3日」
英治郎さん「俺は4泊5日(笑)」
代打れおさん「めちゃくちゃ長いな、お前!」
耕平「じゃあ、もう賞レースのたびに飛行機代を使って……って感じで。オリジン(ババスペの所属事務所)だったら、事務所主催の沖縄芸人No.1を決める「O-1(オーワン)グランプリ」もあるじゃないですか」
代打れおさん「1ヶ月に1回、那覇で事務所のお笑いライブ『喜笑転決(きしょうてんけつ)』というイベントがあって、それはスポンサーさんから飛行機代を出していただいてるっていう状態なんですよ」
耕平「それはありがたいですね」
代打れおさん「宿泊はカプセルホテルとか安いところに泊まったりして、もう毎月行ってるので。本当に飛行機代を出していただいてるのがメッチャありがたいですね」
耕平「月1回行かせてもらって、いろんな芸人と交流できるのはありがたいですよね」
代打れおさん「そうなんですよ! さっきの離島のハンデの話になるんですけど、僕たちだけなんで他に一緒にやってくれる人だったり、他の芸人を見たりする機会が離島だとほぼないんですよね。なので月1回行かせてもらって、いろんな芸人と交流してネタとか見てもらったりダメ出しとかいただいたり、切磋琢磨する状態っていうのが本当にありがたいんですよ」
耕平「石垣島でやってるだけだと、もう本当に自分たちだけですもんね」
代打れおさん「島でやっていても僕らだけなんで、成長してるのかどうかもわからないし」
英治郎さん「関係性ができるのが、すごい良いですよね」
耕平「なるほど、これがもしかしたら島で他に3組とか出てきちゃったら?」
英治郎さん「もう、詰むよね……」
代打れおさん、耕平「(爆笑)」
代打れおさん「えっ、一緒に石垣島でお笑いを盛り上げたくないの?」
英治郎さん「いやだいやだ、俺らだけでいい」
代打れおさん「嫌な先輩だな! お前」
耕平「もう、オンリーワンで行きたいと」
英治郎さん「そう、需要がありますから」
耕平「そうなると、もし新しいお笑い芸人が出てきたとしたら……」
英治郎さん「普通にコ⚪︎す(笑)」
代打れおさん「コ⚪︎すなよお前! バカじゃねぇのか? 記事で使えるわけねぇだろ!!」
耕平「まあまあ、それは冗談として……ってことで」
・海に向かってネタ合わせする日々
──その日のライブのウケを左右するネタ合わせ。内地の芸人なら事務所に所属している人たちは、それぞれ特定の場所があると聞いたことがあるが、島唯一の芸人「ババスペ」が、どんなネタ合わせをしているのか? を聞いてみた。
耕平「ちなみにここ(八島海岸)で、いつもネタ合わせをされてるって聞いたんですけど」
代打れおさん「僕らには事務所も何もないので、ここに集まってぼそぼそとネタ合わせをしてます」
英治郎さん「あっちの海に向かって」
耕平「どんな感じでやってるんですか?」
代打れおさん「いや、もう普通にこうやって座って、大体ネタ考えたりするんですよ。最初どうするかみたいな感じで」
耕平「何時くらいにやってるんですか?」
代打れおさん「夜ですね。7時半ぐらいから9時ぐらいまで」
耕平「基本的には、ほぼここで?」
代打れおさん「ここですね。今月のネタをどうするかって話をして、いろいろ固まったら、もうあっちに向かってネタ合わせしてます」
耕平「夜って、この辺に人いたりするんですか?」
代打れおさん「結構いるんですよ、デートスポットでもあるので。なんで高校生とか学生のカップルとかが下でイチャイチャしてるのを横目に……」
「ど~も~ババスペです!」って感じで
・全国区を目指して
──今は離島芸人として、石垣島を中心に活躍しているババスペ。そんな2人が、これから全国区で売れ出した未来の先にどうなりたいのか? を聞いてみた。
耕平「これから将来どうなりたいとかってあります? 例えば全国区とかも狙ってると思うんですけど、すごい売れ出したら関東に住んだりとかっていう可能性はあるんですか?」
代打れおさん「それで言うと、やっぱもう賞レースでM-1にもずっと出たりして、この石垣島のコンビっていうやつで売れて、どんどん出ていけば、もう本当にあっちに行きたいっていうのはありますね。って、あれ? お前はないの??」
英治郎さん「俺は石垣に住みながら、仕事が欲しい」
代打れおさん「だから、もうその上よ。全国的に売れたらだから」
英治郎さん「いや、俺は全国的に売れても石垣から出たくない」
代打れおさん「こんな意見相違する? どうすんの?」
英治郎さん「島を潤わせないといけないから」
耕平「ああそういうことか。今の流れでいうと、英治郎さんの方がすごくいい感じに映ってますよね」
代打れおさん「じゃあ、僕もそっちで行こう」
英治郎さん「いや、お前は都会に魂を売るってことで(笑)」
代打れおさん「待て! 一気に悪いやつみたいになってるじゃない。でもやっぱ売れたいっていうのはすごいあります」
耕平「石垣島って、島の名前自体は全国的に有名じゃないですか。そこからのお笑いっていう文化みたいなのは広げていきたい部分はありますよね。「石垣にもお笑いはあるよ」っていう感じで」
代打れおさん「メッチャ広げていきたいんですけど、ちょっと問題点があるんですよね」
耕平「その問題点とは?」
代打れおさん「問題というか沖縄の芸人って結構沖縄をネタにしたりだとか、沖縄の方言を使って笑いを取ったりする人が結構多いんですよね。僕らはそんなふうに方言をいっぱいしゃべったりだとか、沖縄のことや石垣のことをよく知っている……みたいな感じではないので、そこを武器に戦っていけないっていうか何ていうんだろう……」
英治郎さん「お前、それ先輩への文句だろ?」
代打れおさん「いや、待て!」
代打れおさん「文句なんて一言も言ってないよ。じゃなくて、やっぱ石垣島ネタだけじゃ全国で通用しないかもしれないし、そこを使わなくても笑いを取れるように、どこでも通用するネタの方でやっていかないといけないなって」
英治郎さん「今は島以外のネタの方が多いんじゃないですかね?」
耕平「でも、石垣島の漫才コンビという売りとのバランスが難しいですよね」
代打れおさん「そこがね、やっぱりバランスが難しいんですよね。正直やっぱ石垣でお笑いライブやって、石垣島のネタの方がやっぱウケるんですよ。地元だし、親近感湧くし。だからそこが今葛藤じゃないですけど、ちょっと悩んでる部分というか……ちゃんと、この島を武器にしなくても笑いを取れるようにしたいです。地力を付けないといけない期間なんで」
・M-1への再チャレンジ
──最後にM-1初チャレンジで2回戦にコマを進めた経験を生かして、これからM-1をはじめとした賞レースについての意気込みを聞いてみた。
耕平「話は戻って、まだまだM-1にはチャレンジしていくんですよね?」
代打れおさん「もちろん、今年初参戦だったんで」
英治郎さん「なにせ、あと13回出れます」
耕平「なるほど、13回あればチャンスありますよ!」
代打れおさん「行けると思います。感触は掴めた気がするんで」
耕平「だって1回戦から2回戦に行けるのって、全体の10%ぐらいしかいないんですよね」
英治郎さん「そう、2回戦からが本番(笑)」
代打れおさん「いやいやいやいや、1回戦も本番だけど! ちなみに今回初めて大阪で漫才やったんですよ。全く知らないお客さんの前で」
耕平「お客さんの反応はどうでした?」
英治郎さん「マジで、ややウケ(笑)」
代打れおさん「でも、いい機会でしたね。自分たちが1年かけてきてて、結構いいネタだなと思ったのが、そこまで跳ねなかったので思い知らされました。もっとやらなきゃと……」
耕平「じゃあ最終的には、石垣の芸人さんとして当分はやっていかれるんですけど、賞レースを受け続けて結果を出して、ゆくゆくは全国区になれればって感じですかね」
代打れおさん「そうですね」
耕平「そして、れおさんは都会に魂を売るという(笑)」
代打れおさん「いや、言い方! でも、本当に売れたいですね」
英治郎さん「売れさせてください(笑)」
代打れおさん「お前、他力本願だな! まぁ、でも頑張って行きます」
耕平「今日は、ありがとうございました!」
──というわけで、インタビューは終了。今回、ババスペをインタビューさせてもらって、離島でお笑いをすることのメリットもデメリットもあるなか、それでも夢を追いかける姿勢に感銘を受けた。
飛行機代に何万円もかけて賞レースに挑戦し、月に1度は那覇まで行って他の芸人と切磋琢磨する。普通の芸人なら当たり前にできることが、離島ではすべてハードルになるということ。それでも石垣島にお笑いの文化を根付かせようとしている彼らの挑戦は、きっと島の人たちにとっても大きな希望になっているはずだ。
この日本最南端の漫才コンビが、あと13回というM-1への挑戦で結果を出して、いつか全国区で売れる日を楽しみに待ちたい!
参考リンク:オリジンlil
執筆:耕平
Photo:RocketNews24.