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鉄道部門の売り上げついに1兆円に 日本と世界で存在感増す日立グループの針路は?【コラム】

鉄道チャンネル

日立は2024年9月、ドイツ・ベルリンでの世界最大の鉄道見本市・イノトランス2024に、イタリアで実績を持つ高速列車「フレッチャロッサ・ミッレ」を実車展示しました(写真:イノトランスオフィシャル)

北陸新幹線の福井・敦賀延伸を筆頭に、多くのニュースが駆けめぐった2024年の鉄道界も間もなくフィナーレ。今回は鉄道車両メーカーにスポットライトを当てます。注目したのは日立グループ。国内外で積極的に事業展開します。

日立の鉄道ビジネスは世界が舞台。今年5月にはフランスの大手電機・タレスの鉄道信号部門がグループ入り。その成果で2024年度は鉄道部門だけで、1兆円企業の仲間入りが確実視されます。

日立は部門別セミナー「Hitachi Social Innovation Forum(日立ソーシャルイノベーションフォーラム)」、投資家や報道機関向け説明会「Hitachi Investor Day(日立インベスターデイ)」で情報発信します。本コラムは、セミナーなどの取材から日立の針路を鉄道ファン目線も交えて展望します。

3年前に100周年

最初に日立版鉄道略史。車両メーカーとしての歴史は、1921年の笠戸工場(山口県下松市)操業にさかのぼります。日立の鉄道部門は3年前、100周年を迎えました。

戦前はSL、戦後は電車の生産で実績を挙げ、2000年代からは海外展開に力を入れ、〝世界のヒタチ〟として名をはせます。日立の国際ビジネスは「M&A(企業統合と買収)」で実績を伸ばしました。

鉄道の技術輸出で難しいのは、相手先で列車が安全に走れたり、信号がきちっと機能するのを証明すること。鉄道は各国・地域ごとに技術基準が決まっていて、海外進出では必ず技術適合が求められます。

世界の鉄道界で日本のライバルと目される中国が苦心するのも、実は技術規格への適合。その点、日立はすでにハードルをクリアしている欧州企業を買収するので、最初の関門は無理なく超えられます。

日立は2015年、イタリアの鉄道車両メーカー・アンサルドブレダなどを資本参加の形で買収。そこが契機になりました。

グループに加わったタレスの信号部門買収は年商3000億円弱。予定より遅れましたが、売り上げは1兆円を超えます。

鉄道で移動したくなる社会の実現

視点を変えて、国内外共通の日立の鉄道分野のキーフレーズを披露します。「モビリティをもっとグリーンに。グリーンモビリティを利用したくなる」。グリーンは環境負荷軽減の意で、車両や列車運行の脱炭素化はメーカーとしてある意味、当然でしょう。

私が興味を持ったのは、後半の「グリーンモビリティをもっと利用したくなる」。日立は国内、海外を問わずデジタル化やシステム化で利用したくなる鉄道を実現します。

もう少しかみ砕けば、目標は「鉄道で移動したくなる社会の実現」。実現の道筋は、①スムーズな移動、②安全・快適な移動、③移動の目的を創る、の三段階に分かれます。

実際の移動の場面を考えます。例えば、A市からB市への移動、スマートフォンのアプリを立ち上げてA、B双方の地名(駅名)を入力すると、列車ダイヤや運賃を検索して案内してくれます。

アプリは、目的地の観光も情報提供します。帰りの列車を1本遅らせ名物料理を食べれば、土地への愛着が増します。これらを総合するのが、③の「移動の目的を創る」です。

ゲートレス&ハンズフリー

アプリの真価発揮は、ここからが本番。移動手段を選択して乗車列車をクリックすれば、自動的に座席が予約されます。

改札通過は「ゲートレス&ハンズフリー」。スマホの画面を改札機にかざせば、あるいはかざさなくてもスマホを持って駅に入ればそのまま乗車できます。降車駅のゲートを出場すれば、運賃・料金が自動決済(支払い)されます。

気付かれた方も多いとおもいますが、これってつまりはMaaS(マース)。日立は交通の総合プラットフォーム(総合情報基盤)「日立グリーンMaaS」を構築して、スムーズで快適な移動を支援します。

イタリア・ジェノバで実践

日立が、国内や世界に先行してグリーンMaaSを実践するのが、人口約60万人のイタリア北西部の港湾都市・ジェノバ。

グルーブの日立レールは2022年7月から、鉄道(地下鉄)、バス、ケーブルカーの公共交通と、カーシェアなどの私的交通をデジタルネットワーク化する、スマホアプリ「360Pass」の提供を始めました。

公共交通利用は、前項で挙げた「ハンズフリー」。私的交通では、電気自動車(EV)レンタル、駐車料金決済、電動スクーターの位置確認が360Passで可能です。

決済は1日の終わりに

決済方法もユニーク。乗車のつど支払うのでなく、利用状況に応じて1日の終わりに一番安価な料金が自動的に適用されます。

さらにジェノバでは、街全体に7000個以上のセンサーが張り巡らされ、360Passの移動情報を感知して、交通機関の運行に反映させます。

日立の将来的な目標は、自動運転で利用客のドアツードアの移動を支援すること。運行管理とドライバレス(自動運転)を組み合わせた、オンデマンドの交通システムです。

ジェノバと同程度、人口60万人前後の日本の都市を検索したら、千葉県船橋市(64万人)、埼玉県川口市(59万人)、鹿児島県鹿児島市(同)、兵庫県姫路市(53万人)などがヒットしました。首都圏2市はともかく、鹿児島や姫路はおそらくマイカーが交通の主役でしょう。日立のジェノバでの挑戦は、日本の中規模都市にとってもモデルになりそうな気がします。

本サイトで最近紹介させていただいた、「日立とJR東日本が、タクシー乗り場の混雑状況を利用客のスマホに知らせる実証実験」のニュース。これも、日本版「日立グリーンMaaS」の一つといえるでしょう。

【参考】タクシー乗り場の混雑をリアルタイムでスマホにお届け JR東日本、日立などが実証実験(東京都千代田区、港区)
https://tetsudo-ch.com/12988958.html

日立のサイトでJR東日本の「駅カルテ」

ラストは、日立とJR東日本のコラボでもう一題。JR東日本は2024年10月から、新しいマーケティングレポート「駅カルテ 消費ポテンシャル」の有償提供を始めました。

レポートは、ICカード乗車券・Suicaの利用データを駅ごとに集計。特定駅を利用する乗降客が、どんな消費行動を取るのかの傾向がつかめます。流通業者が出店先を選ぶ際など有効活用できます。本サイトでは、2023年10月の「CEATEC(シーテック)2023」で詳しくレポートされました。

【参考】JR東日本・ JR西日本 鉄道運行や駅でのノウハウから得た最新技術を CEATEC2023 で展示 <海浜幕張駅 / 幕張メッセ>
https://tetsudo-ch.com/12916934.html

ここで日立が登場。データ提供するのは、日立のマーケティング情報サイト「Station Finder for Area Marketing(ステーションファインダーフォーエリアマーケティング)」。鉄道では1世紀を超す協業の歴史を持つ日立とJR(国鉄)、情報という新分野での新しいコラボの取り組みが始まります。

記事:上里夏生

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