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輝くいのちの宣言 ― 岩手県立美術館「柚木沙弥郎 永遠のいま」(読者レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

今年2024年1月に101歳でその生涯を閉じた、染色家の柚木沙弥郎(1922~2024年)。その75年に渡る創作の軌跡を辿る展覧会が岩手県立美術館で開催中です。

ここでは本展担当の盛本直美学芸員、また同館の展覧会関連講座のゲスト、降旗千賀子さん(&4+doキュレーター)によるお話しも交え、多くのひとを魅了し続ける柚木沙弥郎の世界をご案内します。


岩手県立美術館「柚木沙弥郎 永遠のいま」展示室入口


東京出身の柚木は戦後、岡山県倉敷市の大原美術館に勤め、そこで柳宗悦の民藝理念に出会います。工芸家への憧れを抱くと、型染の第一人者である芹沢銈介(1895~1984年)に弟子入り。染色の世界に入りました。


「柚木沙弥郎 永遠のいま」展示風景


型染の中でも柚木は注染(ちゅうせん)という技法を多用しています。注染はもともと手ぬぐいや浴衣地など小幅の布を量産するための技法で、布が芯まで染まり、裏表なく両面が染め上がるのが特徴です。

女子美術大学の専任講師となり東京に戻った柚木は、同校で学生と共にこの注染に取り組みます。また試行錯誤の末、これをさらに応用して幅広の布も染めることに成功。この「幅広注染」は柚木作品の特徴のひとつとして、今展覧会でも多数展示されています。


「柚木沙弥郎 永遠のいま」展示風景


同校で柚木に染色を教わった降旗さんは、柚木の型染の魅力を「型紙からの解放」と表現しています。柚木の師匠である芹沢や一般的な型染は、型紙を使うことでパターンをきれいに、そして均一に染めることをよしとしました。一方柚木は、時に大きな型紙を大胆に使用したり、敢えてムラや滲みをつくっており、これが作品の伸びやかさや温かさに繋がっているといいます。


(左から)《注染たすき文布》1967年 個人/《注染水玉文布》1950年代 日本民藝館/《注染幾何文布》1950年代 日本民藝館


1980年代中頃になると「これ以上同じ仕事を続けることは、自分自身の模倣となり、作るものは抜け殻にすぎない」と感じるようになります。それ以来柚木の創作は「工芸」「染色家」という枠から飛び出て、版画、絵本の原画、立体造形などその幅を広げていきます。


(左から)《コンポジションF》2003年 個人/《ぼくの心は鳥のよう》2003年 個人/《紳士と愛犬》2001年 個人/《踊るピアノ》2003年 個人

「柚木沙弥郎 永遠のいま」展示風景


柚木の創作活動にとって、旅は重要な要素でした。このうち岩手では宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』を出版し、後に民芸店となる光原社と強い信頼関係を築きます。光原社では今も包装紙や敷地内の看板などに、柚木の仕事が幾つも見られます。また3年あまり掛けて県内を旅することで賢治の世界を探し、水彩画として残してもいます。


(左から)《ハレの日のモリーオ》1993年 個人/《曇天錦秋》1993年 個人/《原野暮雪》1993年 個人/《曲がり屋が見る夢》1993年 個人


今展覧会の名称は『永遠のいま』。「毎日が新しい今日であり、それを大切に積み重ねていくことでいい人生になる」と語る柚木。生前、今展覧会の準備の際「やるなら、楽しんでやりなさいよ」、そんな言葉を盛本学芸員にかけたそうです。

災害や戦争が続き、未来が見えにくいこの世界で、私たちは時に希望を失いかけます。そんな私たちに作家は、自然から得たイメージを凝縮した模様や色彩が躍る作品を通して、いまここに存在する「自分といういのちを肯定し、そのことを明確に宣言しながら生きる」ことを伝えようとしました。


「柚木沙弥郎 永遠のいま」展示風景

(左から)《いのちの樹》2018年 松本市美術館/《木もれ陽》2019年 松本市美術館


過去に柚木の展覧会を企画された降旗さんは、「柚木先生の作品は会場によって見え方が変わってくる」とおっしゃいます。晩年、建築関連やインテリアの仕事を勢力的に行っていた柚木。民藝が根底にあるその作品は、もともと生活空間と共鳴する力を持っていたのでしょう。


「柚木沙弥郎 永遠のいま」展示風景


今展覧会は作家の初の全国巡回展として、この後、岡山・島根・静岡・東京を巡ります。これらの開催地はどれも作家と深い関わりがありました。展示は会場ごとに、それぞれ特色あるものになる予定です。

作家の旅や人生をなぞり、その土地に息づいた民藝に触れながら、各地の会場を巡るのも貴重な体験になりそうです。

[ 取材・撮影・文:Takakuma / 2024年10月26日 ]

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