「学校が楽しい子」が続出する理由 「子どもが決める」「自ら行動する」主体性にあった!〔現役小学校教員が明かす〕
子どもが主体的になるための接し方・ヒントを現役公立小学校教員・大窪昌哉先生に聞く連載第1回。子どもたちが積極的に学習する授業から見えてくる、主体性を発揮できる環境づくりとそれに必要な考え方、ポイントなどを紹介します。
全国の小学校で進む「自由進度教育」実例を紹介! 「自己決定」「自己選択」「学び合い」で子どもが驚くほど主体的に子どもには好きなことを学んでほしい、何事もできるだけ無理強いしたくない……。そう考えている保護者は多いことでしょう。しかし、実生活でこれらを実践するのは難しいもの。ずっとゲームをして、全然宿題に手をつけない子どもの姿を見るとつい「早くやりなさい!」と声を荒らげてしまいます。どうしたら子どもが自分から動くのか。そのヒントを探るべく、現役公立小学校の先生を直撃。神奈川県内の学校で、子どもの主体性を大切にした授業を実践する大窪昌哉先生を取材しました。
第1回は、大窪先生が担任をしている4年生の授業をレポート。子どもたちがはつらつと積極的に学び、「学校が楽しい」と話す理由を探ります。
【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。
子どもが「作家」になる授業!?
とある日の葉山町立上山口小学校、4年1組の教室。
中をのぞくと、授業をしているはずの大窪先生の姿は見当たらず、その代わりに黙々とノートになにかを書いている子、友だちと話し合う子、一人で考え込む子といったように、思い思いに目の前の課題に取り組んでいる子どもたちが見られます。
中央には広いスペースがあり、そこを囲むようにグループを作って座るのが4年1組のスタイル。 写真:川崎ちづる
さらにぐるりと見渡すと、ようやく子どもたちに紛れて大窪先生を発見! ノートにメモを取りながら、一人の子と熱心に会話をしていました。教室内では、先生が黒板の前に立って説明し、子どもたちが黙って板書するという、「普通の授業」とは似ても似つかない光景が広がります。
この日、子どもたちが取り組んでいたのは、「作家の時間」という授業。国語から週に1時間ほどを当て、オリジナルの物語やエッセイを創作しています。なにをどんなふうに書くのか、すべて自分で決めて書き進め、完成したら製本する予定です。
真剣に自分の文章に向き合う子どもたち。 写真:川崎ちづる
2学期から開始し、この日は4回目の授業です。書く題材を考える、アイデアをまとめるといった段階を経て、すでに書き始めている子が多いように見えますが、具体的な進め方は本人に任されています。
ノートを交換して感想やアドバイスを伝え合う子もいます。 写真:川崎ちづる
静かな場所で集中して書きたい子、本で調べたい子は図書館を利用できます。 写真:川崎ちづる
授業中、大窪先生は子どもたち一人ひとりの状況を聞いて回ります。これは作家の時間で「カンファランス」と呼ばれ、困っていることなどがあれば一緒に考え、子どものヒントや発見につながるようサポートします 。
子どもたちの進捗を確認する大窪先生。 写真:川崎ちづる
作家の時間を説明したポスターが教室内に掲示されています。 写真:川崎ちづる
授業を見て驚いたのは、書かない子や何もしない子が一人もいないこと。進み具合こそ違うけれど、みんな楽しそうに、前向きに取り組んでいるのです。
授業終了のチャイムを聞いて、「もっと書きたかったのに」とがっかりした子の姿が、熱量の高さを象徴しています。
「学校が楽しい」そのわけとは?
大窪先生は今年度(2024年度)、近隣の小学校から上山口小学校に異動してきました。作家の時間のような「子どもの主体性を大切にする授業」は前任校でも実施していましたが、今のクラスの子どもたちにとっては、初めてのことも多いようです。
子どもたちに「大窪先生の授業ってどう?」と尋ねると、次のような返答がありました。
──「自分たちで決められることが増えた」「4年生になって学校や授業がすごく楽しくなった」「自分の好きなことをできてうれしい」「みんな元気になった」
子どもたちがうれしそうに話す様子から、授業や学習、学校生活を前向きにとらえ、楽しんでいることが伝わってきます。
「従来型の一斉授業の場合、子どもたちが自分で決める場面はほぼありません。どんな方法で学ぶか、ペースはどうするか、すべて教員が握っています。そういう状況では、『主体性』を発揮する機会自体が少ないんです。これでは、いくら主体的になってほしいと願っても、実際問題、難しいですよね。
だから僕は、学校生活の中で子どもたちが自分で決める、選択する機会をできるだけ多く用意したいと考えています」(大窪先生)
「作家の時間」のほかにも、自由進度学習や個人探究など、子どもたちが自分で選択・決定する学習をいくつも取り入れています。
【自由進度学習とは?】
子どもが自分のペースで学びを進めていく学習方法。一斉授業とは異なり、子どもたち自身が学習計画を立て、教材も自分で選んで進めていく。具体的な方法は実施者による。
自由進度学習では、子ども同士で教え合う姿が見られます。 写真:川崎ちづる
「一斉授業がすべて悪いわけではないですし、有効な場面もあります。ただ、子どもが自分で考えて、この方法にしようと決めてやってみる。そうした中でしか身につかないものがあると思うんです。
もちろん楽しいだけではなく、作家の時間でいえばなかなか書けない、まとまらないこともあるでしょう。だけど、自分で決めてやるからこそ工夫や試行錯誤に粘り強さが生まれるし、『できた』や『わかった』といううれしさを味わえます。それが楽しくて、『もっとやってみたい』と主体的になるんです。
そういう学びの醍醐味を、子どもたちにたくさん経験してほしいと思っています」(大窪先生)
作家の時間、一人で静かに書き進める子どもの姿。 写真:川崎ちづる
授業には「号令」も「整列」もなし
大窪先生が「主体性を発揮する機会」として大切にしているのは、授業内容だけではありません。授業の開始や終了時の「号令」も、かけていないのです。
「『これで授業を終わりにします』などと号令をかけて、強制的に意識を変えるのは簡単です。だけど、それに頼りすぎてしまうと、自分で意識をコントロールすることができなくなってしまう気がするんです。
それに、チャイムが鳴ったからといって、すぐに気持ちを変えられないこともあります。もう少し続けたい子、反対にすぐ別の場所に行きたい子もいるでしょう。そこは子どもたちの状況を優先したいと思っています。
僕から『区切りのいいところで終わらせて、次の授業の準備をしてね』などと声はかけますが、あとは自分自身で切り替える。どうすればそれができるか考えながら、自分のスタイルを見つけてもらいたいです」(大窪先生)
取材中、ライターが子どもたちに号令がない理由を聞くと、上記の内容をしっかりと理解し、説明してくれたことも印象的でした。
「きちんと話せば、子どもたちは理解してくれると感じています。
体育の授業では、必要なとき以外は基本的に整列もしていません。みんなが自分で判断して、僕の説明が聞こえる場所にいればいいだけですから」(大窪先生)
「○○すれば主体的になる」は本当?
「○○すれば主体的になる」は本当?
子どもが主体性を発揮できる機会を大切にしている大窪先生ですが、新しいクラスを担任する際に注意していることがあります。
「なにか始めるときは、まずは子どもたちに提案や説明をします。自由進度学習なら、『教えてもらうことも大事だけど、それだけだとみんなの学ぶ力は育たないと思うんだよね。だから、自分たちで学ぶ時間も取り入れてみない?』といった具合です」(大窪先生)
前述した「号令」も、子どもたちの意見を聞きつつ、具体的な運用を決めています。また、授業の進め方についても、過去に受け持ったクラスの自由進度学習やプロジェクト学習のやり方がうまくいったからといって、同じ形式を当てはめるようなことはしません。
「それまでは一斉授業が当たり前だったのに、新しい先生が異なる授業を急に始めたら、子どもたちは戸惑い、学習にネガティブな感情を抱いてしまいます。そうならないよう、子どもたちの様子をよく見て、少しずつ自己決定や選択できる部分を増やしています。
作家の時間や自由進度学習など、特定のメソッドや方法論をそのまま導入すれば、必ず子どもたちが主体的になる、なんてことはありません。子どもたちに向き合い、一緒に悩んで試行錯誤しながら進むことが大切だと感じます」(大窪先生)
1学期だけで大きな変化
取材時(2024年10月)は自ら積極的に授業に参加し、楽しそうに学んでいた子どもたちですが、学年が始まった春ごろの様子は、少し違っていたと先生は話します。
「上山口小学校は比較的小規模だからか、子どもたちがとても落ち着いていると感じます。ですが、最初は『自分で考えてやってごらん』と声をかけても、何をすればいいかわからない……という状態になることが多かったんです。しかし、この数ヵ月でずいぶん変わりました」(大窪先生)
1学期の終わりごろ、算数の授業1時間すべてを子どもたちに任せたことがありました。
「途中で数回様子を見に行ったら、一生懸命みんなで協力して学習し、いきいきとした表情を浮かべていました。確認してくれたほかの先生も、子どもたちの様子に驚いていました」(大窪先生)
総合的な学習の時間では、子どもが自分の興味のあることについて「問い」を設定し、情報収集や調査を行ってまとめる「個人探究」にも取り組みました。7月中旬には全校生徒に向けて発表会を行い、その成果をプレゼンしたといいます。
発表会は教室と視聴覚室で行いました 。 写真:川崎ちづる
視聴覚室でスライドを使って発表する子どもたち。 写真:川崎ちづる
「少し前まで『どうしたらいいですか』と僕に聞いてきた子たちが、迷いながらもテーマや方法を決め、工夫して取り組んでいる。大きな変化ですし、今後さらに成長していってくれるだろうと感じています」(大窪先生)
自分で考え決定する機会があれば、短期間でも子どもたちは主体性を発揮し、自ら積極的に取り組むことがよくわかります。
今回紹介した大窪先生の実践は学校が舞台となっていますが、その根底を貫く考えには、保護者が参考にできる部分もおおいにあります。
第2回は、小学生の父親でもある大窪先生に、子どもの主体性を削がない接し方などについてうかがいます。
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写真:竹花康
【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながいきいきとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。
取材・文 川崎ちづる