PassCode、TVアニメ主題歌となった新曲のリリースに世界をまたにかけたツアー レーベル移籍直後から攻め立てる彼女らの今を訊く
所属レーベル移籍後の最初の曲として7月9日から配信がスタートしている「WILLSHINE」は、TVアニメ『SHY』第2期オープニング主題歌。PassCodeの多彩な音楽性の一面であるキャッチーなメロディを輝かせる序盤を経て、アグレッシブな展開を遂げていく様がドラマチックだ。全米ツアーのリスケに伴って急遽決定した『PassCode Undo→Step TOUR 2024』の後、アジア5都市と東名阪を巡る『PassCode ASIA TOUR 2024』も開催されることが発表され、2024年の後半もPassCodeの勢いは止まらない。新しい環境での活動から得ている刺激、新曲に込めた想い、ツアーへの意気込みをメンバーたちが語ってくれた。
――移籍の話を聞いたのは、去年のサマーソニックの時だったんですよね?
南菜生:はい。コロナ禍の頃から「もし別の会社に移ることなったら、PassCodeも連れて行ってくださいね」「PassCodeがもし移籍することになったらついてきてよ」とか、レコード会社のディレクターさんと冗談半分で話していたんですけど、サマーソニックの楽屋で「メンバーにちょっと話がある」と深刻そうな顔で言われたんです。「何だろう?」と思ったら移籍の話で、「もちろん僕も一緒に行くよ」とのことだったので、すぐにOKしました。
高嶋楓:移籍するレーベルはアニメ方面に強いとお聞きしていたんです。メンバーもアニメが好きですし、ファンのみなさんからも「主題歌を歌って欲しい」とかよく言われていたので、そういう期待もしていました。
有馬えみり:PassCodeは10年活動してきたグループですけど、移籍は挑戦し続けることにも繋がるんだと思います。移籍してすぐに頂いた今回のアニメタイアップも新しい一歩ですし、そういう機会に繋がったのが嬉しいですね。
大上陽奈子:えみりが加入してくれてからそろそろ3年くらいになりますし、武道館というお祭りのようなことも経て、なんとなく平穏な感じもしていたんです。それはそれで楽しかったんですけど、なんとなく刺激がないというのも感じていて。そんなところに移籍のお話をいただいたので、私もワクワクしました。
――PassCodeの活動に関して「平穏」という言葉が出てくるのは、数年前だったら考えられなかったですよね。
大上:はい(笑)。壁が次々と現れるようなグループでしたからね。でも、武道館後は結構平穏だった気がするんです。
南:お客さんに興味を持っていただくことで成り立っているお仕事にとって、平穏は退屈とあまり変わらない気がします。安定を超越したものがあるのは、すごくいいことですね。この2、3年でライブの平均点が上がったと思っているので、そこを保ちつつアグレッシブにいろいろなことに挑戦していきたいです。
――移籍後も、制作チーム自体は変わっていないですよね?
南:そうですね。身近なみなさんは変わらないですけど、支えてくださる方々が増えました。だから「変わった」というよりも「広がった」ということだと思います。
高嶋:乗組員が増えたという感覚ですね。仲間がたくさんで嬉しいです。
――仲間が増えるのは、活動を続ける中で得られる喜びですよね?
南:はい。えみりとの出会いも、そういうことですからね。ご縁ってあるんです。事務所の社長とサウンドプロデューサーの平地さんが出会って、「アイドルグループを作ろう」となったのも、そうでしたし。もともとはかわいい楽曲を歌っていたPassCodeですけど、今みたいな音楽をやってみたいとメンバーが言ったのを受け入れてくださったんですよね。
――メンバーの意志と出会いによって切り拓かれてきたのが、PassCodeの活動なんだと思います。
南:そうですね。出会いを重ねる中でも、携わってくださるみなさんはずっといてくださるんです。最初のMVを撮った方も当時とは別の会社に行った後もMVを撮ってくださっていますし、いろいろなご縁が続いているグループがPassCodeです。移籍するタイミングで新しくなったロゴも、そういうことがわかりやすいかも。もともとのロゴの原型が残ったままアップデートしたものにしたくて、何個か案があった中からメンバーが選んだのが最新のロゴです。「進化はしていくけど根幹は変わらない」というのが、PassCodeの良さだと思います。
――移籍後の最初の曲が「WILLSHINE」ですが、『SHY』のオープニングですね。アニメの放送で流れる90秒はポップな要素が凝縮されているので、フル尺で初めて聴いた人はアグレッシブな展開に驚くのかもしれないです。
南:『SHY』は女の子が主人公なので、アニメで流れる部分はPassCodeのポップな「光」の要素なんです。だからアニメの世界観によっては、えみちゃんのシャウトから始まる主題歌も今後あるかもしれないですよ。PassCodeはいろいろな面を持っているグループですから、アニメを含めたどんなタイアップでもフィットできると思います。
大上:PassCodeはメロディがキャッチーな曲も多いですし、「WILLSHINE」は特にそういう面を感じていただけると思います。でも、この曲をアニメで聴いて「カラオケで歌ってみよう」ってなったら、一番の終わりからまったく歌えなくなるかもしれないですね(笑)。
有馬:シャウト担当の友だちを誘ってカラオケに行った方がいいと思います。
南:私も地元の友だちとカラオケに行くことがあって、えみちゃんのシャウトのパートは争奪戦になります。「Ray」は歌いやすいから人気ですけど、あの曲はリリースされてから結構経っているので、昔よりもクオリティが上がってきていますね(笑)。ファンのみなさんもPassCodeの曲でそういう楽しみ方をしているのかも。想像すると、嬉しいですね。
――有馬さんのパートをカラオケで歌いたい人に、何かアドバイスはありますか?
有馬:気合です。気合いで音楽を楽しむのがいいと思いますね。100年後くらいには学校の音楽の授業でも「デスボイス」という科目ができるかも。そうなったら嬉しいです。
南:授業で教える先生になるまで長生きしないと(笑)。
――(笑)。高嶋さんは、「WILLSHINE」についてどのように感じていますか?
高嶋:歌詞が良いですよね。昔から応援してくださっているファンのみなさんも就職したり、結婚してお子さんが生まれたり、いろいろな変化があるので、「それぞれみんな生きているんや」と感じることがよくあるんです。PassCodeも困難を乗り越えてきましたし、みなさんの人生にもいろいろなことが起こると思うので、歌詞にも共感しながら聴いていただけたら嬉しいです。
――『SHY』は、ヒーローを描いているアニメですけど、困難を乗り越えながらステージで輝いているPassCodeもお客さんにとってそういう存在だよなと、「WILLSHINE」を聴くと感じます。
南:PassCodeの曲の歌詞は、同じチームに書いていただくことが多いんです。ライブでPassCodeがどういうことをやっているのかをすごく大事にしてくれるチームで、ライブ中のMCの言葉を歌詞に入れてくださることがよくあるんですよね。「WILLSHINE」のような等身大の曲は、「PassCodeだからこそ歌える」という感じがあります。歌詞を書いているのはメンバーではないですけど、自分たちの言葉として歌える曲です。
――PassCodeの現在の音楽性は、強い想いがこもったMCから生まれた部分も大きいのかもしれないです。
南:そうなのかもしれないですね。アイドルがそういうMCをすることが良く思われない空気感が昔はあったんですけど、長く続けることによってそれが受け入れられるようになった気がします。PassCodeからの影響を受けていないグループでも、当たり前のように長いMCをしたり、インストのSEが流れる中で喋ったりするようになっていますから。それを違和感なくお客さんが受け入れる文化になってきていると思います。
――人生を懸けて表現しているのは、アイドルもロックバンドも同じですから、受け入れられるようになったのは自然なことだと思います。
南:PassCodeのライブは、「4人の人間としてステージに立っている」という感じがしますね。昔は「もっとロックバンド的なMCをしないと」という意識があったんですけど、今はそういう感覚なんです。それも活動を重ねてきた中での変化だと思います。
――キャリアと年齢を重ねることをポジティブ捉えられるようにもなっているんじゃないですか?
南:そうですね。「でも、若い女の子やん?」とか、良いライブをしても年齢や性別で括られることがよくあるんですけど、年齢を重ねる中で自由が広がってきたのを感じます。19歳くらいの頃は、「大人になりたくない」というのがあったんですけどね。信用できる大人たちもいた一方で、「何言ってるんだろう?」という人たちともたくさん出会ってきたので(笑)。良い人たちとも出会っていく中で、昔のような気持ちはなくなりました。
――年齢が若くて女性であるというのは、色眼鏡で見られることに繋がる場合も多いんでしょうね。
南:それで得したこともあるので、何とも言えないところもあるんですけど(笑)。でも、ライブを前面に出して活動してきたPassCodeにとっては、ウィークポイントになってしまうこともありました。
――かっこいいと同時にかわいいのは、PassCodeの誇るべき魅力ですよ。
南:ありがとうございます(笑)。
――いかつい男性ロックバンドは、どう頑張ってもかわいくなれないんですから。
南:今はかわいいことをするのに抵抗がなくなってきています。どうやっても若いキャピキャピしたアイドルには見えない年齢になってきたので、逆に何でもありになってきているところがあります(笑)。衣装も「かわいいのも着ればいいやん?」ってなってきていますし、柔軟になってきていますね。
――年齢を重ねたからこそ表現できることも、今のPassCodeにはあるんじゃないですか?「WILLSHINE」も10代の頃に歌ったら、かなり違った印象になっていたと思います。
南:『SHY』で流れる90秒の部分を10代の女の子たちが歌ったら、「かわいい曲」という印象なのかもしれないですね。
――《この自由確かめ合って未来を変えてゆこう 叶えて僕らの夢そして...》とか、PassCodeの軌跡と未来への気持ちが伝わってきます。
高嶋:人生が入っていますね。昔はなんとなく歌っていた曲も、今となってはすごくわかるようになって、気持ちをすごく込めて歌えるようになっているんです。そういうのを感じると、「生きててよかった」って思います(笑)。
――「WILLSHINE」が流れている『SHY』のオープニング映像は観ましたか?
有馬:はい。何度も観たので、「このメロディ、このリズムの時にあの映像が出てくる」というのが脳内で再生できるようになっています。今日の私が被っている帽子は、『SHY』の主人公(シャイ/紅葉山テル)が被っているフード帽子を意識しました。
大上:そうやったんや?
有馬:そういうことにしておきます(笑)。
――(笑)。PassCodeの4人がキャラクターとして『SHY』に登場しても、自然に溶け込むかもしれないと、今ふと思いました。かっこいいから忘れがちなんですけど……みなさんは、やはりかわいいんですね。
南:実はね(笑)。楽曲の方向性で、そこが隠れがちなんですよ。ビジュアルが良いことに気づいてもらえないんです(笑)。あと、PassCodeは、スタイルも良いんです。背がみんな高い方なので、「ライブで迫力がある」って言われます。
有馬:大上が162cm、南が163cmですけど、「WILLSHINE」のMV撮影の時に電話帳みたいな分厚い板が用意されていて、それに乗っていましたよ。
大上:今までの人生で「背が小さい」という扱いをされたことがなかったんですけど(笑)。この4人の中にいると、そういう扱いになるみたいです。
高嶋:私は小っちゃい頃は大きくなかったんですけどね。小学生の時の「前へならえ」は、腰に手を当てていました。
南:私もそうやった。中学生くらいで一気に背が伸びたので。
高嶋:私も高校生の時に一気に伸びました。
有馬:私も背が低くて、組体操の時に上に乗っていました。
大上:私はずっと背が高くて、組体操の時は下。成長は、中学の時に止まりました(笑)。
有馬:そういうパターンもあるんだね。
南:PassCodeは全員が160cm以上ありますから、音楽性に合っているんです。「WILLSHINE」でも、そういう部分を感じていただけると思います。
――「WILLSHINE」のダンスパフォーマンスに関して、紹介しておきたいポイントはありますか?
高嶋:サビの《ここから僕らとwill shine!!!!》の部分はキャッチーで簡単な振り付けなので、ライブでお客さんと一緒にできたら楽しいだろうなと思っています。
南:《僕らを繋いだ約束だから》のところで約束をするようなポーズになっていたり、《僕の心を込めて》でハートを作ったり、歌詞に沿った振り付けがたくさんあるんです。
――アニメの曲ですから、海外からの反応もかなりあるんじゃないですか?
南:『SHY』は、海外のファンもたくさんいらっしゃるんです。SNSの感想も、いろいろな国の言葉があります。PassCodeがオープニングテーマを歌うことが発表されて、「WILLSHINE」が流れるPVがXに投稿された時、「この曲、合ってる」って、海外のみなさんも盛り上がってくださっていました。すごく嬉しかったですね。
高嶋:『TO BE HEROINE』のオープニングテーマだった「Ray」も、YouTubeのコメントの半分くらいが海外からなんです。もしかしたらアニメの影響もあるのかもしれないので、「WILLSHINE」もそうなっていったらいいですね。
――9月11日にリリースされる「WILLSHINE」のシングル盤にはカップリングの曲も収録されますが、どのような感じになりそうですか?
南:今日、この後にレコーディングなんです。ちょっと面白い感じというか、今までになかった感じの曲ですね。「WILLSHINE」と全然印象が違うと思います。
――限定盤のBlu-rayには、2月に開催された『PassCode Zephyren 10th Anniversary A.V.E.S.T project 鼓動at 国立代々木競技場第一体育館』の映像が収録されるんですね。
南:はい。フルで収録されるみたいです。そちらも楽しみにしていただきたいです。
――8月1日からは『PassCode Undo→Step TOUR 2024』が始まりますが、予定されていた全米ツアーがリスケになって、急遽決まったんですよね?
南:はい。全米ツアーのためにスケジュールを空けてしまっていたんです。例年はフェスとかもあるのでワンマンライブの予定をあんまり組まないようにしていた時期なんですよ。全米ツアーのリスケが決まってから2週間くらいでスタッフさんが各地の会場を押さえてくれたので、「うちのチームってすごいな」と改めて思いました。
大上:ファンのみなさんも楽しみにしてくださっています。約1ヶ月の間にこんなにコンスタントに何本もライブがあるツアーは久々というか、自分たちのワンマンツアーでは初めてだと思います。
有馬:ワンマンの尺で1週間に2、3回のペースでライブができるんですよね。各地でライブをやる中で内容がどう変化していくのかも楽しみです。
高嶋:最近ワンマンでは行っていなかった場所とか、初めて行く地域もあるツアーなんです。自分たちからみなさんに会いに行ける機会になったのも嬉しいです。
――このツアーの後は、アジアの5都市の後に東名阪も回る『PassCode ASIA TOUR 2024』がありますね。
高嶋:はい。北京、広州、上海でのライブは、初めてです。
南:去年もUSツアーがあったんですけど、「日本とは違うことをしなくてはいけない。日本語が通じないから全部英語で話さなくてはいけない」というような気負いがあった気がするんです。でも実際にアメリカでライブをしてみて、「いつもと違うことをする感覚でなくてもいい。今までにやってきたことのままでいいんだ」って思えたんですよね。だからアジアツアーも、そういう気持ちで回りたいと思っています。
取材・文=田中大 撮影=ヨシモリユウナ