上手いゆえに努力しない息子、下手でも努力を見せるなら応援できるけど、今の息子にお金と時間かけるの悩む問題
サッカーを始めたころから上手くて周りにもチヤホヤされてきた。それゆえ努力しないわが子。下手でもチャレンジする姿を見せてくれるなら応援できるのに、今のわが子の環境にお金と時間を使うのは正しいの? というご相談。
上手い下手よりサッカーをさせている理由を重視して、悩みが生まれることもありますね。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの知見をもとに悩めるお母さんにアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<試合に出られないから休むという息子、休むとますます出れないのではと不安と焦りで悩みます問題
<サッカーママからのご相談>
天才肌の息子の末路は?
はじめまして。サッカーをしている息子の育て方でアドバイスをいただきたく、お送りします。
息子は3歳からサッカーを始め、幼少期から上手な方で周りからはチヤホヤされて育ちました。
現在強豪チームのAチーム、有名スクールのエリートクラスに在籍していますが、周りの子達は意識が高く努力出来る子ばかりです。反面、息子は才能はあるが全く努力をせず、周りのエリート集団の中でやれてるのは今だけだと感じています。
息子に対しても「継続した努力を出来ないとこの先、今一緒にやってるお友達と同じステージでサッカーできなくなるよ!」と発破をかけていますが全く響きません。
下手で失敗しようが、挫折しようがチャレンジし頑張っているならば応援しようと思いますが、今の息子を見ていると、今の環境を与える為に親も時間とお金を注ぐ事が果たして正しいのか? と疑問に感じます。
そんな息子に親はどう接したら良いでしょうか?
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
メールの書き出しで、わが子を「天才肌」と形容してしまうお母さんに圧倒されました。すごく上手なのでしょうね。お母さんもさぞや鼻が高いでしょう。
さて、相談メールを読んで感じたことを4つほどお伝えさせていただきます。
■小学生年代でサッカーの楽しさを十分経験していれば、中学以降厳しい競争の中でも現実との折り合いをつけられる
1つめ。
息子さんはまだ8歳です。ここをまずは認識しなくてはいけません。全く努力しないとか、発破をかけても響かないなどと息子への文句を書き連ねています。たった8歳の子どものサッカーのことで、なぜそんなにイライラしてしまうのでしょうか。
小学生の時期は、親も子も指導者も、サッカーを楽しむことを念頭に置かなくてはなりません。小学生までにサッカーの面白さや楽しさをたっぷり経験していれば、中学や高校で伸び悩んだり、厳しい競争のなかで苦しい時間を過ごしたとしても、サッカーを好きだという気持ちがあれば現実と折り合いをつけられます。
小学生時代は楽しまなくてはいけない時期です。息子さんが例えば自主練をしないとか、居残り練習をしなくても本人に任せたほうがいい。
自分からもっとやろう、やりたいなという気持ちが湧き上がるのを待つべきです。
■親がカリカリしていては子育てはうまくいかない、ベクトルを自分に向けて
2つめ。
上記の私の言葉に「ああ、いやだ、いやだ。何もせずに待つなんて。私は何をすればいいかを聞いているのに」とため息が出てしまったでしょうか。
そこは申し訳ないのですが、子どもに対し何をするかを考える前に、まずお母さんはご自身の気持ちと向き合いましょう。ベクトルを息子さんにではなく、自分に向けるのです。
息子さんが強豪チームのAで、有名スクールのエリートクラスにいれば、周りもそこそこ上手いでしょう。よって、大人であるお母さんのほうが焦ってしまっていないでしょうか。
努力しない息子にイライラしてしまう。そんなところではありませんか。そのようにカリカリしていては、子育ては上手くいきません。
■子育てが結果主義ではなかったか、結局のところ親がかけたお金や時間の見返りが欲しいのでは?
そのためにも、今までの子育てを振り返ってみましょう。どんな子育てでしたか?
お母さんは「下手で失敗しようが、挫折しようがチャレンジし頑張っているならば応援するのに」といった主旨のことを書いていますが、そもそもうまくいかなくても頑張る子に育てたのでしょうか?
加えて最後に「そんな息子にどう接したらいいか」と書いてますが、そんな息子に育てたのは誰でしょうか。天に唾することになりませんか? 天に向かって吐いた毒が、べちゃりと顔にかかってはいないでしょうか。
幼少期や小学生の子どものありようについては、発達障害など親にはどうしようもないことも入ってきますが、障害はなくても精神的な発達は各々異なります。早い、遅いがあります。そこは子どもを信じて待つ以外ありません。
何かを強制したり、怒ったり、威嚇しては委縮するばかりで努力することに消極的になります。
つまり、子育てが結果主義ではなかったのか。検証が必要です。その点で言うと、ご相談文に「今の環境を与える為に親も時間とお金を注ぐ事が果たして正しいのか?」と書かれていることがとても気になります。
結局、見返りがほしいのではありませんか? であれば、それは無償の愛ではありません。かけたお金分の成果を求める条件付きの愛情とも言えそうです。
■「なぜやらないのか?」の答えは「やる気がないから」、意欲を喚起するなら言葉より環境整備を
4つめ。
息子さんに対して言った「継続した努力を出来ないとこの先、今一緒にやってるお友達と同じステージでサッカーできなくなるよ!」は単なる威嚇に過ぎません。毒を吐いているだけです。
上述した条件付きではなく、例えば「サッカーが好きならやればいいよ」とのんびり構えてみませんか。
子どもの意欲を喚起したいと思うのならば、強い言葉やお説教よりも、環境整備に務めましょう。行動分析学の専門家によると、子どもに「やる気出せ」と言うだけで終わらせるのは単なる根性論だそうです。
原因を「やる気」に求めると、「なぜやらないのか?」の答えは「やる気がないからだ」になり、同じところを回り続けてしまいます。つまり「やる気」に原因を求めると、問題は解決しないわけです。
そうではなく、楽しくサッカーをできる環境を整えてあげてください。周りの子どもは意識が高いと書かれていますが、もしかしたら厳しい大人の言うことをただ聞いている、という側面はないでしょうか。もしもそうであれば、それは意識が高いと言えるでしょうか。
もっと息子さんに「余白」を与えませんか。やるやらないも自分で判断してもらう。お母さんはいちいち頑張っているかどうかについて言及しないこと。
サッカーの試合や練習から帰ってきたら「今日は楽しかった?」と聞くだけで十分です。
どうしても何かしたいのであれば、試合のビデオを撮ったときなどにミスではなく良い部分をたくさんほめましょう。健やかな成長には安心安全な環境が必要です。
■まだ8歳、天才肌の末路を心配する前に、毒を吐いてしまう自身を変えることを考えて
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
何度も言いますが、まだ8歳です。
お母さんが望むように、自分のやっていることを継続的に努力できるとしたら、それはサッカーにどっぷりはまったり、自分の心の底からなんらかの目標が湧き上がったときです。
決して、お母さんから「まずは目標をもってごらん」と言われて持つものではありません。
カリカリして発破をかけるだけの子育てでは、思春期以降に子どもからブーンメランが返って来るやもしれません。
冒頭で「天才肌の末路は?」と心配する前に、毒を吐くご自分の末路を心配してください。変わるなら今。まだ間に合いますよ。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。