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台所から見えてくる住まう人の暮らし方、生き方とは 【NHK心おどる あの人の台所】

NHK出版デジタルマガジン

台所から見えてくる住まう人の暮らし方、生き方とは 【NHK心おどる あの人の台所】

台所は日々使う実用の場だからこそ、使い手の、ごまかしのない素(す)の姿がそのまま表現されます。その人が好きなもの、性格、生き方。今までの、そしてこれからの人生も投影する場所。だから、台所を見せてもらうと、なぜか、ワクワクと心おどるのでしょう。

台所は何を語り、何を投影しているのか? そんな気持ちで、自分の台所を改めて見直せば、さまざまな気づきがあるかもしれません。

『NHK心おどる あの人の台所』より、モデルでファッションデザイナーの雅姫さん、ガラス作家のピーター・アイビーさんのこだわりの台所を一部抜粋してご紹介します。

モデル・ファッションデザイナー


雅姫さんの台所

まさき
1972年、秋田県生まれ。東京・自由が丘の、暮らしを彩る衣食住を提案する店をプロデュースし、自らデザイナーも務める。そのセンスあるライフスタイルが幅広い世代の女性に支持され、著書に『わたしの理想のキッチン』(集英社)ほか。モデルとしての活動も長年継続。夫、娘、4匹の愛犬と暮らし、日常をつづったインスタグラムも人気。
Instagram @mogurapicassowols

台所は、自分時間を楽しむための基地。


1日は台所から始まって、台所で終わる

道具や器が、料理を支えてくれた

 雅姫さんは若くして結婚し、23歳で母になりました。

「人より早く家庭に入ったので、同年代はまだまだファッションや旅を楽しんでいた頃。でも私の関心は家へと向きました。子どもと過ごす時間が長くなるから、家の中を居心地よくしたいと思ったんです」

 インテリアも器も好きだった雅姫さんは、海外のアンティークや作家ものを集めながら、住まいを育ててきました。店をオープンしたときも、緊張せず「おうちに遊びに行くような感覚」で入れる雰囲気にしたくて、自宅からいすや雑貨を持ち込み、自らディスプレイ。そんなセンスが話題となり、メディアでライフスタイルが紹介されるようになりました。

「雑誌の連載で、器や道具の工房をあちこち訪ねたのは、すばらしい経験でした。子育てと仕事の両立で忙しい毎日だったけれど、いい台所道具に出会えると料理が楽しくなるし、すてきな器に料理を盛りつけると豊かな気持ちになれます。つくり手のかたのストーリーを間近に感じていたので、より愛着を持つようになりました」

プライベートな部屋のように、台所を整える

 1日の終わり、夕食を終えたあとも、雅姫さんは台所で多くの時間を過ごします。「リビングは家族共有の場所ですが、キッチンは自分の部屋のように好きなものに囲まれています。だからここが一番落ち着いて“自分時間”で過ごせます」

 住んでいるのは元外国人向け住宅。台所には海外製のオーブンコンロが設置され、コの字型の作業台は高さがあって広々。リビングからは独立している間取りです。「本当は、家族の気配が感じられるカウンターキッチンがよかったけれど、暮らしていくうち、扉を閉められるのは“おこもり感”があり、ほどよい切り替えになることがわかりました」

 長く居る場所だから自分の好きな眺めにしたくて、季節ごとにしつらいを替えている雅姫さん。庭から摘んできた草花や絵を飾り、お気に入りの音楽を流す。そうして夜の何にも邪魔されない時間に、新しいレシピを試してみたり、煮込み料理をじっくり火にかけたり。雅姫さんの日々に欠かせない余白です。

壁かけのCDプレイヤーで音楽を聞いて気分を上げている。
左上)アンティークのディッシュラックを壁に取りつけ、ざるやトレイをオープン収納。見た目がすてきで、湿気がこもらないのも合理的。 左下)インテリア性の高い照明を取りつけて、台所の隅々まで自分の好きなものだけに。扉の向こうがリビング・ダイニング。 右)水屋だんすは、フラワーショップで使っていたものを譲り受けた。たくさんの引き出しや、和になりすぎていない取っ手がお気に入り。

ガラス作家


ピーター・アイビーさんの台所

ぴーたー・あいびー
アメリカ・テキサス州生まれ。シアトルやべネチアで働きながらガラス制作を学んだのちに独立。2002年に来日し、愛知教育大学美術教育講座ガラスコースの教授を務めたのち、2007年より富山県在住。ガラス工房を設立し、手吹きガラスの工法を用いて、日常に根ざした器や保存瓶から、アート作品まで幅広く制作。18歳を筆頭に3人の子どもがいる。
https://peterivy.com

やりたいことはたくさんある。


用の美を備える台所は、まだまだ発展途上

窓からの眺めを優先した場所

 生活道具を生み出すつくり手は、料理好きが多いもの。自ら台所に立っていると、より使いやすくしたい、美しいものを手にしたいと自然に考えてしまうからでしょうか。ガラス作家のピーター・アイビーさんもそのひとり。

 8年前に改装を始めた古民家は、フルリノベーションといってもいいほどあちこち手をかけている状態。なかでも台所は家中で一番眺めのいい場所に設けられています。「料理をしていても、皿洗いをしていても、窓の外に庭が見えるのがいいなと思って。ほら、池に反射した光がそこに映っているでしょう? あのキラキラは、朝早い時間にキッチンに入ってくるんですよ。季節や時間によって光も影もみんな違うんです」と、壁にゆらめく影を指さします。

住みながら使いやすさを考える

 家の骨組みだけを残して解体し、ピーターさんいわく「キャンプのように寝泊まりしながら、光の入り具合を見て、どこにどんなスペースをつくろうかと考えながら」改装してきた家です。台所は、もともと仏間だった部屋。庭に向かう窓の手前にはシンクと調理台が並び、中心にこの台所の主役ともいえる古い鉄製オーブンを据えています。

「これは友人から譲ってもらって、アメリカから輸送しました。私にとってはなじみのある形で、好きなデザイン。コンロに天板をのせるだけでいろいろ焼けるのもいい。ここで調理したものをすぐに隣で食べられるように、テーブルと並べて置きました」

 畳は質感のあるタイル床に変わり、押し入れは冷蔵庫と食材を入れる棚になり、調理台の下には引き出しが加わり……。妻の依津圭(いつか)さんが使いやすいよう検討しながら、ときに職人にうまく意図が伝わらずにやり直してもらいつつ、時間を費やして改良してきた結果は、ご覧の通り。

 なぜ、ここまで手をかけるのか。ピーターさんにとっては、作品づくりと同じだと話します。「使ってみて、つくってみて、もっとよくしたいと実験的に手を動かす。家も作品も考え方は変わりません」。彼が手がけているのは、保存瓶や照明などのガラス製品。パスタや米などの食材を美しいと感じ、その様(さま)が見える容器をつくる。水を飲んでいる最中に目に入るグラスの底すらも、美しく仕上げたいと改良する。調理中や食事中、洗いものをしているとき。すべてにおいて手にするとうれしくなる道具を生み出したいと考えているのです。日々を過ごす家も、手にする道具も同じこと。「使うときに楽しくて、気持ちがいい。それが用の美だと思います」

「料理したものをすぐ食べてほしい」とガスオーブンをテーブルの真横に。長男の時瑠歌(じるか)さんをはじめ、家族が集まる場になっている。
左)奥のシンクが高いのは、ピーターさんの身長に合わせて。食材を切る際はここにまな板を渡している。手前の調理台下の引き出しには、器や道具を分類して収納。 右上)業務用冷蔵庫は棚の上段にすっぽり収まっている。上下左右の木材が新しいのは、最近取り付けたため。使いながら改良している様子が伝わってくる。 右下)アメリカから運んだガスオーブン。直火(じかび)の調節が難しそうだが「ガラスをつくるときにも火を扱うので、意外とすんなり使えました」と依津圭さん。

『NHK心おどる あの人の台所」では、ご紹介した雅姫さん、ピーター・アイビーさんのほか、横山タカ子さん(郷土料理研究家)、渡辺康啓さん(料理家)、田中ナオミさん(建築家)、寒川一さん(アウトドアライフアドバイザー)、口尾麻美さん(料理研究家)、マスミケンタロウさん(造形作家)・セトキョウコさん(料理家)の「こだわりの台所」を掲載しています。ぜひご覧ください。

試し読み

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◆『NHK心おどる あの人の台所』より
◆写真 大森忠明、山田 薫

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