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オトナの“本音丸出し”トークにゾクゾク!「ほぼタクシー内で完結」の会話劇『ドライブ・イン・マンハッタン』

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オトナの“本音丸出し”トークにゾクゾク!「ほぼタクシー内で完結」の会話劇『ドライブ・イン・マンハッタン』

ショーン・ペン×ダコタ・ジョンソンの贅沢会話劇

タクシーを主要テーマに、あるいは物語のフックにした映画はたくさんある。ご存知『タクシードライバー』(1976年)をはじめ、リュック・ベッソン監督の『TAXi』(1998年)、ジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)、トム・クルーズ主演『コラテラル』(2004年)、ソン・ガンホ主演の『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年)などなど、挙げればきりがない。

2月14日(金)より全国公開中の映画『ドライブ・イン・マンハッタン』は、そんなタクシー車内で繰り広げられる会話劇。サスペンスやシチュエーションスリラー、アクションの類ではなく、ほとんど“車内での会話のみ”で構成されている、最近のハリウッドでは珍しい部類のヒューマンドラマだ。しかも、主演はショーン・ペンダコタ・ジョンソンという豪華さである。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

ニューヨークとイエローキャブ

旅行や仕事で訪れたことがある人ならば馴染みがあるだろう、米ニューヨークのJFK空港から市街地へ向かうタクシーの行列。マンハッタンかブルックリンか、行き先をざっくり告げると係員に促され黄色いタクシーに乗り込む。チップも考慮すると決して安くはないので配車サービスの乗り合いや、時間は3倍ほどかかるがエアトレイン~地下鉄を選ぶ人も多いかもしれない。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

いわゆるイエローキャブは現在(空港発便は)定額制になっているものの、無許可の“白タク”による乗客争奪戦=ボッタクリに注意、とよく言われる。個人タクシーの押しの強い営業はニューヨークに限らず世界中でよく見る光景だが、逆に東南アジアのトゥクトゥクなどは行き先や金額をうまいこと交渉しないと当然のように乗車拒否されたりしたものだ。

映画『ドライブ・イン・マンハッタン』では冒頭、運転手に扮するペンの妙に含蓄のある愚痴とジョークが炸裂する。クレジットカードやスマホ、アプリによって奪われた客と乗客の“生のやり取り”を懐かしむような、すっかり様変わりしたニューヨークを述懐するような軽妙なトークは、乗客に扮するジョンソンのウィットな返答によって次第にお互いのパーソナルな範囲に踏み込んでいく。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

ホンネを引き出すタクシー運転手の会話術

タクシー運転手ペンはキツめのジョークも飛ばすが、乗客ジョンソンはそれらを見ごとに打ち返す。そしてペンもその返しをソフトに拾い上げ、自然に会話を膨らませていく。しかし社会的に成功した女性であるはずのジョンソンは、スマホをいじるたびに辟易した顔を見せる。星の数ほど客を捕まえてきただけあってペンの“人を見る目”は確かで、ジョンソンを取り巻く(彼女が選んだ)状況を言い当ててしまう。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

本作が捉える挙動の端々には、ある意味エンタメを捨てた“地味なリアル”がある。ジョンソン演じる乗客がポチポチ返信する、ベタかつガチの“あるある”なチャット内容などは、吐きそうになるほどリアル。運転手ペンもステキなオジサマなんかではなく下ネタも厭わず、“諭し系”よろしくYES/NOゲームのように相手の人となりをほじくり返す。そうこうしているうちに、あくまで表面上だった(言葉遊びのような)やり取りから、じわじわと2人の過去が自身の口から明かされていく。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

クローズアップに耐える実力派キャストの顔面演技力

JFK空港からマンハッタンまで、長い渋滞を挟んで約1時間半のドライブ。描かれるのは年の差も社会的地位も、経済格差も超越した人間同士の生のやり取り。狭い車内、運転手と乗客のクローズアップがセリフを補足し、魅力的な俳優たちの好相性が観客の興味を維持し続ける。最初は舞台劇を想定していたというのも納得の構成だが、映画化によって“古き良き”ニューヨークが失われた点は強調されたように感じる。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

本作はもともと静かな会話劇を好んでいた映画ファンだけでなく、「これぞアメリカ、ハリウッド!」なノリにイマイチ惹かれなくなった人々にも刺さったのかもしれない。もちろん会話の内容が“小難しくない”ことも重要だっただろう。今すぐ2人の会話(ディベート)に参加したくなるような、誰にでも経験のある等身大の言葉だからこそ共感を呼ぶ。それでも映画の最後の十数分間は、運転手ペンと同じく“お手上げ”の衝撃度なので、お見逃しなく。

『ドライブ・イン・マンハッタン』© 2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved.

『ドライブ・イン・マンハッタン』はヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中

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